49・島に帰ったが、やはりここの発展具合は異常だ
本来なら明るくなって主の状況を確認すべきなのかもしれないが、帆船は全く待つ気配がないので先に生かすのも危ないので伴走へと戻り、航海を続ける。
「しかし、良かったな。マグレかあの弾が良かったのかはまた今度検証するとしようじゃねぇか」
漁師たちがそう言って俺を労ってくれた。
俺もどっちなのかよくわからん。
水中弾自体は確率の問題で弾頭が先鋭でも起こりえるものらしいが、水中を確実に走らせるには平頭が良いらしいことは知っている。
日本は実弾射撃で水中弾の存在を発見し、積極的に水中弾を活用しようと弾頭が平らな六号徹甲弾を世に送り出している。
従来の尖頭弾の場合、水中では抵抗が大きくなり横転したりして急速に失速して沈んでしまうらしい。
弾着角度によっては水切りも起こすが、水中の目標を狙って撃った場合、適切に水面に弾着してもそもそも弾はほとんど進まない。
たいして、平頭弾であれば、口径の200倍ほど進むとの結果が出たらしい。
水中弾自体は日本以外でも認識され、米戦艦でも水中弾防御が施されていた。しかし、積極的に水中弾効果を砲弾に持たせたのは日本だけであったらしい。
この水中弾。長らく日本軍の秘密兵器的な話がなされるだけの古い兵器として語られていたのだが、1999年に起きた能登半島沖不審船事件を契機に水中弾というものが引っ張り出され、護衛艦に積む76ミリ砲用に無炸薬の砲弾が開発され、不審船に対して射撃し、水線下の船体に穴を空けることで停止させるという利用法が行われることになった。
21世紀になって日本には水中弾が復活している。コイツは03式62口径76ミリ砲曳光平頭弾薬包という制式名称で採用されている。
なかなか知らないマニアな弾だが、ソマリア沖派遣で話題になったのでたまたま知っていた。
そいつを思い出して、急遽作ってみたわけだ。
果たして平頭弾に拠る効果か偶然かは分からんが、あの弾のおかげで倒す事が出来たんだ。
それから平穏な夜が過ぎ去るかに思えたが、やはり暁を狙ったようにラムアタッカーが帆船に食いついた。
「出たぞ!」
寝ていた俺はまたたたき起こされた。
昨日のうちに試験用としてピンクメッキ弾の一部も平頭弾に改造している。
「例の弾を使ってみてくれ」
船首へと向かった俺はそう指示を出す。
分かっていたのか平頭弾がすでに用意されていた。
「おうよ、もう夜明けだ、弾も見えるかもな」
漁師がそう言って砲に取り付いた。
予期していた様に帆船近傍を航行する俺たちの船はすぐさまラムアタッカーを射程に収めた。
「撃つぞ!」
漁師の宣言と共に発射された弾を見るために船首に駆け上がっていた。
「おお!見事に水中を走ってやがる」
漁師が水泡が着水点から伸びるのを見て感心したように叫ぶ。
見事に弾は水中を進むラムアタッカーを捉え、腹部を抉った。
次々と発砲が行われて水面に顔を出す以前に倒しきってしまい、今回は帆船に被害はなかった。
再度襲われたことを知った帆船の船長が自分の船の周りを漂うラムアタッカーの死体を見て驚いている。
そして、急いで肉を取り込んだ。
「肉を取り込んだ。これで襲って来ないだろう!」
接近していたこちらにそう叫んだ。
「遅せえんだよ、気付くのが」
誰かがそう言っているが向こうには聞こえていないらしい。
「だから!遅すぎたと言ってるんだ!!」
代わりに叫んでおいてやった。
これは向こうにも聞こえたらしい。
ムッとしているが言い返しては来ない。
2度も襲われては言い返す言葉も無いんだろう。
まさか襲われるとは思っていなかった。
襲われても肉さえ切り離せばすべて収まる。
そう軽く考えて習慣を続けたがっていたのだろうが、現実は数メートルもある大型魚が何匹も群れてやって来る。
どう考えても塩漬け肉に一つで収まるほど易しい話ではないし、船を壊されかけてもいる。
頑なに拒んでいたが、さすがに改めざるを得なかったらしいな。船を失って困るのは船長だしな。
それから大人しく航海を続けていると見覚えのある山々が見えて来た。
「おお、見えて来たぞ、山だ」
安全になったからか、俺が監視塔に登っていた。
僅か数日振りの事ではあるが、どこか懐かしさを感じてしまった。
たった半年そこらしか住んでいない土地だが、これからはここで生活するしかない事を受け入れたからだろうか。
湾を形成する半島がはっきりと見え、その奥にも見覚えのある形をした山が見えている。
初めて来たときにはこんなゆとりを持って景色を眺める心境ではなかったが、こうやってみると、ここは中々に良い要港だったんだと改めて思う。
ただ、木々は標高の低い部分にしか生えておらず、山の険しさや気象条件の悪さを見て取る事も出来た。
湾口を抜けるとクサラベやタチベナを見ることも出来る。
タチベナでは今日も製鉄所から煙が上がっているのが分かる。
タチベナに比べると煙の量が少ないクサラベではあるが、その姿は明らかにゲチョとは時代が異なるんじゃないかと思えるような発展ぶりだ。
これをたった半年程度で実現させたここの住民たちのチート具合には驚くやらあきれるやら恐ろしいやら。
本当にスゲぇなと改めて実感した。




