第16話 決戦、影の将軍ヴァルドとの最終戦
夜明けと共に、自由都市ガルディアの城門が開かれた。
外には再び王国軍が布陣し、その前に一人立つ影の将軍ヴァルドの姿があった。
漆黒の甲冑に二振りの黒剣。その威容は、竜を討った今もなお戦場の空気を支配している。
「……来たか、アルト」
ヴァルドの声は低く、だが確かな熱を帯びていた。
「昨夜の一戦、私は認めよう。お前の力は最弱ではなく、最強に至る資質だ。だからこそ……ここで討つ」
俺は仲間たちと共に前へ歩み出た。
セリシアの剣、エレノアの祈り、ルシアの槍、ジークの炎――その全てが俺の背を押す。
「俺はもう従者じゃない。……仲間と共に立つ、最強の核だ」
◇ ◇ ◇
戦場が静まり返る。
次の瞬間、ヴァルドが地を蹴った。
影のような速さで間合いを詰め、黒剣の一閃が俺を狙う。
「アルト殿!」
セリシアが割り込み、剣で受け止めた。火花が散り、腕が痺れる。
「【万能補助】!」
俺が力を送ると、セリシアの剣が閃光を纏い、ヴァルドの剣を押し返した。
「次は私だ!」
ルシアが雷槍で突撃する。だがヴァルドは軽やかに剣を交差させ、雷光を切り裂いた。
「炎よ、昇れ!」
ジークの炎竜が襲いかかる。しかしヴァルドは剣を振るい、炎を真っ二つに裂く。
「光よ、彼らを守り給え!」
エレノアの祈りが防壁を張り巡らすが、ヴァルドの一撃は壁を粉砕して迫る。
「強すぎる……!」
誰もが押される中、俺は叫んだ。
「皆、俺と繋がってくれ!」
◇ ◇ ◇
再び心が重なり合う。
セリシアの勇気、エレノアの信仰、ルシアの誇り、ジークの激情――その全てが俺に流れ込み、俺の意志も彼らへと返っていく。
「【絆共鳴】!」
光が弾け、五人の力がひとつとなった。
セリシアの剣が炎を纏い、雷を宿す。
ルシアの槍が光の祈りと鋭さを得て、天を貫く。
ジークの炎は聖なる力を帯びて竜の如く唸り、
エレノアの祈りは仲間の刃そのものに宿って輝く。
「うおおおおッ!」
五人の合撃が、ヴァルドへと襲いかかった。
◇ ◇ ◇
「見事だ!」
ヴァルドの瞳に闘志が宿る。
彼もまた全力を解放し、二振りの黒剣から影の奔流を放った。
光と影がぶつかり合い、戦場を揺るがす。
大地が裂け、空気が震え、兵士たちが悲鳴を上げて退く。
「アルト殿、押されている!」
セリシアの声が響く。
「まだだ!」
俺は全ての魔力を仲間に注ぎ込む。
視界が霞み、身体が崩れそうになる。それでも叫んだ。
「俺は最弱じゃない! 皆と繋がって――最強になるんだ!」
◇ ◇ ◇
その瞬間、力が変質した。
光が渦を巻き、俺たち五人を包む。
剣も槍も炎も祈りも、すべてが融合し、巨大な輝きとなる。
「これが……俺たちの力だ!」
放たれた一撃が、ヴァルドの影を切り裂いた。
黒剣が砕け、甲冑が割れ、彼の身体が光に飲まれていく。
◇ ◇ ◇
「……見事だ」
ヴァルドは膝をつき、静かに笑った。
「アルト、お前こそ最強の従者……いや、最強の核だ」
そう言い残すと、彼はゆっくりと剣を地に落とし、影の中に消えていった。
◇ ◇ ◇
静寂。
戦場は崩れ落ちた敵兵のざわめきだけが残った。
「……勝ったのか?」
ジークが呆然と呟く。
「はい……!」
エレノアが涙を流す。
「アルト様のおかげで……!」
「アルト殿!」
セリシアが駆け寄り、俺の身体を抱き支える。
「ふん、やるじゃないか」
ルシアが微笑み、槍を収めた。
俺は荒い息を吐きながらも、笑った。
「これが……俺たちの力だ」
◇ ◇ ◇
だがその時。
遠くの丘に立つ一人の男が、冷たい笑みを浮かべていた。
「……面白い。ヴァルドを退けるとは」
王国の王子、リオネル。
その瞳は狂気に輝き、背後にはさらに異形の影が蠢いていた。
「次は……私が直々にお前を葬ってやる、アルト」
――戦いは、まだ終わらない。