表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
澄華の刻  作者: 朝陽 澄
2/5

第2話:薄氷の瞳

(犯人は後宮のどこかにいる)

私の胸を冷たく締めつけるのは、真実の重さだった。


あの夜、密かに接触した業者の倉庫に忍び込んだときのことが、鮮明に蘇る。

目の前に積まれた白薬の束。その中に紛れ込んだ、見慣れぬ小さな葉。


「この葉……」

じっと見つめると、誰も気づかない細工が施されていた。


翌朝、私は薬草庫へ向かう足を止めた。

裏手の小さな窓から差し込む朝日が、庫の棚に並ぶ薬草の陰影を揺らす。


私はあの小さな葉を慎重に観察した。色味は似ているが、明らかに違う。紛れもなく「鬼毛草きもうそう」――強烈な神経毒を持つ、禁忌の薬草だった。


もしこの葉が混入していたら、被害者が感じた症状は説明がつく。


けれど、どうやってこれが混ざったのか?


その疑問を解く鍵は、後宮の薬草調合室にあった。


調合室には、誰も入れてはならない時間がある。


私は深夜、忍び込むことを決めた。


細い月明かりの下、扉の錠は思ったよりも簡単に外れた。

中には、散乱した薬草と、いくつかの調合器具が置かれていた。


そして、机の上に置かれた調合記録の一冊。


私はその頁をめくる。


「あれ……?」


ある日の調合記録に、誰のものでもない指紋が微かに残っていたのだ。


さらに驚いたことに、記録の中の白薬の分量が、複数日で微妙に増減している。


この部屋に、薬を改ざんする者がいる。


私は翌日、同僚の薬師に会った。彼女は澄華と同じく女性で、控えめな笑顔を浮かべていた。


「凌澄華様、体調はいかがですか?」


「ありがとう。あなたに話があるの」


私は意を決して、彼女に最近の異変を打ち明けた。


彼女は驚きの色を隠せなかったが、私の観察力を信じてくれた。


「実は私も、あの調合室の鍵がゆるいのを感じていたのです。誰かが出入りしている……」


共に調査を進める決意をした私たちは、夜の後宮で見張りを始めた。


数日間、誰も現れなかった。


そして、ついに――


深夜の静けさを破り、黒衣の影が調合室へ忍び込んだ。


私は息を殺しながら、その影を見つめる。


彼女の細い指が、白薬の入った壺を開ける。


「やはり、あの者か……」


しかし影は、壺の中に何かを混ぜると、静かに去っていった。


私は心の中で問いかける。


「あなたは、誰のために毒を仕込んでいるの?」


翌朝、私は毒の解毒剤の研究に没頭した。


被害者の死因は神経毒の急性中毒。解毒剤は存在するが、適切な処方がなければ効かない。


私は薄氷のように繊細な薬草の配合を何度も試みた。


(これで助けられる人がいるかもしれない)


そんな思いが私の指先に力を与えた。


そして、宮廷での薬草の入荷管理に細工があると気づく。


誰かが定期的に薬草の分量を操作し、毒を混入している。


その裏には、誰もが認める権力者の影がちらつく。


だが、今はまだ証拠が足りない。


私は冷静に事実を積み重ね、全てを繋げる時を待つことにした。


(この後宮の闇の中で、私だけが真実を見ている)


私の薄氷の瞳は、明日を見据えて光り輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ