第18話 リオネルの真なる姿、最終決戦の始まり
砂煙の中、リオネルは膝をついていた。
砕けた剣を握りしめ、血に濡れた顔でなおも狂気に燃える瞳を向けてくる。
「……まだだ……まだ終わらぬ……」
その背後で、影がうねり始めた。
黒炎が凝縮し、人の形を歪めながら彼の身体に絡みつく。
皮膚が黒くひび割れ、血管のように赤い光が浮かび上がっていった。
「アルト殿……!」
セリシアが息を呑む。
「まさか、兄上は……」
「禁忌を……完全に取り込もうとしているのです!」
エレノアが祈りを組み、蒼白な顔で叫ぶ。
「人の身を捨て、魔そのものになろうとしている……!」
「ははははは!」
リオネルが立ち上がった。
その姿はもはや王子ではなかった。
人と魔が混ざり合った異形――角を生やし、背から黒翼を広げた“魔王”の姿だった。
「これぞ真なる王の姿! 弱者どもを導く、選ばれし存在だ!」
◇ ◇ ◇
「……リオネル兄上……!」
セリシアが剣を震わせる。
「それが……あなたの選んだ道なのですか」
「そうだ! 弱き民の声に惑わされるお前とは違う! 力ある者だけが王となる!」
リオネルの声は地を揺らし、兵たちを震え上がらせた。
「アルト……お前からだ」
漆黒の爪が俺を指し示す。
「最弱と蔑まれた従者が、どれほどの力を得たか――この私が打ち砕いてやる!」
◇ ◇ ◇
次の瞬間、黒翼が広がり、稲妻のような速度で迫ってきた。
「速い!」
ルシアが槍で迎え撃つが、爪が弾き飛ばし、彼女を後退させた。
「炎よ――!」
ジークが火竜を放つ。しかし黒翼が一振りで炎をかき消す。
「光の矢よ!」
エレノアの祈りが降り注ぐ。だが黒炎がそれを呑み込み、逆に衝撃波となって返ってきた。
「ぐっ……!」
エレノアが膝をつく。
「皆、下がるな!」
俺は叫んだ。
「俺がいる限り――まだ負けない!」
◇ ◇ ◇
「【万能補助】!」
光を放ち、仲間たちの力を再び高める。
セリシアの剣が煌めき、ルシアの槍が雷を宿し、ジークの炎が再び燃え上がる。
エレノアの祈りも力を取り戻し、仲間たちが再び立ち上がった。
「アルト殿!」
セリシアが涙に濡れた瞳で言う。
「あなたと共に――この戦いを終わらせます!」
「はい!」
「やるぞ!」
「燃やし尽くす!」
仲間たちの声が重なった。
◇ ◇ ◇
だがリオネルの力は凄まじかった。
黒炎の剣を振るうたびに大地が裂け、翼の羽ばたきだけで兵が吹き飛ぶ。
「くっ……押される!」
ルシアが必死に槍を振るうが、爪と剣の連撃に押し潰されそうになる。
「俺が……!」
俺は再び全員と心を繋いだ。
「【絆共鳴】!」
光が走り、仲間たちが再び一つとなる。
セリシアの剣に炎と祈りが宿り、ルシアの槍に雷と光が重なり、ジークの炎に剣の鋭さが加わる。
そしてエレノアの祈りが全てを繋ぎ、俺の意志がその中心に燃え上がる。
「これで……負けない!」
◇ ◇ ◇
五人の合撃がリオネルを押し返し、黒翼を裂いた。
「ぐっ……!」
彼の顔が苦悶に歪む。
だが次の瞬間、さらに深い黒炎が彼の身体を覆った。
「はははは……! まだだ! まだ終わらぬ!」
リオネルの体が巨大化し、黒炎の鎧を纏う。
その姿は、もはや人の王子でも魔でもなく――破壊そのものの怪物だった。
「アルト! 次が本当の最終戦だ!」
セリシアが叫ぶ。
俺は仲間たちを見渡し、頷いた。
「……ああ。これで終わらせる。俺たちの未来のために!」
戦場に響くリオネルの咆哮。
自由都市を揺るがす最終決戦が、ついに始まろうとしていた。