50・どうにかひと段落。今後もまだ忙しくなりそうだな
初めてここを訪れた帆船一行はクサラベの建物を見て驚いている。
というか、呆然としている。
「どこだココ」
そんなことを言っているほどだ。
「何かすげぇとこだとは聞いていたが、あの船だけじゃなかったのか」
すでに「おかしな船」がある事は知っていたらしいが、町自体がそんなだとは思わなかったらしい。
新しいものを見てびっくりして回っている。
「オリハルコンがあるのは分かった。インゴットも魅力的だが、武器とか防具とか、魔道具みたいなものはないのか?」
クサラベでナーヤマから運ばれてきた魔銅の延べ棒を見てそんな事を言ってくる。
「武器も防具もありはするが、魔道具って?」
そう聞き返すと驚かれた。
「オリハルコンがあるなら物語に出てくるような魔道具が出来るんじゃないのか」
と、聞いて来た。俺には何のことかサッパリだ。
代わりにドワーフが答える。
「物語の魔道具はオリハルコンだけで出来ている訳じゃない。魔砂を結晶化する技が無ければ無理な話だが、誰も魔砂を結晶化出来ちゃいない」
そう言っている。
どうやら、魔砂を結晶化出来れば、俺も良く知る異世界マシーンやロボが出来る、かもしれないらしい。
「どういうことだ?あの船は物語にある魔道具で動いてるんじゃないのか?」
不思議そうに聞いて来た。
どうやら蒸気船が魔導機関で動いていると考えていたらしい。
それもそうか、この世界の物語では、魔砂を結晶化したモノをエネルギー源にオリハルコン製の機械を回転させる事が出来る様になるらしい。
自然に魔砂が結晶化した、いわゆる魔石なるものは存在するらしいが、それはすでに中の魔力はなくなっており、魔法の増幅には使えても、電池の様に魔力を貯める事は出来ないらしい。
当然だが、魔砂をいくら山と積もうと、エネルギーは採りだせない。
いや、その言い方は違うらしいな。
砂粒分のエネルギーは取り出せるが、あまりに効率が悪いのですぐ霧散してしまうそうだ。
かといって、凝縮して結晶化しようとすれば、俺がやらかしたように爆発してしまうという。
自然が時間を掛けて作り上げた魔石は、時間がかかり過ぎているせいで魔力貯蔵力がない。
夢の魔道具を求めてやってきたが空振りだった。
しかし、それでもいろいろなものがあるはずだ。
失敗作の魔銅弓にしてもドワーフの知恵を借りて使えるものが出来ている。
さすがに三角ボウやコンパウンドボウを誰彼構わずばら撒くほどアホではない。
しかし、魔銅弓であれば、既存の弓と基本的な仕様は似ているのでメンテナンスも相応の腕を持ったドワーフや弓師が居れば問題ないという。
「不思議な弓だ。接ぎ木でもしているのか?」
船長が魔銅弓を見てそう聞いてくるので、説明する。
「こいつは手で持つ胴の部分のみを別に作って、上下をしなる魔銅で作っている特殊な弓だ。その代わり、持ち手の部分とは別に矢を置く台座を設けているから、クロスボウのような感覚で安定させている事が出来る。これまでの弓より扱いやすく狙いやすいハズだ」
作ったのは現代アーチェリーの弓だ。
手で握る部分、ハンドルやライザーという部分はグリップとしても持ちやすさ、矢を番える部分を台座として弓道で起きてしまう射る直前に指に乗せた矢を落としてしまう、アレを無くし、安定して狙え、矢が乱れなく弓から離れる様にしている。
三角ボウやクロスボウほどしっかりした台座ではないが、和弓の様に指の上で安定させるほどの不安定なモノではない。
と言っても、この時代の弓は未だ現代アーチェリーのような機械的な弓に進化していないので、矢を番える場所が、和弓の様に体から見て弓の外側か、洋弓の様に体側かという違いしかない。
いわば、和弓かイングランド長弓かと言った違いだ。
そんな修練必須の弓が常識の世界に現代アーチェリーを持ち込んだらどうなるか。
目の前で船長が興奮しているのを見れば分かる。
クサラベには三角ボウがあるし、勇者パーティや神殿騎士団にはコンパウンドボウがあるが、アレは例外だ。
あまりの長射程にドワーフも一般にひろめることを止めているらしい。
「こんな弓があれば、弓兵の価値が変わるぞ!」
そう言って喜んでいる。
他にも、実用性と美術性を併せ持った縞々鋼製品にも飛びついた。
そんな姿を見ていると、楓が声を掛けて来た。
「よっくん、話しがあるんだけど」
ものすごく真剣な顔でそう言う。
「何だ?」
ついて来いという仕草をするので黙って付いて行く。
すると、自宅へと入っていくではないか。どうしたんだろうか。
家の中で改まって向き合うという、最近ないシチュエーションに戸惑ってしまった。
「よっくんはこれからどうしたい?」
改まってどうしたと言うんだろうか。
「何だよいきなり。どうしたいも何も、ここで暮らして行くしかないだろ。地球に帰れるわけでもなく、勇者たちと一緒に戦う訳にもいかないんだ。人も増えたし、食いモンの心配も少なくなった。今更云うのもおかしいが、ここで楓と暮らしていく、その事に何か不満があったか?」
そう言ってみると少し悩んでいる。
「察しが悪いのは仕方がないし、よっくんとここで暮らすって、なんか今更のはなしだよね」
呆れたような困ったような顔でそう言う。
「何だよ。子供が出来たけどどうしようとかってか?ここなら大丈夫だろ。元からそれなりに衛生環境は良いし、蒸留酒作ったんだからアルコールもある。子育てにも不安な環境じゃない」
そう、冗談めかしに言ってみた。
「え?気づいてたの?そう、赤ちゃん」
そう言われたびっくりしたが、マジでここなら問題ないだろう。
色々大変になりそうだが、わずかな期間でしっかり基礎は作った。コミュ力高い楓は俺以上にこの町に溶け込んでるしな。
「マジか。びっくりしたぜ」
呆れながらも安心した顔をする楓。
そう言えば、育児以前に妊婦の扱いなんか俺は知らん。ちょっと漁師たちにでも聞いてみようか。
さて、一応完結です。
思い付きと勢いだけで初めて、5万字程度で終わるだろうと気軽に書いていたら全く終わりに到達できずに焦った焦った。
貴族で陸、ドワーフで空をやったので、舞台は海。
そして、銃、飛行機とくれば船。
これで陸海空と揃える事が出来た。
一応、これにて適当シリーズは完結だと思うんだけど、どうなんだろう?