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47・分からずやな船長は大変困る

 周りに浮いたラムアタッカーが4匹いる。


「なあ、あれは食えないのか?」


 船員や漁師たちに聞いてみたが、絶対にマズいからやめろと言われた。毒があるという訳ではないらしい。


 ラムアタッカーと言うからどんな奴かと思ったらシュモクザメみたいな奴だった。


 シュモクザメ、簡単に言えばカナヅチザメだ。


 ちょっと違うのは、形がカナヅチなのではなく、本当に硬い事だ。


 結氷した氷を割るという話を裏付けるその姿には納得したが、サメなら食えるじゃないかと思ったが、死ぬとすぐに臭みが発生しだすそうで、普通なら血抜きをして絞めることで鮮度がある程度持つのだが、コイツはどうしようもないらしい。


 大砲をぶち込んで数十分たったそれは既に無理だという。


 そう言われては仕方がないのでラムアタッカーはそのまま放置して帆船と共にクサラベを目指すことにした。


 帆船の船長はここに至っても襲われた理由が未だ理解できていないという恐ろしい状況だが、それを言っても仕方がない。


 なんせ、今ので追い払えた気で居るようで、新たな肉を船首に括ろうとしていたくらいだ。


 何とかこちらからの呼びかけて止めさせ、ラムアタッカーが肉に引き寄せられたんだと船大工や漁師たちが説得している。


「何言ってんだ。肉を切り落としたから騒ぎが収まったじゃないか」


 と、未だ状況が呑み込めていない。


「俺たちはああやってこれまで安全に航海して来たんだぞ。それをいまさらアレはダメだとかバカ言うなよ」


 漁師たちが海域の違いによる魚類の違いを説明するが、まるで聞く耳を持たない。


「クラーケンが居ないんだろ?だったらより一層、あっても危険はないだろ。さっきみたいに襲われることがあるんだから、無い方が困る」


 そもそも、クラーケンと云うのはイカやタコの類であるらしいが、そいつらが陸生動物を食う事はまあ、普通は無いだろう。


 しかし、ここより北方の海には氷の上を歩く熊やシカが居る。


 主に海で過ごすが、陸で休むトドのような動物もいる。


 漁師たちもトドが陸で子供を生んでいる事も、鼻で呼吸している事も知っているから、鯨やイルカの様に魚と誤認したりはしていない。


 ラムアタッカーはより北方の海を活動域として、トドや熊、シカを餌にする魚だと必死に説得しているが、まるで理解しない船長。


「そんなもん、分からねぇだろ。クラーケンに襲われて逝っちまったヤツは多いぞ!」


 最後にはそうキレているが、嵐に飲まれた事故をクラーケンの仕業と言っている可能性が高い。


 しかし、海難事故だと断言するだけの根拠は誰も持ち合わせていない。


 結局、説得は失敗して船長の指示で新たな肉が船首に吊るされた。


「おい、警戒しろよ、また来るかもしれねぇ」


 なんとか一日を無事に過ごしたというのに、まだアイツらやる気なのかと、俺は呆れながらそれを見ていた訳だが。


 結局、日中に襲われることは無かった。


 帆船の船長はどうやら持論が正しかったと思っているらしい。


 さらにクラーケン避けだと言う夕方には塩辛を投げ込んでいたと、船乗りたちが言っている。


「大丈夫かよアイツら」


 さすがに俺は心配になった。


「大丈夫じゃないかもしれんな。この辺りにもう群が居ない事を祈るしかない」


 船大工もあきらめ気味だ。


 今回引き込んだ帆船はどうやらこれまでこの辺りには来たことが無いらしい。これまで南方で稼いでいたそうだが、クサラベに魔銅が産出すると聞いて、ひと山当てに来たらしい。


 もし、南方へ直接魔銅地金を持ち込めば一度の航海で十分に儲けが出るという。


 もし、魔銅や魔銀の武具や魔道具を持ち帰れば、船長など辞めて、自ら船を差配する船主にすらなれるだろうという。


 南方は直接ケンタウロスの脅威はないが、ケンタウロスから逃れた別の民族の圧力があるそうで、魔銅需要は天井知らずのバブル景気状態らしい。


 だからと言って、あんなことやってたら海に沈めるだけな気がしないでもないんだが、大丈夫なんだろうか。 


 すでに自分たちが被害に遭い、更に新たな被害を見た船乗りたちの多くは、あの南方の風習が危険であると理解している。


 だが、ゲチョから北へ殆ど来た事のない、あの船長は全く理解していない。


 外が明るいうちはまったく何もなく終わり、月明かりに照らされた海面が広がっている。


「やべーぞ、主だ!主が出たぞ!」


 ボケっと月明かりを眺めていたら上からそんな叫び声が聞こえた。


「主だと!!なんで居るんだよ、相手にならねぇぞ」


 漁師たちが口々にそんな事を叫び出す。


「なあ、主ってなんだ?」


 砲手を務める漁師に聞いてみた。


「主ってのは、船よりデカイラムアタッカーだよ。まあ、この船も主と変わらないくらいデカいがな」


 緊張した声で砲手はそう答えた。


「船よりデカイ。白鯨かよ。そうか、なら、縞々鋼弾頭を使おうか」


 周りが騒いでいる中で俺は冷静にそう判断した。


 捕鯨砲で撃ち出す弾丸は砲身保護のためにピンクメッキをしている。


 予想通りにその弾で何の問題もなくラムアタッカーは始末できたが、もしもに備えて高速徹甲弾(APDS)モドキを用意している。


 それが硬度の高い縞々鋼を弾芯に使い、その上から通常のピンクメッキ弾丸を巻き付けたものだ。


 ただ、欠点もある。


 捕鯨砲は初速が遅いから非常に射程が短い。通常弾ならば、突入して弾が変形しササクレることでダメージを与える事も出来るが、硬い縞々鋼では遠距離ではダメージが少ない。硬い事でかえって弾かれる危険性すら抱えている。


 そんな弾だが、使ってみる価値はあると思うんだ。


「縞々鋼を用意した。コイツを主のドタマにぶち込んでやれ」


 俺はそう言って砲手たちに弾を配った。



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