第17話 リオネルとの対峙、王国の命運
影の将軍ヴァルドが消え、戦場に一瞬の静寂が訪れた。
だがその沈黙は長く続かなかった。
丘の上から、豪奢な衣を纏った男が歩み出る。
漆黒のマントを翻し、黄金の王冠を戴いたその姿は――かつて俺が仕えていた王子、リオネルだった。
「……リオネル兄上」
セリシアの声が震える。
「なぜ……そこまでして王国を壊すのですか」
「壊す?」
リオネルが高笑いを響かせた。
「愚かな妹よ、違う。私は“創り変えている”のだ。この腐った国を! 弱者が強者に縋る王国など不要。選ばれた者だけが頂点に立つ、新たな国こそ必要なのだ!」
その瞳は狂気に燃えていた。
だが同時に、かつて俺が仕えていた頃と同じ、絶対の自信と威光も宿していた。
「アルト」
リオネルの視線が俺に突き刺さる。
「お前は私に仕えるはずだった。なのに逆らい、私を愚弄した……。今日こそ、その愚を後悔させてやる!」
◇ ◇ ◇
彼が剣を掲げた瞬間、漆黒の魔力が大地を覆った。
王都で見た禁呪の比ではない。大地が震え、空が黒雲に覆われる。
「なんだ、あの力……!」
ジークが炎を構えながら息を呑む。
「竜の魔力を……取り込んでやがるのか!?」
「禁忌と王権の融合……」
エレノアが蒼ざめる。
「人が踏み込んではならぬ領域です……!」
「兄上!」
セリシアが剣を構える。
「その力は国を救わない! 破滅を招くだけです!」
「黙れ!」
リオネルが叫び、黒炎の奔流を放った。
◇ ◇ ◇
「アルト殿!」
セリシアが俺の前に立つ。
「来ます!」
俺はすぐに仲間たちへ補助を流した。
「【万能補助】!」
剣が光を宿し、槍に雷が奔り、炎が竜の如く唸り、祈りが盾となる。
四人が一斉に黒炎を迎え撃ち、轟音と共に爆発が戦場を揺らした。
「くっ……押される!」
ルシアが槍を踏ん張り、汗を滴らせる。
「アルト! もっとだ!」
ジークが叫ぶ。
「分かってる!」
俺はさらに魔力を注ぎ込んだ。
限界を超えて、視界が霞み、身体が震える。
だが、退けない。
「俺はもう従者じゃない! みんなと共に立つ仲間だ!」
◇ ◇ ◇
「ふん……足掻け!」
リオネルが笑い、黒炎の剣を振り下ろす。
地面が裂け、城壁すら崩れ落ちた。
「くっ……!」
セリシアが剣で受け止め、ルシアが槍で横から突き、ジークが炎で牽制する。
エレノアの祈りが必死に皆を癒す。
だがそれでも、リオネルは圧倒的だった。
「弱者に与えられる救済などない! あるのは、力による支配のみ!」
「違う!」
俺は叫んだ。
「俺たちは繋がっている! 力を分け合い、補い合う! それこそが……真の強さだ!」
◇ ◇ ◇
心が再び重なり合う。
「【絆共鳴】!」
光が溢れ、仲間たちと俺の力が完全に一つとなる。
セリシアの剣に炎と雷が宿り、ルシアの槍が祈りを纏い、ジークの炎が聖なる輝きに変わる。
エレノアの祈りは剣槍炎すべてに染み渡り、俺自身の意志がその中心で燃え上がった。
「行くぞ――!」
全員で放った一撃が、リオネルの黒炎とぶつかり合う。
轟音。
光と闇が戦場を二分し、大地が震える。
◇ ◇ ◇
「アルト……!」
セリシアが叫ぶ。
「この一撃に、全てを!」
「はい!」
「任せろ!」
「燃やす!」
「祈ります!」
仲間の声が俺の中で響き、力が最高潮に達する。
俺は全ての魔力を解き放った。
「――俺たちは最弱じゃない! 最強だ!」
光が爆発し、黒炎を押し返していく。
リオネルの瞳が驚愕に揺れる。
「なに……!?」
光と闇のぶつかり合いが激化し――戦場全体を白く染め上げた。
◇ ◇ ◇
やがて光が収まり、砂煙が晴れた。
そこには、膝をつくリオネルの姿があった。
剣は砕け、マントは焼け焦げ、それでもまだ狂気の炎を宿した目で俺を睨んでいた。
「……終わっていない……」
彼の口からかすれた声が漏れる。
「私は……この国の王に……なるのだ……!」
仲間たちが駆け寄り、武器を構える。
セリシアの瞳は涙で揺れていた。
「兄上……どうして……」
リオネルはなおも立ち上がろうとする。
その背に、不気味な影が蠢いていた。
――決戦の幕は、まだ閉じていなかった。