第20話 決着――最強の従者と王位の狂気
砂煙の中、リオネルは立ち上がった。
黒炎に包まれたその姿は、人の王子の面影を完全に失っていた。
翼は裂け、角は歪み、身体は崩壊しかけながらもなお、異様な力を放っている。
「……私は……王になる……!」
彼の声は叫びではなく、呪詛のように響いた。
「弱者どもに跪かれる……唯一無二の……王に!」
黒炎が再び膨れ上がり、戦場全体を覆った。
兵士たちは震え上がり、自由都市の人々は祈りを捧げた。
――だが、俺たちは退かない。
「アルト殿!」
セリシアが剣を掲げる。
「これが最後の戦いです!」
「アルト様……神のご加護を……」
エレノアが祈りを結ぶ。
「お前と一緒に戦うのも、これで最後かもしれんな!」
ルシアが槍を構える。
「燃やし尽くしてやるぜ!」
ジークが炎を迸らせる。
俺は深く息を吸い、仲間たちに告げた。
「……行こう。俺たちで、終わらせる!」
◇ ◇ ◇
「【絆共鳴】!」
光が爆発し、五人の心が一つになる。
セリシアの剣に炎と雷が重なり、ルシアの槍に祈りと鋭さが宿る。
ジークの炎は聖なる光を纏い、エレノアの祈りは全員を包み込み、俺の意志がその全てを束ねた。
巨大な光の奔流が生まれ、リオネルの黒炎と激突する。
「アルトォォォ!」
「兄上――!」
轟音。
光と闇がぶつかり合い、戦場が震える。
地が裂け、空が揺れ、兵士たちが恐怖に叫ぶ。
◇ ◇ ◇
「くっ……押し返される!」
セリシアが必死に剣を支える。
「アルト! もっとだ!」
ルシアが叫ぶ。
「限界を超えろ!」
ジークが炎を放ちながら吠える。
「アルト様……! 神が、あなたを選んでいます!」
エレノアの祈りが震える声で届いた。
俺は歯を食いしばった。
魔力はとうに尽きている。身体も限界だ。
それでも――仲間たちがいる。
「俺は最弱なんかじゃない!」
叫ぶ。
「皆と繋がっている限り――最強だ!」
◇ ◇ ◇
心が燃え上がる。
光がさらに強まり、仲間たちの力が跳ね上がる。
「アルト殿!」
「アルト様!」
「アルト!」
「アルトォ!」
仲間の声が響き、五つの力が完全に融合した。
「これで――終わりだあああ!」
光の奔流が黒炎を押し返し、リオネルの身体を貫いた。
「ぐああああああッ!」
黒翼が崩れ、角が砕け、黒炎が霧散していく。
リオネルの絶叫が戦場に響き――やがて、静寂が訪れた。
◇ ◇ ◇
砂煙の中、リオネルは膝をついていた。
もはや魔王の姿はなく、ただ傷だらけの王子の姿が残っている。
「……なぜ……お前が……」
彼の瞳は虚ろで、震える手が俺に伸びた。
「最弱の……従者が……なぜ……」
俺は静かに答えた。
「俺は一人じゃない。仲間がいる。だから最強になれた」
リオネルの手が空を掴み、そのまま力なく落ちた。
彼の身体は光に包まれ、黒炎と共に消えていった。
◇ ◇ ◇
静寂の後――歓声が戦場に広がった。
「勝った! 魔王を倒したぞ!」
「アルトだ! 従者アルトが救ってくれた!」
兵士たちも、自由都市の人々も、涙と歓喜で声を上げた。
「アルト殿!」
セリシアが駆け寄り、剣を下ろして微笑んだ。
「あなたのおかげで……王国は救われました」
「神の祝福を……」
エレノアが涙を流し、祈りを捧げる。
「お前、本当に最強だな」
ルシアが笑って槍を肩に担ぎ、
「最高だぜ、アルト!」
ジークが拳を突き出した。
俺は仲間たちの顔を見渡し、静かに頷いた。
「……ありがとう。みんながいたから、ここまで来られた」
◇ ◇ ◇
朝日が昇り、戦場を黄金に染める。
俺たちはただの冒険者パーティじゃない。
国を救い、未来を切り開いた“最強の仲間”だ。
――最弱の従者は、もうどこにもいない。
俺は胸を張り、仲間たちと共に歩み出した。
新たな冒険と、新たな時代へ向かって。