第14話 黒き竜との激突、決死の共闘
黒き竜の咆哮が戦場を震わせた。
空気が震動し、兵士たちが耳を塞いで倒れ込む。翼の一振りで突風が吹き荒れ、城壁がきしみを上げた。
「……っ、なんて魔力だ……!」
ジークが顔をしかめる。
「炎の精霊ですら怯えて隠れやがる……!」
「怯むな!」
ルシアが前へ出る。
「アルト、補助を!」
「もちろんだ!」
俺は彼女の背に触れ、光を放つ。
「【万能補助】!」
雷を纏った槍が閃き、竜の翼を突いた。
「おおおッ!」
だが、鱗は分厚く、わずかに傷を刻むだけに留まった。
「足りぬ」
竜の赤い瞳が輝き、口から黒炎の奔流が吐き出される。
「来ます!」
エレノアが祈りを掲げる。
「光の壁よ、我らを守れ!」
聖なる障壁が立ち上がり、黒炎を受け止める。
だが一瞬で砕け散り、衝撃が広場を襲った。
「きゃああ!」
セリシアが飛び出し、剣で炎を斬り払う。
「アルト殿、まだです! もっと力を!」
◇ ◇ ◇
俺は歯を食いしばった。
個々を強化するだけじゃ追いつかない。
戦場全体に広がるこの竜の暴力を止めるには――
(皆を繋げるんだ……!)
胸の奥に熱が走る。
仲間の鼓動が重なり、光となって溢れ出す。
「【共鳴補助】!」
セリシアの剣が炎を纏い、斬撃が光の軌跡を描く。
エレノアの祈りに雷鳴が宿り、癒しと攻撃が同時に放たれる。
ルシアの槍が神々しい閃光を帯び、空へ突き上げられた。
ジークの炎が剣の鋭さを纏い、巨大な火竜の形となって黒き竜に挑む。
「行けぇぇぇ!」
四つの力が合流し、黒き竜の胸を直撃した。
轟音が響き、大地が割れる。
◇ ◇ ◇
黒き竜が苦悶の咆哮を上げた。
鱗がひび割れ、赤黒い血が流れ落ちる。
「……効いてる……!」
セリシアが驚きと喜びの声を上げた。
「このまま畳み掛けるぞ!」
ルシアが再び槍を構える。
「アルト様!」
エレノアが俺の手を取る。
「力を……もっと!」
「分かった!」
俺は全力で補助を注ぎ込んだ。
自分の魔力が削られ、視界が霞んでいく。だが構わない。
「お前たちは最強だ! 俺が証明する!」
仲間たちの動きがさらに鋭さを増し、黒き竜を押し込んでいく。
◇ ◇ ◇
だが――竜はまだ倒れなかった。
咆哮と共に翼を広げ、空へ舞い上がる。
「逃がすか!」
ルシアが槍を投げ放ち、雷光が夜空を貫く。
「炎よ――昇れ!」
ジークの火竜が天へと追いすがる。
「光の矢よ!」
エレノアの祈りが輝きを走らせる。
「はあああッ!」
セリシアの剣が最後の閃光となって突き抜けた。
四人の力が交わり、黒き竜の翼を撃ち砕いた。
巨体が絶叫しながら墜落し、大地を揺らして倒れ込む。
◇ ◇ ◇
「……倒した、のか?」
兵士たちが息を呑む。
竜は地に伏し、もはや動かない。
戦場に静寂が広がり、やがて歓声が爆発した。
「勝った! 竜を討ったぞ!」
「アルトだ! 従者アルトの力だ!」
俺は膝をつき、荒い息を吐いた。
魔力はほとんど残っていない。全身が痺れている。
けれど仲間たちが立っている。それだけで十分だった。
「アルト殿!」
セリシアが駆け寄り、俺の体を支える。
「よくやりました……!」
「神も祝福しておられます」
エレノアが涙を流しながら微笑む。
「ははっ! よくやったな!」
ルシアが背中を叩き、ジークが笑顔で拳を突き出した。
「最高だぜ、アルト!」
◇ ◇ ◇
だがその時。
竜の影に立つ人影があった。
「……やはり、お前は侮れぬな」
影の将軍ヴァルド。
彼は竜の亡骸を見下ろしながら、静かに剣を抜いた。
「だが――この戦は、まだ始まったばかりだ」
黒炎に照らされる彼の瞳は、冷たく燃えていた。