出会いと別れ・・・(4)
もう何枚目だろう。
便箋綴りからまた一枚ビリビリと破り捨てる。
書き出し数行ですぐに言葉に詰まって、また書き直し。
もうこれをかれこれ1時間ほど繰り返している。
真っ白な紙に線だけが引いてある便箋の上にボールペンが転がった。
手が完全に止まってしまい、両頬に手を当てて手を仰いだ。
さながらムンクの叫びだ。
はぁっと大きく息を吐いて、店員さんにコーヒーのお代わりを注文する。
なんて進まないんだろう。言いたいことは山ほどあるのに。
どうやって伝えればいいのか。
甘いものでも頼んでみようかとメニューに手を伸ばした。
その指の先に湯気が立ち上るコーヒーが届いた。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
空いたカップを渡そうと顔を上げて、目が合った。
あれ・・・見たことある顔・・・。
「あの・・・この間遥香さんと一緒にいた後輩さん・・・ですよね?」
ハッした。
思い出した。
あの時、会計前に声をかけてきた男の子だ。
「遥香先輩のお知り合いの方・・・ですね?」
ニコッと白い歯を見せて笑った。
「ハイ。」
「あっ・・・こちらで働いていらっしゃるんですか?」
「はい、バイトしてるんです。結構前から働いてるんですよ。」
「あっそうなんですね。」
店員さんの顔をあまりまじまじと見る習慣がないので全く気付かなかった。
「あの・・・じゃぁもしかして・・・」
「時々いらっしゃいますよね。お仕事されてたり、読書・・・とか。」
だからか。
あの時、じっと見られた気がしていたのは。
「そうですね。自宅が近いのでよく使わせてもらっています。出勤前にモーニングでも来ますよ。」
「そうなんですね。俺はいつも午後から入ることが多くて。今日はたまたま代わりで朝からいるんですけど。」
「そうなんだ。私は今日はちょっと外で作業したくて。」
「なんか・・すごい悩まれてますね。」
「まあ・・・。」
苦笑いしてコーヒーに手を伸ばした。
「すみません、邪魔しちゃって。ごゆっくりどうぞ。」
そういって一歩後ろに下がって頭を軽く下げた。
私もカップから口を離さずに、少し上目遣いのまま微笑み、軽く会釈をした。
はぁっと息を吐いた。
豊かなコーヒーの香りが体中を抜けていく。
「甘いもの・・・。」
頼み損ねてしまった。
また大きい溜息をついた。
どうしようか。
全く捗らなかったが、これ以上進む気もしない。
いくら休憩を挟んでも今は完全に煮詰まってしまっているし、いい答えが出るとはとても思えない。
またコーヒーを口に運ぶ。
遥香先輩に相談した日、アドバイスをもらった。
人間関係も時々断捨離した方がいいと。
縁を切るとかそういうことではなく、期待するのをやめる。
友人関係だと思うと悩むけど、他人、今日そこでたまたますれ違った人くらいの感覚でいると特に傷つかないよ、と。
ただ問題なのは、もう大分その地点まで私がきているということで、それ以上の断捨離となるともう縁を切る選択になりそうなのだ。
しかし、そこで私が煮え切らずにいると、遥香先輩が言った。
「私はそんな人たちもう友達じゃないと思うけどね!」
確かに友達として考えると、あの日のことはとても友人としての様子ではなく、私と彼女たちではステージが全く違うんだなと客観的に見るとはっきり見えてくる。
それに頭を悩ませる必要はないと遥香先輩がいうのは最もだと思う。
「あちらはね、そんな言葉や態度で美月が傷つくことくらい分かってる。それでも構わないと思ってる。そうやってなにを得たいかというと美月に勝ったっていう優越感とか足を引っ張って美月が落ちるとこを見て喜びたいとかそういうこと無意識かもしれないけど思っていると思うよ。」
グサグサと胸に刺さる。
確かに。
あまりに極端な考えだと思ったが、いくら想像してもその通りなのだ。
もし私が仕事を失ったら、大失恋して傷ついたら、馬鹿な男に引っかかったら・・・
私の頭の中には心配そうな顔をして慰めの言葉をかけてくれる友人は一人もいなかった。