エピローグ 最強パーティの新たな旅立ち
戦場に朝日が差し込む頃、黒炎の残滓はすべて消え去っていた。
魔王と化したリオネルの姿も、もはやどこにもなかった。
残されたのは、瓦礫と傷だらけの兵士たち、そして――勝利の余韻だった。
「……終わったのか」
ジークが空を仰ぎ、燃え尽きたように座り込む。
「本当に……勝ったんだな」
「はい」
エレノアが頷き、涙を拭った。
「神も……この勝利を祝福してくださっています」
「ふん。まさか、ここまで来られるとはな」
ルシアが槍を突き立て、疲労を隠さず笑った。
「だが悪くない戦いだった」
「アルト殿」
セリシアが俺の前に立ち、深々と頭を下げた。
「あなたのおかげで、王国は救われました。……本当にありがとう」
俺は首を振った。
「俺一人じゃ無理だった。みんながいたから……俺は戦えたんだ」
◇ ◇ ◇
その後、自由都市と王国の兵士たちは次第に混乱から立ち直っていった。
リオネルに従っていた兵たちも、主を失って戦意をなくし、武器を投げ捨てる。
彼らの多くは罪を問われることなく、セリシアのもとに帰順を誓った。
「兄上はもういません」
セリシアは城壁の上から兵たちに告げた。
「これからは、王国も自由都市も、互いに手を取り合って生きていきましょう」
その声に、兵たちも市民も歓声を上げた。
かつて“反逆者”と呼ばれた彼女の言葉は、今や人々の心を照らす光になっていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
戦の後始末がひと段落すると、俺たちは一つの決断を下した。
「セリシアは王都へ戻るんだな」
俺が問うと、彼女は力強く頷いた。
「ええ。王国を立て直さなければなりません。兄上が壊しかけたものを、私が再び築きます」
その眼差しは凛としていた。
「私は教会に戻ります」
エレノアは微笑んだ。
「でも……これからも皆さんを祈りで支えます。遠くにいても、心は共にあります」
「俺は竜騎士団に戻るさ」
ルシアが肩をすくめる。
「だが竜槍はいつでも貸してやる。呼べば駆けつけるぞ」
「俺は……」
ジークは迷った顔をしたが、やがて笑った。
「自由都市で生きる。ここの火は消させない。……でも、アルトがまた旅に出るなら、呼んでくれよな」
◇ ◇ ◇
皆がそれぞれの道を歩み出そうとしていた。
そして俺は――
「アルト、お前はどうするんだ?」
ジークの問いに、俺は少し考えて答えた。
「俺は……旅に出るよ」
仲間たちの視線が集まる。
「世界を見たいんだ。まだ見ぬ土地、まだ出会っていない人々……。俺の力があれば、誰かの役に立てるかもしれない」
「……そうですね」
セリシアが微笑んだ。
「あなたにしかできないことがあります」
「アルト様なら、きっと多くの人を救えるでしょう」
エレノアが祈りを捧げる。
「気を抜くなよ」
ルシアが苦笑する。
「お前の力は狙われやすい。だが……まあ心配はしていない」
「呼べばすぐ行くぞ!」
ジークが拳を突き出した。
俺は一人ずつ、その手を取った。
仲間は離れても、絆は消えない。
◇ ◇ ◇
そして出立の日。
城門の外で振り返ると、仲間たちが見送ってくれていた。
「アルト殿!」
セリシアの声が風に乗る。
「また会いましょう! その日まで……どうかご無事で!」
「アルト様!」
エレノアが祈りの印を切る。
「神が常にあなたを導きますように!」
「フッ……また戦場で会おう」
ルシアが小さく笑う。
「気をつけろよ!」
ジークが手を振る。
俺は深く頷いた。
「ありがとう! 必ずまた会おう!」
◇ ◇ ◇
朝日が昇り、道を黄金に染めていた。
俺は一歩を踏み出す。
最弱と呼ばれ、捨てられた従者。
だが今は違う。
仲間たちと共に歩み、数えきれぬ逆境を越えてきた。
俺はもう、最弱じゃない。
「さあ、次の冒険へ――」
風が頬を撫で、心が熱く震えた。
そして俺は、未来へと旅立った。