第10話 自由都市の試練と刺客の襲撃
自由都市ガルディアの朝は、喧騒から始まった。
市場に並ぶ露店、鍛冶屋の金槌の音、冒険者ギルドの依頼掲示板の前に集まる人々。王都とは違う、活力と混沌の入り混じった空気が街を包んでいた。
「アルト殿、今日はいよいよギルドで正式に登録ですね」
セリシアが凛とした笑みを浮かべる。
「この街で活動するには、冒険者として認められねば」
「ええ。神の加護もあります。必ず良い道が拓けるでしょう」
エレノアが祈りを結ぶ。
「形だけだ。だが、ここで力を示せば一気に評判が広まる」
ルシアが槍を担ぎ、鋭い視線を周囲に走らせた。
「……うん」
俺は小さく息をついた。
昨日仲間になったジークも隣に立ち、期待に満ちた目を向けている。
「アルト、お前の補助があれば、俺たち最強だろ。見せつけてやろうぜ」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの広間は、朝から賑やかだった。
新米冒険者の登録希望者が並び、酒場では既に飲んでいる連中もいる。
「――次!」
呼ばれて進み出た俺たちに、試験官らしき壮年の騎士が目を細めた。
「随分と派手な顔ぶれだな。王女に聖女に竜騎士……これは見世物か?」
ざわざわ、と周囲が騒めく。
「まさか王族が来るとは」
「でも本物かどうか……」
俺は一歩前に出た。
「俺がアルト。……最弱と呼ばれた従者だ」
「ほう、妙なことを言うな」
試験官が鼻で笑う。
「ならば証明してみろ。条件は単純だ――この模擬戦場で、我らギルドの精鋭を相手に生き残ってみせろ」
◇ ◇ ◇
広場に集められたのは、傭兵や魔術師、十数人の熟練冒険者たち。
試験官が声を上げる。
「武器も魔法も自由だ。手加減は無用。……始め!」
瞬間、魔法の矢と剣戟が一斉に襲いかかる。
「アルト殿!」
セリシアが駆け出す。俺はすぐに彼女に触れた。
「【万能補助】!」
剣が閃光を纏い、敵の刃を弾き返す。
「はああッ!」
一撃で三人を薙ぎ払った。
「次は俺だ!」
ジークの肩に手を置く。炎が爆ぜ、巨大な火球が広場を覆う。
「どうだ!」
「光よ、守れ!」
エレノアに補助を流すと、彼女の祈りが巨大な光壁を展開し、無数の矢や火球を飲み込んだ。
「おらああ!」
ルシアの背に触れた瞬間、雷鳴が轟き、槍が一直線に敵を貫いた。
……俺の力は単なる補助じゃない。
仲間の力を繋ぎ、相乗させ、数倍にも十倍にも跳ね上げる。
「やめっ……降参だ!」
冒険者たちが次々と武器を投げ捨てた。
◇ ◇ ◇
静まり返った広場に、試験官の声が響いた。
「……合格だ」
彼は驚愕と畏敬の入り混じった眼差しで俺たちを見た。
「お前の力は、確かに最強だ。王国で“最弱”と呼ばれたのが信じられん」
ざわめきが広がる。
「とんでもない奴が現れたぞ……!」
「これで自由都市は安泰だ!」
俺は深く息を吐いた。胸の奥に、確かな実感が灯る。
――俺はもう笑われるだけの従者じゃない。
◇ ◇ ◇
その夜。
ギルドで祝杯を挙げた帰り、俺たちは路地裏で異様な気配を感じた。
「……来たか」
ルシアが槍を構える。
闇から現れたのは、黒衣の刺客たち。昨日よりも数は多く、動きは鋭い。
「リオネル殿下の命により、アルトを討つ!」
「やはり……!」
セリシアが剣を抜き、エレノアが祈りを唱える。
「アルト、頼む!」
ジークが笑みを浮かべる。
「力を貸してくれ!」
「……ああ!」
俺は全員の肩に触れ、全力で補助を放った。
光が爆ぜ、力が重なり、四人の戦士が一斉に闇へ飛び込む。
「――行けぇぇぇッ!」
剣閃が、炎が、祈りが、雷槍が、闇を裂き、刺客たちを一瞬で制した。
◇ ◇ ◇
息を荒げる俺に、仲間たちが駆け寄る。
「アルト殿、無事ですか!」
「ご加護がありました……!」
「お前の力のおかげだ」
「やっぱり最高だな!」
俺は深く息を吐き、笑った。
「……ありがとう。俺は――皆と共に最強になる」
◇ ◇ ◇
だが、街の塔の上からその光景を見下ろす影があった。
「……面白い。だが、殿下の命は絶対だ」
冷たい視線が俺を射抜く。
リオネルが放った最強の刺客――“影の将軍”が、すでに動き出していた。