美月・・・(3)
あい美は私のキャリアが面白くない。
美月は短大卒業後、地元から少し離れた都会の商社に入社した。
入社できたのは本当にラッキーだったと思う。
そこそこ名の知れた会社で、決して小さくはなく、割と若い人でも知っている会社で、近所の人に話すと「まぁ!」とか「すごい!」とか返ってくるのだと、母は私に自慢げに教えてくれた。
だけど実際に働いてみて、どこもそんなものなんじゃないかと思う。
自分が特別優秀だとか高収入とかではないし、かといって苦労があるでもないし、本当に普通。
普通に働いているだけだ。
私はそう思っていても、周りから勝手にそういう評価がついてくるし、特に学生時代を一緒に過ごしたあい美からすれば、何故美月が、という思いがあってもおかしくはないだろう。
ただ私とあい美、違うものがあるとすれば、大切にする物の価値観は違ったと思う。
私は学生時代、特にモテてはいなかったけど、自分が気に入った人とは割とお付き合いまで発展することができた。
そしてお互いにのめりこむではなく、平凡にお付き合いしていたから、彼が友達と出掛けようが、サークルで旅行に行こうが、特に気になったことはない。
浮気を詮索したことも無いし、携帯も盗み見したことはない。
就職活動中も彼との恋愛を考えて会社を選んだこともないし、彼もまた自分の歩む道をちゃんと見据えて選んでいたし、日々ただ穏やかに一緒に過ごしていた。
お互いに歩む道があって、道がたまたま交差して出会って、恋をした。
それぞれの生きる道を尊重していたから、道が少しずつ離れていけば、自然と私たちはお別れをした。ただ自分たちの道を生きていただけ。それは今も変わらない。
あい美や琴子、他の何人かの友人たちはそうではなかった。
とにかく彼ありき、なのだ。
彼が変わる度に趣味が変わる子もいたし、彼のパチンコに一日掛かりで付き合う子もいた。
本人たちは楽しいと言っていたし、面白おかしく話してくれるのでそんな恋愛もあるんだなと思っていた。
しかし、それも段々と様子が変わってきた。
あんなに親子仲が良かったのに、彼との交際を反対されて不仲になったり、
避妊をしない彼との行為を愛されていると言ったり、
自分が浮気相手であることを知っていても別れなかったり。
異論を唱えたこともあったが、彼女たちは内輪に似た境遇の仲間がいると、何を言っても声は届かなかった。
そしてそれは年齢を重ねて、結婚という言葉が現実味を増すとさらに強力になった。
そして彼女たちは幸せを掴んだ。
自分の愛する人とそれぞれ結婚をした。子供も生まれ、幸せそうであった。
私は相変わらず独身で、かといって結婚に興味もなく、かといって仕事に夢中でもなく、ただ私として過ごしていた。
内心、その幸せが羨ましいとかそういう思いは全くなかったが、みんなで集まれば「幸せそうでいいな」くらいは言っていた。
時が流れていくと段々とみんなで会う間隔が空き始めた。
子供も小さく大変なのだろうと思っていたし、気にならなかった。
そして集まる時間帯もランチになることが多くなった。
待ち合わせ場所で再開を果たした瞬間に、あの頃に戻ったような笑い声があがるのだが、店に到着し、料理が出てくる時にはもうすでに
義理家族の兄弟内格差について愚痴がこぼれだし、
嫌いなママ友の噂話になり、
旦那の隠していたローンが出てきた話になり。
それでも面白おかしく話していた彼女たちは生き生きとはまた違った活気を持っていた。
そして必ず「子供はカワイイ」話になった。
そして私もまた「子供かぁいいな」ぐらいは言っていた。
しかし私は違和感を持って帰途に着くことが増えた。