九十七人目のアイドル
地味な下位アイドルの営業努力が見られます。
あなたはアイドルと一対一で会える局面で、いつも無理難題を吹っ掛けることにしている。付き合ってくれませんか、と。
「すみません。アイドルは交際を禁止されていますので」
黒髪を左右で三つ編みにしたアイドルはそう返答した。
あなたは諦めず、次の無理難題を試した。オーバーパンツを下さい、と。
アイドルは迷った末、あなたに視線を合わせた。とても恥ずかしそうな顔だった。
「それは禁止されていませんので……」
聞くところによると、この売れていないアイドルの衣装は自費で、下は三重で穿いているため、大丈夫らしい。
彼女も必死だったのだろうか。その場で脱いで、フリルが幾重にもついた白いショートパンツ型のものを渡してくれた。
受け取って喜んだあなたには、生涯の目標がある。
それは、アイドルへの無理難題を百人まで試すことだ。
残りは、あと三人。
後続のアイドル達が一人でも同じように承諾をしてくれたらどうしようかと、あなたは内心焦っていた。
もしそれも叶ってしまったら、これまで唯一応じてくれた九十七人目の彼女が、特別な存在ではなくなってしまうからだ。
しかし、そんな心配も必要なかった。百人に到達した時の成功例は、彼女だけだったのだから。
数ヶ月後、ファンとして定期的に会っていた彼女が、アイドルを辞めた。理由は、人気低迷とのこと。やっぱり……と思ってしまうのと同時に、彼女への想いは数段強くなっているあなたがいた。
付き合って下さいとあなたが再び頼むと、彼女はもうアイドルではないので、と言い、今度は快諾してくれた。
「付き合うって決めた理由は、アイドルを辞めただけではないですよ?」
のちに元アイドルの口から、あなたはそう聞いている。
今では、アイドルだった彼女と同居して、愛を育んでいる最中。
彼女はアイドルを辞めてしまったけれど、あなたにとっての彼女は、今でも一番のアイドルだ。
(終わり)
無理難題や目標は不純でしたが、結末は純愛で、ハッピーエンドになったと思います。
アイドル業界では全員が全員、トップアイドルにはなれませんが、特定の人にとっての最高のアイドルにはなれるのですよ、というお話でした。
どうして97人目だったのかは、気に入っている車からの思いつきです。そのドイツの中型ワゴン車が日本では1997年から導入された……という、アイドルと何も関係のないところから取られています。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ、別の作品となりますが、サキュリバーズのほうもよろしくお願いします。