第8話 戦火の幕開け、王都の反乱
禁忌の魔騎士を討ち倒した翌朝。
村は歓喜に包まれていた。人々は俺たちを英雄のように迎え、供え物や食料を差し出してくれた。
「アルト殿、ありがとうございます!」
「殿下、聖女様、竜騎士姫様……どうかこの村をお守りください!」
俺は微笑み返しつつも、胸の奥に重い影を感じていた。
――リオネルは、これで終わる男じゃない。
◇ ◇ ◇
その予感はすぐに現実になった。
昼過ぎ。村に届いたのは、王都からの急報だった。
「王都で反乱が起きました! 第二王子リオネル殿下が軍を掌握し、“第一王女セリシアと従者アルトは国を裏切った反逆者”と布告されたのです!」
「……なっ!」
セリシアの顔が蒼白になる。
「兄上が……そこまで……!」
「民衆は混乱し、王城の兵までもリオネルに従っていると」
伝令は震える声で続けた。
「殿下とその仲間を捕らえよ、との勅命が全土に出されています」
「……つまり、俺たちは国を挙げての“追われる身”になったってことか」
思わず苦笑が漏れた。
ついこの前まで「最弱従者」と笑われていた俺が、今や“国を裏切った大罪人”扱いとは。
「アルト殿、笑い事ではありません!」
セリシアがきっぱりと叱責する。
「これは冗談でも誤解でもない。私たちは本当に国を敵に回したのです!」
「殿下……」
エレノアが苦しげに祈りを組む。
「ですが、神はきっと見ておられます。真実は必ず……」
「真実だけでは民衆は動かん」
ルシアが冷徹に言い切った。
「奴は“反逆者”という旗を掲げて兵を動かした。ならば、こちらも“力”で示すしかない」
◇ ◇ ◇
その夜。焚き火の前で、俺は仲間たちと向かい合った。
「……皆は、俺のせいで危険に巻き込まれている」
言葉が重く落ちる。
「正直に言えば、怖い。俺は剣も魔法も強くない。ただの従者だ」
「違います」
セリシアが食い気味に否定した。
「アルト殿がいなければ、私たちは禁忌の魔騎士に敗れていました。あなたは最弱ではありません」
「そうです」
エレノアが真剣な眼差しを向けてくる。
「あなたは神の導きです。アルト様がいるからこそ、私たちは戦えるのです」
「……ふん」
ルシアが笑った。
「怖いと言える奴ほど、本物だ。お前がいると、私たちは何倍も強くなる。それが真実だ」
三人の言葉に、胸が熱くなった。
俺は小さく拳を握る。
「……分かった。なら、もう逃げるだけじゃ駄目だ」
火を見つめながら言葉を続けた。
「リオネルの思うままにさせるわけにはいかない。俺たちが、国を取り戻すんだ」
セリシアの瞳に力が宿る。
「はい。私の名に誓って」
エレノアが祈りを捧げる。
「神の御名において」
ルシアが槍を掲げる。
「竜槍の誇りにかけて」
三人の誓いが焚き火の炎と共に夜空へ昇っていった。
◇ ◇ ◇
翌朝。俺たちは旅支度を整え、村を出発した。
目指すは――辺境の自由都市。王国の干渉が及ばぬ場所で力を蓄え、仲間を募るために。
「アルト殿、見てください」
セリシアが指差す。
遠くには広大な平原が広がり、道の先に大きな街の影が見えた。
「ここからが本当の旅ですね」
エレノアが微笑む。
「敵は国全体だ。気を引き締めろ」
ルシアが真剣に告げる。
俺は三人を見渡し、深く頷いた。
――逃亡者じゃない。反逆者でもない。
俺たちは、未来を奪い返すために進む。
◇ ◇ ◇
その頃、王都の王座の間では。
リオネルが民衆を前に演説していた。
「第一王女と従者アルトは、禁忌の術を操り、国を危険に晒した裏切り者だ! 私は王国を守るために立ち上がった!」
民衆のざわめきが広がる。恐怖と怒りが渦巻き、王都は火薬庫のように緊張していた。
リオネルの目がぎらつく。
「奴らを討て! 我が剣となれ!」
兵たちの鬨の声が轟き、反乱の炎が王国全土に広がり始めていた。
――戦火の幕は、ついに上がった。