美月・・・(4)
特にあい美には、それはもう顕著に、久々の再開を果たした瞬間から感じられるようになった。
会った途端、上から下までざっと見られ、嫌そうな顔をされる。
分かっている。
まず私が身に着けているものが嫌いなのだ。
子供を連れてくる友人もいるかもしれないといつもパンツとフラットな履物を選んでいたし、ブランドが分からないようなシンプルなショルダーバックで、ラフなスタイルにしていた。
しかし、何かが違う。
彼女たちの身に着けている洋服やアクセサリーやスニーカー。
聞いたわけでもないが、それがあの衣料品店のもので、おしゃれをする頻度が減ってしまったがために出番が減り、少し流行遅れになっているお洒落服たち。
そしてヘアメイク。
歳を重ねるからこそ、念入りに保湿をし、メイクも艶が出る下地や、品のいいファンデを選んでいる。
そう高いものではないし、ドラッグストアで買えるようなものだけど、彼女たちはそれを選ばない。
あの若かった学生の頃と手入れの仕方もメイクの仕方も変わっていないことが一目でわかる。
軽くブロウをして艶のある髪色の美月と、根本が数センチ黒くなって、毛先は明るくなっているあい美。
その僅かな差が、充足感や自信、裕福さの差のように美月に映った。
美月にそう映ったということは、あい美もそう感じていたはずだ。
いつもそんな場面になると背中を丸めて隠したくなった。
そんなことないよって言いたくなった。
だけどどうすることも出来なかった。
正解はないと思った。
自分を偽って皆に合わせてもきっと見抜かれるし
自分のままでいても嫌われる。
どうしてそんなことになったのだろう。
そんなことを考えながら披露宴は始まり、目の前に運ばれてくる豪華な食事を淡々と口に運んだ。
私たちと同じテーブルには新婦の職場の後輩二人が座っている。
私たちよりぐっと若く、カッティングの素敵な淡いカラーのワンピースを着た女の子と、ウエストがグッと絞られていて控えめなリボンがとても可愛いワンピースを着た女の子。
披露宴中も、一つ一つの演出に「うわぁ」とか「かわいい!」と楽しそうに歓声を上げている。
後輩のお手本のような二人。
キラキラしていて、みずみずしくて、淡い照明に時々照らされるデコルテの輝きに私の方がドギマギしてしまう。
つい微笑ましくて、いいなぁと小さく呟いた。
「では、お食事をお楽しみください。」
柔らかい女性司会者の声がした。
すると後輩二人がソワソワしながら、膝からナプキンを下し、スマホを片手に新郎新婦の元へきゃあきゃあと楽しそうに歩いていった。
「綺麗です~!」「素敵~!」と声をかけながら記念撮影をしている。
いいな、私も一緒に写真を撮りたい。
チラリと隣の二人を見た。
椅子の背もたれに精一杯腰かけて、手を叩いて大笑いしている。
スマホにもカメラにも手を伸ばす気配がない。
どうしよう。
一人で行っても顰蹙を買うだろうし
二人を誘っても嫌がられる。
しばらく考えて、タイミングを計っていると
テーブルの近くまで戻ってきた後輩たちの足が止まった。
ふと気付いてそちらを見ると、顔を見合わせて琴子とあつ美を見て顔を引きつらせていた。
それはそうだ。
新郎新婦を見もせず、声もかけず、食事もそこそこにしゃべり倒し手を叩いて大笑いしているのだから。
「ねぇ、写真撮ってもらわない?」
席次表にもしっかりと新婦の友人と書いてある以上、このままでは新婦に申し訳ないと思った。
私のモヤモヤなんてもういいと振り切った。
二人は途端に真顔になり顔を見合わせた。
嫌そうな顔をしているが、仕方なさそうに立ち上がる。
高砂に向かう二人の後ろからついていく。
「おめでとう。とってもきれいだよ。」
「…ありがとう。」
新婦は緊張気味に微笑み、私は新郎に「おめでとうございます。」とだけ声をかけた。
白い肌に白いドレス、つやつやとした肌に、緊張して赤くなっている頬、とても綺麗だと思った。
新婦もまた、私との距離を推し量っている友人の一人だった。
ただ私もそういったことが本当にどうでもよくなって、スタッフの掛ける「では撮りますよ~」の声もどこか遠く、とにかく無事にこの場を過ごしたいとだけ思っていた。