第12話 自由都市同盟と王国の大軍進軍
影の将軍ヴァルドを退けた翌日、自由都市ガルディアの中央広場には異様な熱気が渦巻いていた。
各商会の代表、冒険者ギルドの幹部、傭兵団の長、亜人族の長老までもが一堂に会していたのだ。
「王都で反乱が起き、リオネル殿下が実権を握った」
「第一王女セリシア殿下は反逆者とされ、従者アルトと共に追われている」
「だが禁忌召喚まで使う王子を、王国の正統と呼べるのか?」
怒号と嘆きが飛び交い、広場は混乱寸前だった。
「静粛に!」
セリシアが壇上に立ち、凛とした声で場を鎮めた。
「皆に伝えたいことがあります。王国は、兄リオネルによって歪められました。ですが……私は諦めません。必ず王国を取り戻します。そのために、どうか皆の力を貸してほしいのです!」
広場に沈黙が落ちた。
俺は彼女の隣に立ちながら、心臓の鼓動を感じていた。
――俺の役目は、彼女の言葉を支えることだ。
「信じろと言われてもな」
傭兵団の長が腕を組む。
「口だけなら誰でも言える。俺たちは命を賭けるんだ」
「では、証明します」
セリシアが一歩下がり、俺を見た。
「アルト殿。どうか」
「……分かった」
俺は壇上から傭兵長に歩み寄り、その腕に触れた。
「【万能補助】」
瞬間、男の筋肉が膨れ上がり、瞳が見開かれる。
「なっ……身体が軽い……力が溢れる……!」
どよめきが広がる。
「これが……噂の……」
「最弱と呼ばれた従者の力か……!」
「違う」
セリシアが強く言った。
「最弱ではありません。この人こそ――最強の従者です!」
◇ ◇ ◇
その後も、俺は商会の護衛や亜人族の戦士たちに次々と補助を施した。
触れた瞬間に分かる。彼らの呼吸が整い、動きが鋭くなる。
周囲の目が変わっていく。疑いから、畏敬へ。
「……分かった」
亜人族の長老がゆっくりと頷いた。
「そなたがいれば、我らも立ち上がれる」
「我が傭兵団も協力する」
「商会も資金を出そう」
次々と賛同の声が上がり、ついに広場を覆っていた混乱は一つの方向へ収束した。
――自由都市同盟。
それが、この日誕生した。
◇ ◇ ◇
夜。宿に戻った俺たちは、ようやく安堵の息をついた。
「アルト殿、本当にお疲れさまでした」
セリシアが微笑む。
「あなたのおかげで、この街は一つになれました」
「神の御心でしょう」
エレノアが祈るように言う。
「アルト様は希望の灯火です」
「ふん、やっと分かってきただろ」
ルシアが笑みを浮かべる。
「お前は最弱でも反逆者でもない。……皆を繋ぐ“核”だ」
ジークも拳を握りしめて言った。
「最高だったぜ、アルト! 俺、あんたについてきてよかった!」
仲間たちの言葉に、胸が熱くなった。
俺は……もう孤独な従者じゃない。
◇ ◇ ◇
だが――その夜遅く。
自由都市から北の国境にある砦に、轟音が響いた。
「敵襲――っ!」
見張りの兵が絶叫する。
闇の彼方から現れたのは、旗を掲げた王国軍。数千の兵が鬨の声を上げて迫っていた。
「リオネル殿下万歳!」
「反逆者アルトを討て!」
最前列には禁呪で強化された騎士たち。
その後ろには影の将軍ヴァルドの姿もあった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
急報を受けた俺たちは、自由都市の城壁の上に立っていた。
「……あれが、王国の大軍」
セリシアが蒼ざめた顔で呟く。
「数千か。いや、それ以上だな」
ルシアが槍を握りしめる。
「真正面からでは勝てん」
「アルト様……」
エレノアが俺を見つめる。
「どうか……私たちを導いてください」
ジークも隣で息を荒げながら言った。
「アルト、ここが正念場だぞ。俺たちは逃げるのか? それとも――戦うのか?」
俺は、城壁の下で整列する大軍を見下ろした。
かつての主リオネルの軍勢。
最弱と蔑まれ、捨てられた俺を、今度は国を挙げて討とうとしている。
――逃げられない。
「……戦う」
拳を握り、仲間たちに告げる。
「俺たちは最強のパーティだ。自由都市同盟と共に、王国軍を迎え撃つ!」
仲間たちの瞳に、強い光が宿った。
――戦争の幕が、今まさに切って落とされようとしていた。