5・魔法鍛冶って万能だが、普通の鍛冶を潰すよな
呆れかえる楓をよそに探知した鉱石を探しに草原を横断して山へと向かう。まあ、すぐそこなんだが。
「あのゴロゴロしてる岩が隕鉄みたいだが、それよりここの方がすげぇぞ。この赤茶の層、全部鉄鉱床だ」
そこは断層が露出しているのだが、数十センチの赤茶の層がある。タチベナを取り囲むこの断崖には全域に数十センチの鉄鉱床が存在している様だ。
「そして、アッチだ。谷に見えてる洞窟、アソコには銀らしき鉱物がある。それもかなりの含有量だな。で、アッチ、目の前の黒い岬だが、あれ、すべて石炭だな」
そこはとんでもない場所だった。
「でも、溶鉱炉とかタタラとかないと鉄なんて製錬できないでしょ」
楓が赤茶の層を見ながら言うが、錬金術がファンタジーのそれならば、魔法で精錬可能なはずだ。
俺は崖に転げている赤茶の石を拾って実際やってみた。
「この通りだ」
魔力を込めると石が砂のように細かくなり、手の中に鉄だけを残してサラサラと足元へと落ちていく。
「凄い!」
楓が驚いている。
「楓が馬を操ったのに比べたらこんなの常識みたいなもんだぞ」
そう言いながら、落ちている鉱石を拾い上げながら鉄の量を増やし、手がズシリと重くなって来た。
適当に木を見繕って手に持った鉄の炭素量を調整してツルハシに成形していった。
「鉄鉱床は後にして、あの隕鉄からどうにかしようか」
俺たちがそうやってウロウロしているとタチベナの住人達が寄って来た。
「ドワーフって言うのはお前たちの事か?」
貫禄のある声と顔をしたイケメン老人が声を掛けてきた。
「昨日、クサラベに着いた鍛冶師のヨシキだ」
俺は老人にそう自己紹介をする。
「ワシはタティヴェナの鍛冶をやっとるヒメノだ」
「こっちは嫁のフウ、よろしく頼む」
そう言って、まず隕鉄をどう加工しているのか見せてもらった。
まあ、大した道具も無いから加工方法もそれなりだった。
「そこで作っている道具はモリや包丁が主なのか?」
そこらに置いてあるのは主にその様な道具類だった。
「斧やノコギリも作れと言われれば作るが、外から持ち込まれたものを使う方が切れ味は良いな」
まあ、そうだな、なんせ、打製鉄器だもん。
そこでまず、隕鉄を切りだしてだいたいの形を俺が作り、仕上げをタチベナの鍛冶集団が行う事を提案した。
「畑があるならクワとかカマも必要だろうけど、畑でどんな農具を使ってるんだろう?」
楓のそんな疑問をヒメノにぶつけてみると、鉄の刃先が付いた木のクワと、打製鉄器のカマらしい。
「じゃあ、いくつかクワやカマを作って、明日は畑のある村へ行ってみようか」
その日は隕鉄を加工してクワやカマを作る事を中心に行った。
結局、クサラベへ帰る事が出来ず、ヒメノ邸で厄介になる事になった。
「フウ殿は凄い魔術師ですなぁ、火をつけ、水をだし、食器を綺麗するとは」
生活魔法がヒメノ邸で驚かれることになった。
翌日、昨日のうちに完成させたクワやカマを持って畑がある村へと向かった。
ガタガタ揺れる馬車の乗り心地には慣れようが無く、村に着く頃にはかなり疲れてしまった。馬車用に板バネ作りたい。
「お、何だ?この赤いの」
カエデの葉と見間違えるような葉を持った植物が目の前にあった。
「あ、それ、触らない方が良いかも」
楓がそう言って来た。
「触っても問題ないとは思うんだけど、その植物には毒があるみたい。種から油が採れるみたいで、薬用らしい」
なぜわかるのかと思ったら、来る途中に魔法があるんだから鑑定も出来んじゃね?と、鑑定をやってみたところ、俺は鉱物が分かるだけでなく、どうやら組成も理解できるらしかった。
その話を楓にして、楓も鑑定魔法を使ってみたところ、植物鑑定が出来るらしく、食用かどうか、あるいはその植物の利用法が分かるらしい。
「薬用か。アロマオイルだな」
俺がそう言うと、少し首を傾げて
「そうかな、『キャスター』らしいけど」
それ、ひまし油だろ。有名オイルメーカーの由来だし、米国アニメの恋人の兄の名前でもある。
「だとしたら、そいつを使ってベアリングの潤滑でもやれば、より快適で乗りやすい馬車が出来るかもな」
エンジンオイル程度の粘度で何処まで潤滑可能かは分からんが。
村に到着すると、タチベナより多くの家屋が存在している。畑もかなり広い様だ。草原っぽいのが縄や服の繊維になる草の畑なんだろう。
「なあ、衣服の材料といえば、綿花か麻だよな。という事は、あれは麻か?」
俺がそう聞くと、正解らしい。
「麻の実はヘンプオイルと言ってディーゼル燃料になるんだぜぇ」
と、偶々知っていた知識を楓に自慢してやった。
「よっくん、燃料作るなら、まずはエンジン造らないと」
うん、せやな。あまりに正論過ぎて何も返せねぇ。
さて、村に着いたので人に声を掛けてみた、この村はナーヤマというらしい。
「鍛冶師が来たと?」
そう言ってサーモンみたいな普通のオッサンが現れた、ヒメノみたいなイケメンではない。
「鍛冶師のヨシキだ」
そう言うと、
「村長のサウロだ。早速何か用かね?」
怪しげにそう言って来たので、クワとカマを渡して懐柔しておく。
「これからは切れ味の良いカマと耕しやすいクワが使えるようになる。そこで、頼みがあるんだが、あの向こうの草があるだろう?アレを育てて種を取って欲しい。機械を作るのにちょうど良い油になるんだ」
そう言うと、少し怪訝な顔をした。
「アレか。確かに少量は薬にするんで採ったりしているが、鍛冶で使うと云うのは量が必要という事か?」
そのうち大量に必要になるかもしれないが、まずは小量あればいいだろう。