第19話 最終決戦、魔王と化したリオネルとの死闘
黒炎の嵐が戦場を覆った。
魔王と化したリオネルの咆哮は、空を裂き、大地を震わせる。翼を広げたその姿は、もはや人の王子ではない。圧倒的な破壊の権化だった。
「……化け物め」
ルシアが槍を握りしめ、歯を食いしばる。
「アルト、補助を!」
「もちろんだ!」
俺は叫び、仲間たちに力を流した。
「【万能補助】!」
光が溢れ、セリシアの剣が雷を纏い、ルシアの槍が閃光を走らせる。ジークの炎は赤黒く渦を巻き、エレノアの祈りは防壁を張り巡らせた。
「兄上――!」
セリシアが剣を掲げ、一直線に駆け出す。
「私はもうあなたに怯えません!」
「愚か者!」
リオネルの爪が振り下ろされる。
だがセリシアは斬り払った。火花と轟音。衝撃が大地を割った。
「アルト殿!」
セリシアが叫ぶ。
「もっと……!」
「分かった!」
俺は全身の魔力を叩き込み、彼女の剣がさらに輝いた。
◇ ◇ ◇
「今だ!」
ルシアが雷槍で突撃する。
「おおおッ!」
槍が黒炎を貫き、リオネルの肩口を抉った。血が飛び散る。
だが彼は怯まない。翼を羽ばたかせ、ルシアを吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
ルシアが地面に叩きつけられる。
「ルシア!」
エレノアが祈りを捧げ、光が彼女を包んだ。
「立ってください、まだ戦えます!」
「……恩に着る!」
ルシアが立ち上がり、槍を再び構えた。
◇ ◇ ◇
「炎よ――燃え尽きろ!」
ジークが両腕を広げ、巨大な火竜を呼び出した。
赤き炎竜が咆哮し、リオネルの黒翼に噛みついた。
「馬鹿な……!」
リオネルが一瞬たじろぐ。
「下郎風情が……!」
だが黒炎の爆発で火竜は霧散し、ジークも膝をついた。
「くそっ……魔力が……!」
「ジーク!」
俺は駆け寄り、肩に触れた。
「まだだ……お前の炎は、絶対に消えない!」
補助が流れ込み、ジークの瞳に再び炎が宿った。
「……ああ、やってやる!」
◇ ◇ ◇
だが、リオネルの力は衰えるどころか増していった。
「アルトォォォ!」
黒炎の剣が振り下ろされる。
「光よ、我らを守れ!」
エレノアの祈りが防壁を展開する。だが亀裂が走り、砕け散った。
「っ……!」
衝撃波が俺を襲う。吹き飛ばされそうになったその瞬間、セリシアが俺を抱きかかえた。
「アルト殿、大丈夫ですか!」
「……ああ」
息は荒い。魔力も尽きかけている。
それでも――仲間たちがいる限り、俺は立てる。
◇ ◇ ◇
「みんな……俺に力を!」
俺は叫んだ。
「俺は一人じゃない! だからこそ、最強になれる!」
「はい!」
「任せろ!」
「燃やしてやる!」
「神と共に!」
仲間たちの声が重なり、心が一つになる。
「【絆共鳴】!」
光が爆発し、剣も槍も炎も祈りも融合する。
俺の意志がその中心に燃え上がり、巨大な光の刃となった。
「これで終わらせる――!」
◇ ◇ ◇
リオネルの黒炎が応じる。
光と闇がぶつかり合い、戦場を飲み込む閃光が走った。
兵士たちが悲鳴を上げ、自由都市の城壁が震え、大地が割れる。
「うおおおおおッ!」
仲間たちの声と共に、俺は全てを注ぎ込んだ。
「俺たちは最弱じゃない! 最強だ!」
光が黒炎を押し返し、リオネルの絶叫が戦場に響いた。
◇ ◇ ◇
爆発の後。
砂煙の中に、膝をついたリオネルの姿があった。
黒翼は裂け、鎧は砕け、もはや人の面影も薄れている。
「……まだ……私は……」
リオネルが呻く。
「王に……なるのだ……!」
彼の背後で再び黒炎がうねった。
それは最後の力か、それともさらなる狂気か。
「アルト殿……!」
セリシアが剣を握りしめる。
「これが最後です!」
俺は頷いた。
「みんな……行こう。ここで決着をつける!」
――王国の命運を懸けた最終局面が、いよいよ始まろうとしていた。