第1話:影精霊との出会い
「光が英雄を照らすなら――影はその背を守る。」
“支える力”で仲間を導く参謀の物語、ここに開幕。
アークレイン王国の東にそびえる《アルセリア王立魔法学園》。
白い尖塔が朝霧の中に浮かぶその学び舎は、王国中の魔導士志望が憧れる名門校だった。
だが、その訓練場の片隅で――ひとりの生徒が項垂れていた。
「……また、失敗か。」
ライゼ=クロード。二年次の魔導士科に所属するが、入学以来ずっと“落ちこぼれ”と呼ばれている。
ライゼは黒髪を短く整え、灰色の瞳に薄い疲れを宿していた。細身の体に学園制服を質素に着こなし、右手の指抜き手袋には練習の擦り傷が新しく残る。
魔力量は平均以下、攻撃魔法の適性はゼロ。今日の実技試験も、彼の放った魔弾は目標に届く前に霧散してしまった。
「分析は完璧なのに、出力が伴わない……やっぱり俺には無理なのか。」
背後で同級生たちの笑い声が響く。
「またかよ、クロード!」「戦場じゃ足手まといだな!」
――その言葉を、彼は黙って受け流した。悔しくないはずがない。けれど、彼の頭には常に冷静な思考があった。
(戦いは力だけじゃない。勝つための“手”は、きっと他にもある……)
* * *
その夜。学園の地下に封印された「古代魔法研究棟」に忍び込んだライゼは、ひとつの魔法陣を見つける。
埃をかぶった床に刻まれた、黒い輪と複雑な紋章。淡い紫の光が、彼の足元から脈打つように広がった。
「……反応してる? いや、まさか。」
指先を伸ばすと、影が蠢く。
―――《我を呼んだのは、お前か、人の子。》
耳の奥に響く低い声。冷たい風とともに、黒い影が立ち上がる。
霧のような黒が人の輪郭を象り、二つの紅い瞳だけが夜の残光のように瞬いた。声は低く、古い石のように乾いている。
「……誰だ、お前は。」
《我は〈影精霊〉、名をノクト。長き封印を破りし契約者よ……お前の名は?》
「……ライゼ。ライゼ・クロード。」
《ならば告げよう、ライゼ・クロード。
我と契約を交わすなら――お前の影は、すべての仲間の影と繋がるだろう。》
瞬間、魔法陣が眩い光を放ち、ライゼの影が地面から浮き上がる。心の奥に、確かな“何か”が刻まれた。
――スキル【影精霊契約】を獲得しました――
「……これが、俺の“スキル”……?」
それは、自らを支えるための力――いや、仲間を支えるための覚醒だった。
* * *
契約の光が消え、空気が冷え、影が深く伸びる。中央に、黒い精霊――ノクトが静かに浮かぶ。
《契約は完了した。以後、我はお前の影に宿る。》
「……お前の力、俺に扱えるのか?」
《使えるかどうかは“意志”次第だ。お前が誰を守り、何を信じるか――それが契約の鍵となる。》
不思議と恐怖はない。むしろ、心のどこかが熱を帯びていた。
(誰を守るか、か……俺にはもう、守りたい仲間がいる。)
その夜、ライゼはひとり誓う。
“この力は、誰かを支えるために使う”と。
* * *
翌日。訓練場はざわめいていた。模擬戦の対抗試験――上位生と下位生がチーム戦で競い合う。
ライゼの所属チームは全員が下位組。相手は光属性の天才《エルフィナ=リュミエール》を中心とした最強チームだった。
「ライゼ、作戦どうするの?」
緊張した仲間の声に、彼は静かに頷く。
「俺に任せてくれ。全員、少しだけ距離を詰めて――影を重ねるんだ。」
影と影が触れ合い、一本の線で繋がる。
――スキル【影精霊契約】発動。
仲間たちの体に黒い紋が走り、動きが一瞬で鋭くなる。視界の共有、反応速度の向上、魔力の流動化。
まるで一つの意志で動くように、彼らの攻撃が連携した。
対戦相手のエルフィナが目を見張る。
ライゼは一歩前に出て、静かに笑った。
「これが俺の戦い方だ。――支援こそ、最強の戦術だ。」
眩い閃光ののち、審判の声が響く。
「勝者――ライゼ=クロード班!」
歓声と驚きの中、エルフィナは敗北を認めながらも微笑み、ライゼを見つめた。
「あなた……ただの“落ちこぼれ”じゃなかったのね。」
彼の背で、ノクトの声が静かに囁く。
《ようやく、お前らしくなったな、契約者。》
影は光と共に在る。
そして彼の物語は、いま始まったばかりだった。
読んでくださってありがとうございます!
「支える力」をテーマに、影の精霊と歩む参謀主人公の物語を書いています。
面白かったらブクマ・★評価・感想をいただけると励みになります!
次回は【第2話:光の天才、影の契約者】を予定しています。




