第13話 自由都市防衛戦、開戦!
自由都市ガルディアの城壁の上に、張り詰めた空気が流れていた。
眼下には王国軍の大軍が整列し、鬨の声を上げる。鎧と槍が朝日を反射し、まるで鉄の波が押し寄せてくるようだった。
「数は……やはり圧倒的ですね」
エレノアの声が震える。
「神よ、我らをお守りください……」
「臆するな」
ルシアが槍を掲げ、鋭い目で敵陣を睨む。
「敵は数で勝っているだけだ。だが戦の趨勢を決めるのは数ではない。“力”だ」
「その力を示すのは、私たちです」
セリシアが凛とした声で言った。
「アルト殿、皆を支えてください」
「……ああ」
俺は深く息を吸い込み、拳を握った。
◇ ◇ ◇
「投石機、構え――放て!」
轟音と共に巨大な岩が宙を舞い、自由都市の城壁に叩きつけられた。
石片が飛び散り、兵士たちが悲鳴を上げる。
「矢の一斉射!」
次いで、空が暗くなるほどの矢の雨が降り注ぐ。
「盾を構えろ!」
都市防衛軍の兵たちが必死に防ぐが、圧倒的な数に押し潰されそうになる。
――俺は走った。
兵士たちの列に飛び込み、次々と肩に触れていく。
「【万能補助】!」
光が走り、兵士たちの腕が軽くなり、盾が動きやすくなる。
「な、なんだ……!? 身体が……動く!」
「矢が弾け飛んだぞ!」
兵士たちの驚きと歓声が上がる。
俺はさらに走り、仲間たちへ声を張り上げた。
「セリシア! 前へ!」
「はい!」
彼女が剣を振るうたびに、光が弧を描き、敵の矢を打ち払った。
「エレノア!」
「癒しの光よ、皆を守れ!」
彼女の祈りが広がり、負傷兵の傷が瞬時に塞がっていく。
「ルシア!」
「突撃だあああッ!」
雷を纏った槍が放たれ、城門前に集まった敵兵を一気に薙ぎ払った。
「ジーク!」
「炎よ、壁となれ!」
炎の壁が立ち上がり、矢の雨を焼き尽くす。
――補助の力が、全員を繋ぎ、一つの巨大な力となって戦場を覆っていった。
◇ ◇ ◇
「おのれ……!」
敵陣から怒声が響く。
馬上に姿を現したのは、漆黒の鎧を纏った男――リオネルだった。
かつて俺を「最弱」と笑い、捨て去った主。
その目は狂気に濁り、剣には禁呪の黒い炎が宿っていた。
「アルトォォォ!」
リオネルの怒声が戦場を震わせる。
「お前のせいで私の威光は傷ついた! 王国は乱れた! すべて貴様のせいだ!」
「違う!」
セリシアが叫ぶ。
「兄上、あなたが欲に溺れたからです!」
「黙れぇぇぇッ!」
リオネルが剣を振るうと、黒炎の奔流が自由都市の兵を薙ぎ払った。
悲鳴が上がり、兵士たちが倒れる。
「アルト殿!」
セリシアが振り返る。
「彼を止められるのは、あなたしかいません!」
俺は歯を食いしばった。
――そうだ。これは俺の戦いだ。
最弱と切り捨てられた俺が、最強の仲間と共に挑む戦いだ。
「リオネル!」
俺は叫んだ。
「お前は間違っている! 俺は、もうお前の従者じゃない!」
◇ ◇ ◇
その瞬間、敵陣の後方がざわめいた。
「な、何だあれは……!」
現れたのは、巨大な影。
リオネルが禁忌召喚で呼び寄せた“黒き竜”だった。
翼を広げ、咆哮を上げただけで大地が震え、兵も民も恐怖に凍りつく。
「ははははは!」
リオネルが高笑いする。
「見よ! これぞ我が力! アルト、貴様など一瞬で踏み潰してくれる!」
俺は拳を握り、仲間たちに叫んだ。
「皆、俺に力を貸してくれ! 今度こそ――共に超えるんだ!」
セリシアが剣を掲げる。
「はい、アルト殿!」
エレノアが祈る。
「神の加護を!」
ルシアが槍を構える。
「竜を討つぞ!」
ジークが笑う。
「燃やし尽くしてやる!」
俺は全員と繋がり、叫んだ。
「――【共鳴補助】!」
光が爆ぜ、戦場全体を覆った。
剣と槍と炎と祈りが一つに重なり、黒き竜に立ち向かう。
自由都市防衛戦。
今、開戦の火蓋が切って落とされた。