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外交手腕

作者: 葉沢敬一

 縁あって大学時代にドドンガ語を取得した私は、大使の通訳として任命され、ドドンガ国に付いていくことになった。通訳するだけでなく、大使の教師としても期待されているらしい。ドドンガ国は小国で、師事していた大学の教授が急死して以来、私が専門家として国の機関に登録されている。


 ドドンガ国の歴史はそう長くない。ポルトガルとイギリスに一時期統治され、文字を持たない土着のマアウイ族が反旗を翻して独立しため、150年くらいしか分かってない。言語が3つ入り交じっているため、なかなか複雑な言語になっている。


 なぜ大使が任命されているのか。それは、この国にレアメタルの大鉱脈が発見されたからである。そのため、レアメタル発見直後から色んな国の思惑であっちの経済圏に引き込まれそうになったり、こっちの経済援助を受けたりで、ドドンガ国はなかなかしたたかな外交手腕を磨いてきた。


 我が国としても、是非仲良くしたいと思うようになったが、いかんせん、レアメタルが見つかったのが最近なので、国交がない時期が長く人材が薄いのが現状である。


 で、私に白羽の矢が立ったわけだ。


 大使と一緒に住み始めると日本に居ては知らなかった現地の事情とか分かってきた。首都はレアメタル景気に賑わっていて、国から割り振られた予算だとマンションを借りるのが精一杯。


 インフラがあんまり普及してないので固定電話はなく、スマートフォンを使っている。資源発見後に引かれた海底ケーブルでインターネットに繋がっている状態。もちろん大使館は衛星回線にも繋がっている。


 大使とうどん(現地でもウドンという)を啜っていると、マアウイ族の婦人が夫を従えて店に入ってきた。マアウイ族は女性の方が地位が高い。兄弟やいとこ婚が多いので血が濃い傾向にある。ポルトガル人やイギリス人との混血は非常に少ない。


 夫は席に妻を座らせると、我々と同じくうどんを注文した。その気の使いようは端から見ると卑屈に見えて、狂ったフェミニストは喜ぶかもしれないが、正当なフェミニストならちょっと不快に思うだろうというものだった。


 婦人は我々を見ると、

「あんたたち、この国に悪いことしにきたんでしょ」と言う。


 私がそれを大使に伝えると、大使はにこやかに

「いえいえ、お互い共存共栄するために来たんですよ」と答える。


「若い男をを伴侶にしていいわね」


 どうやら婦人は我々が夫婦だと思っているらしい。あ、書いてなかったけど大使はキャリアの女性である。女性優位の情報を事前に得ていたので、女性大使を送ったのだ。


「勘違いされているようですが、私たちは結婚しているわけではありませんよ。上司と部下の関係です」


「結婚しなさい」婦人はご無体なことを言う。


 そこへまた新たな客が数名。仮想敵国の大使一行だ。外食産業は発達してないので、夜食べようとするとする店は自然と固まってしまう。


 向こうの国の大使は、

「よう、少しはドドンガ国に慣れたか。まあ、この国もすぐに我々の経済圏にはいるから無駄だけどな」と言って反対側の席に座った。


 マアウイ族の婦人は顔をしかめて、

「こいつ男なのに威張っていて嫌い」と現地語で話した。夫が取りなすように、気にするなよとか言っている。


 そういえば、ここは一流外国料理屋である。この女性は誰?


「失礼ですが、この国で名の知れた方と見受けました。お名前を伺って宜しいでしょうか?」


 その女性は、首相の妹だと名乗った。あー、向こうの大使しくじったなと私は思った。現実は金ではなくて、軍事力でもなくて、ビジネスは信用で動く物である。


 その日、首相の妹夫婦と歓談して、仲良くなった我が国は取引量が増加して、本国からお褒めの言葉を頂いた。


 なお、未だに妹さんから、二人とも早く結婚しなさいと言われている。

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