第9話 自由都市と新たな仲間
王都を後にして数日。
俺たちは街道を越え、ついに辺境の自由都市――ガルディアへ辿り着いた。
「……すごい」
門前に立った俺は、思わず息を呑んだ。
高い石壁に守られた城郭都市。だが王国の王都とは違う。人々の服装は多様で、獣人やエルフ、さらには亜人の商人たちまでが入り混じっている。
活気と喧騒、そして自由の匂いが漂っていた。
「ここなら、王国の追手も容易には手を出せません」
エレノアが安堵の声を上げる。
「信仰も政治も異なる……まさに自由の地です」
「ふん、だが油断はできん。リオネルの手は長い」
ルシアは槍を担ぎ、険しい目で周囲を見渡す。
セリシアは一歩前に出て、凛とした声を放った。
「ここで、私たちの旗を立てましょう。アルト殿を中心に――“最強のパーティ”を」
その言葉に、胸が高鳴る。
俺は、ただの従者じゃない。もう逃げているだけじゃない。
ここからは、俺たちが戦う番だ。
◇ ◇ ◇
宿を確保し、俺たちは街を散策した。
自由都市には冒険者ギルドや商会、傭兵団がひしめき、情報も人材も集まっている。
「アルト殿、この街で仲間を探しましょう」
セリシアが地図を広げる。
「剣に秀でた者、魔術に長けた者……いずれもあなたの補助を受ければ真価を発揮します」
「でも……簡単には見つからないだろうな」
俺は肩を竦める。
「実力者は、どの組織にも引っ張りだこだろうし」
「なら、見せればいい」
ルシアが笑った。
「お前の力を一度でも体感すれば、誰もが欲しがる。――あの禁忌の魔騎士戦のようにな」
確かに。俺の力は派手じゃない。だが一度使えば、その真価は誰の目にも明らかだ。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルド。
中は酒場を兼ねた広いホールで、逞しい戦士や魔術師たちが卓を囲み、依頼の張り紙を眺めていた。
「お、嬢ちゃん方。王都の騎士の格好に、聖堂の巫女服……珍しいな」
ごろつき風の男が絡んできた。
「ここは自由都市だ。王国の肩書きは通用しねぇぞ」
「下がりなさい」
セリシアが剣を抜こうとしたが、俺は前に出た。
「待ってくれ。俺がやる」
男の腕に触れ、補助を流す。
「……うっ」
ごろつきの目が驚きに見開かれる。
「な、なんだ……力が……身体が軽い……!」
「これが俺の力だ」
俺は静かに言った。
「仲間を強くする。誰よりも」
その様子を見ていた他の冒険者たちがざわめいた。
「今のは……何だ?」
「補助系スキルか? だが、あんなに一瞬で……」
ルシアが笑みを浮かべる。
「ほらな。お前の力はここでも通用する」
◇ ◇ ◇
その夜。
ギルドの裏手で、俺たちは一人の冒険者と出会った。
「……あんたがアルトか」
現れたのは若い魔術師だった。赤毛を乱し、片目に眼帯をしている。
「噂になってるぜ。“触れただけで力を十倍にする男”だってな」
「噂って……もう広まってるのか」
俺が苦笑すると、男は真剣な目を向けてきた。
「俺はジーク。王都から逃げてきた冒険者だ。リオネルのやり口に嫌気が差してな。……もしよければ、仲間に入れてくれ」
セリシアとエレノアが驚き、ルシアが槍を傾ける。
「何者か分からん奴を、簡単に信用はできん」
「それなら試せばいい」
ジークは手を差し出してきた。
「本当に力があるかどうか、あんたの補助で試してくれ」
俺は迷わず、その手を取った。
瞬間、魔力が共鳴し、空気が震える。
「……すげぇ……! 魔力の回路が、滝のように流れ込む……!」
ジークの瞳が輝き、次の瞬間、指先から紅蓮の炎が迸った。
ギルドの裏庭を一瞬で赤く染めるほどの大火球。
「これなら……俺も戦える!」
◇ ◇ ◇
「アルト殿、これは……」
セリシアが目を見開く。
「彼が加われば、我らの力はさらに増す」
「神の導きでしょう」
エレノアが祈る。
「……面白い」
ルシアが口角を上げる。
「よかろう。仲間として迎えよう」
俺は頷いた。
「ようこそ、ジーク。これから一緒に戦おう」
ジークは力強く拳を突き出した。
「よろしくな、アルト」
◇ ◇ ◇
その頃、自由都市の別の路地。
黒衣の刺客がひそひそと声を交わしていた。
「奴らはここに根を張るつもりらしい」
「リオネル殿下の命はひとつ。アルトを必ず仕留めろ」
暗闇に光る刃が、俺たちを狙っていた。
――自由都市での新たな戦いが、幕を開けようとしていた。