9・新たな食糧見つけた
風呂を作る事になったので建物は村の大工に頼むことにした。
この辺りでは貨幣経済が成立しておらず、もっぱら物品交換が行われている。まあ、仕方がない事だ。そもそも貨幣などあっても使う場所が無いのだから。
といっても、誰も貨幣を持っていない訳ではなく、外との交易には貨幣を用いるのだという。
そんなわけで、俺は大工たちにノコギリやカナヅチなどの道具類を作って渡す代わりに風呂小屋を建ててもらう事になった。
「じゃあ頼む。そうだ、ついでだから飯も食って行けよ」
俺は大工にそう言って、楓の味噌汁を食べさせることにした。
楓はちょっと困ったモノを見る顔をしながら分量を増やしてくれたらしい。
「どうだ、美味いだろ。楓の味噌汁」
大工にそんな自慢をしながら大きさを決めて、材料を集めてもらい、必要な道具についても話を詰めていった。
「よっくんが作ってるんじゃないんだから、自分の事みたいに自慢しないの」
そう言ってくるが、顔は嫌そうではなかった。ただ、風呂に二人で入るのは無しだと念を押してくる。
風呂については大工に木で作って貰おうと思う。自分でも出来るだろうが、その道のプロに任せた方が確実だ。
そして、必要な鉄を仕入れにタチベナへと楓の操る馬車で向かう。
そう言えば馬車に板バネも作りたいなと改めて思ったが、まずは風呂用の鉄砲、まあ要するに水を加熱する釜の製作が必要なので、その材料からだ。
タチベナへ到着すると鍛冶場で作業が行われていた。
どうやら成形した隕鉄を製品に仕上げているところらしい。
「お、やってるな」
俺は彼らに声を掛けて新たな材料に成形が必要か聞いてみると、必要だというので切り出して成形しようと思ったが、ふと、炉で炭を使っているのを見て思った。
「ここには炭職人も居るのか?」
まあ、当然と言えば当然の話だが、居るようだ。
「なら、あの黒い崖があるだろう、アレを蒸し焼きにしてみてくれ」
そう依頼を出した。
石炭にはたいていの場合、硫黄などの鉄を脆くする成分が含まれているので、蒸し焼きにしてそうした不純物を取り除く必要がある。
コークスがヨーロッパで発明されたのは比較的新しい話だが、それ以前の明代の製鉄ですでに使われていたらしい様な話を読んだことがあるのだが、どういう事だろうな。、まあ、中国が骸炭の発明者では困る紳士が居たんだと考えれば納得出来はするんだが。
コークスの製法も魔法知識で引き出す事が出来るとは、魔法って本当に便利すぎる。
炭職人にそれらを教え、風呂釜用に鉄鉱石を精錬して鉄を作って持ち帰る。
そう言えば大工道具も作る必要があった事を思い出してその分の鉄も精錬する。
後は、隕鉄を切りだして鍛冶場で依頼された成形を行って鍛冶場に届ければ終わりだ。
「あ、お風呂が出来るんだから石鹸も欲しいな」
などといきなり楓が仰った。何処にあるんよ、そんなもの。
「大丈夫。材料はクッサラベで揃えられると思うから」
そう言っているのでまあ良いだろう。
荷物を載せてタチベナを発して帰途について少ししての事だった。
「ええ~!」
いきなり楓が大声を上げたので何事かと思ったが、特に何もなかった。
「どうした?」
聞いてみても驚いた顔をして雑木林を凝視するだけ。
「よっくん、凄いの見付けた」
よく分からないがそんな驚きの声を上げて馬車を林に向かわせる。
いや、そこ道じゃないから。
しばらく行って馬車を降りて木へと駆け寄った。
「これ、オリーブの一種だって!ちょうど実がついてる。秋で良かった」
などと意味不明な発言を繰り返しているが、たしかにその周辺には同じように実を付けた木が多く生えているのが見て取れる。
「採って帰るのか?」
そう聞くと当然と言い放つ。
「これ、考えていたより高級な石鹸が出来るかも!オリーブオイル石鹸だよ!」
そうか、石鹸になるのか、この実が。
「ん?待て。搾油が必要になるって事は機械作る必要があるじゃないか」
そう言うと、そうだったという顔をするが、まあ、仕方がない、魔銅は使い道もなく有り余っているんだからそれで作れば良いだろう。
そう結論が出たので採れるだけの実を採って帰る事になった。カゴは急遽持ち帰る鉄を使って作った。
「これだけあればオイルも相当に搾れるだろうから石鹸も作れそうだね」
楓は結局、馬車の荷台が半分程度うまるほど実を採ったので帰宅を諦めてタチベナで一泊することになってしまった。
当然ながら、例のオリーブが大変有用な樹木であり、その実が食用になる事を楓が力説して更なる収穫と管理を依頼したのは言うまでもない。
「オリーブって生で食えないのか?」
加工法ばかり村人に教えているのでそう聞いてみたが、どうやらマズいらしい。
「多分、魔法で渋抜き出来るからちょっと食べる分だけやってみようか?」
そう言って実を荷車から一掴みもって水を張った容器に放り込んで何かやっていた。
30分ぐらいで終わったらしく、村人と食べてみた。
「村でオイル作りしてもらうから搾り機も作って欲しいんだけど」
そう言うのでちょうど手持ちの魔銅を成形して小さなものを製作して小量絞ってみた。
「うん、これなら使えそう」
そう言ってオイルを使って料理したものを村人と食べてみた。
「ホント、楓って何でもできるよな。うらやましい限りだ」
ちょっと呆れながらそう言うと俺の方がうらやましいらしい。そうなんだろうか?
村人は楓の料理でオリーブの美味さを知ったらしく、その木の世話を任せてほしいと意欲的だった。