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赫き一族  作者: KM
3/4

第三話 準備

026:綾木陸(仮名・投稿)


回答する。


【質問1】

B:登山


【質問2】

C:赤い布


【質問3】

B:馬の頭の像


【質問4】

C:赤黒い布


【質問5】

顔の左半分に火傷のような痕があり、左目が義眼。背中には大鉈。


……以上。

あんたが“本物”なら、これで通じるはずだ。


それと――あんたとの接触にあたって、以下を提示する。


【専用連絡用メール】

⇒【zeroark_press@xmail.red】


【暗号化メッセージツール:AegisChat】

⇒【ID:arkwriter_l】


※いずれも、第三者の傍受・追跡対策済み。

再度の投稿は控える。そちらの判断を待つ。


──その直後。


▶ 028:観測者-ZERO


……全部、合ってる。


あのスレをリアルタイムで見てたか、もしくは保存してた奴じゃなきゃ無理だ。


……いいだろう。

少なくとも今のところ、“お前は信じるに値する側”と仮定してやる。


こっちから連絡する。

数時間以内に、“あんたが指定したアドレス”にテスト用の暗号文を送る。


解読できなければそこで終了。

解読できたなら──次は、赫ノ邑に踏み込む覚悟があるか、試させてもらう。



綾木は、モニターに表示されたその短い返答をじっと見つめた。

視線は鋭く、だが唇はわずかに吊り上がっている。


「……釣れたな、観測者-ZERO」


手がかりは、確かに繋がった。

だがそれは、まさに“扉が開いた”ことを意味する。


その扉の向こうに、何が待っているのか。

それを知る覚悟は、もう綾木の中でとうに固まっていた。


「さあ来いよ。地図にない地獄むらの、真実ってやつを見せてみろ」


深夜二時を過ぎた頃。

 綾木のノートパソコンの画面に、静かな通知音が鳴る。


 ──新着メールあり。


 件名は、《RE: 地図にない村》。

 送信元は、一見して意味のない文字列だが、認証済みのアドレスからだった。


 綾木は静かに息を吐き、マウスをクリックする。

 メール本文は、次のようなものだった。



──【code:零式一段】──


47-68-21-33-13-89

59-23-17-38-72-91

11-52-19-26-60-73

84-34-10-42-95-05


訳せ。


見えるか?“赫”の入口が。



「……くると思ったぜ」


 綾木は鼻を鳴らすと、PCの脇に置かれていたアングラ掲示板における暗号通信用コード表の自作メモを取り出す。

 これは、主にオカルト系掲示板で仲間同士が情報をやりとりする際に使われる“簡易多段暗号”で、かつて綾木自身も使っていた手法だ。


 この数字列は、おそらく


「1~26=アルファベット、27以降=変則記号」

「位置によって並び変えが発生する“零式変換表”」


 という仮定に基づいた暗号だ。


「まず、47は……Z、68は──Aじゃなく、符号位置変換……Cだな。ふむ」


 ──約5分後。


 綾木の目の前に、簡素な1文の文章が復元された。



「山ノ神ハ目覚メツツアル」



「……マジで、ただの投稿者じゃねぇな、アンタ」


 その意味を呟くように口にしながら、綾木は即座に返信を始める。




▶ To:観測者-ZERO

▶ Subject:RE: 解読完了


解読結果:

「山ノ神ハ目覚メツツアル」


了解した。“赫”の扉は、こじ開ける価値があると確信した。


そちらの条件は何だ?


俺は“現地に行く覚悟”がある。

だが、その先を知るためには、あんたの導きが必要だ。



その送信を終えた瞬間、綾木の中で確信に似た緊張が走っていた。


 何かが、動き出している。

 この国の暗部に潜む、巨大な“異常”が…


綾木の送信から数十分後──午前3時を回った頃。

 メールクライアントに、再び通知が灯った。


 件名:《RE: 導入の鍵》

 差出人:《観測者-ZERO》


 綾木は口元を引き結び、メールを開く。



どうやら本当に“覚悟”があるようだな。


──ならば教えよう。“赫ノ邑”は、確かにこの国に存在する。

だが、その“場所”は地図にはない。正確に言えば、地図から外された。


お前はこう考えているだろう。

「登山中に迷った? 方角は? 山の名前は? GPSは?」と。

だが、“赫ノ邑”の周囲は**“存在を拒む”霧”**に包まれている。

方位磁針も狂う。スマホも圏外になる。

地図上の場所ではたどり着けない。普通の手段では、な。


お前に試してほしいルートがある。

それは、かつて俺が“通った道”だ。


──その山の名は、『常夜嶺とこよね』。

一部の古い登山マニアや地誌資料にだけ残る、廃ルート扱いの山道だ。


【アクセス情報】

・県道194号線から分岐する“旧・林業作業路”を進め。

・獣道のような崩れた斜面に、小さな鳥居と祠がある。

・そこからが“結界域”だ。GPSはここで死ぬ。

・そこを越えた者だけが、“あの村”の空気に触れられる。


──だが警告しておく。

あの場所は、“見た者すべて”が帰れるとは限らない。

一度踏み込んだら、何かを“失う”覚悟が要る。


※この情報は自動消去設定済み。次の通信は【AegisChat】で。



 綾木はメールを黙読し終えると、画面から視線を外し、深く息を吸った。

 胸の奥に、うすら寒い緊張と高揚感が同時に走る。


「──来たな。これで、片足突っ込んじまったわけだ」


 常夜嶺──その名に聞き覚えはない。

 だが、旧地図を漁れば何かが見つかるはずだ。


 綾木は立ち上がり、壁際に置いた資料用の本棚をあさる。

 手に取ったのは、**“昭和期の未修整地形図”**と、数冊の古い山岳記録。


「見つけてやるよ、“地図から消された村”をな」


その言葉とともに、綾木はバッグにカメラ、録音機、登山靴、そして護身用のスタンガンを詰め始める。


行く準備を、今まさに整え始めたのだった。


綾木がザックに最後の装備を詰め終えた頃、スマホに新たなメッセージが届いた。

画面を覗き込むと、それは観測者-ZEROからのものだった。



「良かった……俺の話を信じてくれる人がいて。

正直、もう誰も信じてくれなかったからな。

だが、これが最後の忠告だ。

お前はもう“狙われている”。

奴らはただの人間じゃない。ネットの裏側、深い闇の中で動く“赫ノ邑”の守り手たちだ。

情報はすぐに消される。通信は監視されている。

くれぐれも用心しろ。お前の命だけでなく、関わる全てが危険に晒される。

これ以上は言えない。だが、俺は……もう動けない。

あとはお前に託すしかない。

連絡は【AegisChat】で続けよう。安全のためだ。」



綾木は息を呑み、静かに画面を閉じた。

胸の奥で、ざわめく不安と決意が交錯する。


「狙われてる……か。だが、引けない。

ここまで来た以上、真実を掴むまでは。」


深夜のアパートに、静かな決意の気配が満ちていった。

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