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澄華の刻  作者: 朝陽 澄
3/5

第3話:闇に潜む糸

(すべては一本の糸で繋がっている)

薄暗い薬草庫の片隅で、私は息を潜めていた。

昨日の夜、調合室に忍び込んだ黒衣の影の正体を探るべく、私は新たな情報を集めていた。


その影が触れた壺の中身は、通常の白薬に見えた。

だがよく見ると、白薬の粉末の粒子に微かな差異があった。


顕微鏡で観察すると、一部の粒に微細なガラス粉が混入している。

ガラス粉――それは普通の薬草にはありえない異物。

小さな傷を口内に作り、そこから神経毒の吸収を助長する。


「これがトリックの核心ね」


私は震える指先で書き留めた。


疑念は、調合の記録だけではなかった。


後宮で使われる薬草の仕入れ帳を再度見直すと、

「白薬」の納品に毎回同じ差出人名が記されているが、その中に偽名が混じっていた。


しかも、その偽名はたった一日だけ使われていた。


「つまり、誰かが一度だけ別人になりすまして納品した」


その日にだけ、微妙に重量が増えた記録も一致する。


私は朝廷の番人に聞き込みを始めた。


「その日、荷物を運んだ者の姿を覚えていませんか?」


番人は眉をひそめ、考え込む。


「……確かに、見慣れぬ男が来ていました。

背中に痣があり、歩き方もどこかぎこちなかった……」


「痣?」


宮廷の男たちは、通常何かの印を身体に残すことは許されていない。

その痣は、ある秘密を示している可能性があった。


私はその痣の写真を取り寄せ、見覚えのある絵を思い出した。


それは、宮廷の「洗濯部屋」で働く男たちの証だった。

彼らは厳しい規律の中で働き、身分は低いが自由のない存在。


(まさか……)


私は洗濯部屋を訪ねた。


そこには、荒んだ表情の男たちが洗濯物に埋もれていた。

その中に、一人、私の目を引く若者がいた。


「あなたは、あの日荷物を運びませんでしたか?」


彼は一瞬怯えたが、やがて静かに頷いた。


若者は名を凌華りょうかと名乗った。

彼は貧しい村から来たが、宮廷に入る以前に負傷し、痣を負ったという。


「私に命令したのは誰ですか?」


彼はしばらく黙り込み、やがて漏らした。


「詳しいことは知らされていません。ただ、白薬の箱に何かを混ぜるよう指示がありました」


「なぜあなたはそれを拒まなかった?」


「拒めば命がありません」


私は彼の話を聞きながら、心の中で問いかけた。


(この陰謀は、底辺の者たちも巻き込んでいる。

単なる一人の犯行ではなく、組織的なものだ)


しかし、宮廷内で誰が黒幕なのかはまだ見えなかった。


帰り道、私はふと思い立ち、ある薬草の採取地に足を運んだ。


そこは、宮廷の薬草庫に頻繁に納品される山奥の小村。


村人は素朴で口数が少なかったが、私は丁寧に話を聞いた。


「最近、白薬に変わった色の葉が混ざることはありませんか?」


村人の一人が目を伏せた。


「……最近、見慣れない男が来て、薬草を採る場所にまで入ってきました」


「男の特徴は?」


「傷跡があり、眼が薄く青い……とても冷たい目をしていました」


(薄氷の瞳――あの若者の瞳に似ている)


宮廷に戻った私は、全ての断片を繋ぎ合わせた。


偽名を使った納品。

荷物を運んだ洗濯部屋の若者。

彼の命令者。

そして、異物混入の巧妙なトリック。


だが、私が最も注目したのは、毒を仕込んだ薬草の選定だった。


毒性を強めるため、わざと細かいガラス粉を混ぜ、吸収率を上げていた。


そして、犯人は薬草の入荷と調合の両方を掌握できる立場にいる。


その夜、私は密かに計画を練った。


犯人をおびき寄せ、証拠を掴むための罠。


宮廷の闇に光を投げかけるため、私の知恵と勇気を総動員する。


(この闘いは、まだ始まったばかり)


私は決意を新たにしたのだった。

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