第7話 禁忌の召喚と迫る追撃
洞窟を出て村へ戻った俺たちは、勝利の余韻に浸る間もなく、村人たちに囲まれた。
「ありがとうございます! ミノタウロスを倒してくださるなんて!」
「これで畑も家畜も守れます……!」
感謝の声があふれ、涙を流す老人や、俺たちに果実を差し出す子どもたちまでいた。
胸の奥が熱くなる。
――誰かを守れる。俺の力が、人々の役に立っている。
「アルト殿、よくやりましたね」
セリシアが優しい笑みを浮かべる。
「あなたの力があれば、どんな困難も越えられる気がします」
「ええ、本当に……。神の御業を目の当たりにしているようです」
エレノアの瞳は感動に潤んでいた。
「ふん、これで満足するなよ」
ルシアは肩をすくめながらも、口元に笑みを浮かべていた。
「お前がいれば、竜騎士団も十倍は強くなる。……いや、戦場そのものが変わる」
俺は三人の言葉を受け止め、力強く頷いた。
「ありがとう……俺は、もう最弱じゃない」
◇ ◇ ◇
だが――その平穏は長く続かなかった。
夜。村に休む俺たちのもとへ、空を裂く轟音が響いた。
地面が揺れ、遠くの森が赤く燃える。
「何だ……!?」
俺が身を乗り出すと、ルシアの表情が険しくなる。
「……魔力の波動だ。しかも尋常ではない。これは――禁忌召喚!」
「禁忌……?」
俺が問うと、セリシアが青ざめた顔で答えた。
「古の時代、王国が封印した禁断の魔法……膨大な魔力と犠牲を捧げることで、異界から魔を呼び寄せる禁術です」
「まさか……リオネルが……!」
エレノアが祈る手を震わせた。
◇ ◇ ◇
やがて、炎の中から現れたのは――漆黒の鎧を纏った巨人。
身の丈三メートルを超えるその怪物は、眼窩から赤い光を放ち、手にした剣は地面を裂いた。
「禁忌の魔騎士だ……!」
ルシアが槍を構える。
「これはまずい……普通の兵や騎士では相手にならん」
巨人の一振りが村の外壁を砕き、悲鳴が上がる。
「きゃああ!」
「逃げろ!」
村人たちが四散する中、俺たちは立ち上がった。
「アルト殿、補助を!」
セリシアの声に、俺は頷く。
「――【万能補助】!」
光が迸り、三人を包む。
◇ ◇ ◇
セリシアの剣が巨人の鎧を斬る。しかし刃は弾かれ、火花を散らした。
「硬すぎる……!」
エレノアが祈りを放つ。聖光の矢が降り注ぐが、巨人は咆哮で吹き飛ばす。
「くっ……効かない!?」
ルシアが突撃し、槍を渾身で突き立てた。しかし巨人は片手で受け止め、逆に彼女を吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
「ルシア!」
駆け寄ろうとした俺の手に、温かな力が流れた。
――補助スキルが、自ら輝いている?
「……何だ、これは」
胸の奥から声にならない衝動が湧く。
俺は本能に従い、三人の名を叫んだ。
「セリシア! エレノア! ルシア! ――みんなで力を合わせろ!」
瞬間、俺の補助が変質した。
三人それぞれを強化するだけでなく、三人の力を繋げ、共鳴させる。
「これは……!」
セリシアの剣に聖光が宿り、エレノアの祈りが槍を包み、ルシアの突撃が炎を纏う。
「アルト殿、これはあなたの……!」
「新たな力です!」
「行くぞ――!」
三人の攻撃が同時に放たれた。
剣と光と槍が交わり、巨大な輝きとなって禁忌の魔騎士を貫いた。
轟音。
巨体が崩れ落ち、地響きと共に静寂が訪れる。
◇ ◇ ◇
「……勝ったのか」
膝をつきながら呟くと、セリシアが駆け寄って俺を抱き支えた。
「アルト殿! すごい……あなたがいなければ、私たちは……」
「ええ、本当に。これは奇跡です」
エレノアも涙を滲ませる。
ルシアは肩で息をしながらも、口元に笑みを浮かべた。
「面白い……お前の補助は、ただの支援じゃない。仲間の力を繋げる……まさに最強の絆だ」
俺は荒い息を吐きつつ、確信した。
――この力は、もう“最弱”なんかじゃない。
仲間と共にある限り、俺は最強の従者だ。
◇ ◇ ◇
だが、王城の奥。
リオネルは遠見の魔鏡越しにその光景を見ていた。
「……やはり討ち取れなかったか」
唇を歪め、冷笑を浮かべる。
「だが構わん。ならば次は――もっと大きな“戦”を起こしてやる」
その瞳は、狂気に揺らめいていた。
――陰謀はさらに広がっていく。