柞田 公枝の戦闘報告 1
私、柞田 公枝は大学の友達と勇者召喚されました。
6人で集まっていると、突然、本当に突然景色が変わって聖堂のようなところに居たんです。
初めは良く分からない言葉を掛けられていましたが、突然、言葉が分かるようになり、言われるがままに事が進んでいきました。
そして、私はアーチャーだと言われました。
子供のころから親の影響でアーチェリーをやっていたのです。
しかし、進学した高校にはアーチェリー部は無く、あったのは弓道部でした。
同じ弓だからと弓道を3年間やりましたが、やはり、私はアーチェリーの方が向いているようなので、大学ではアーチェリーをやろうと思っていたんですが、ちゃんと活動を始める間もなく、何とか大学に慣れたところで、勇者召喚です。
そして、6人のうち如月さんは村人だと言われてなぜか一緒に召喚されていた見知らぬ男性の元へ連れていかれました。
でも、如月さんはその男性と親しそうにしています。私達には見せない、どこか気を許したような顔。私にはそう見えました。
そして、皆もそのことに気づいていたらしく、無理に如月さんに声を掛けることなく、神官を名乗る人たちの指示に従って部屋を後にしたのです。
それから3カ月、勇者の訓練だと運動部がやるようなトレーニングをやり、魔法の取得に必要だと、講義も受けました。
その甲斐あって、私達は魔法を使えるようになりました。
私は身体強化と物質破壊の魔法が使えました。
物質破壊は攻撃魔法だそうですが、アーチャーの特性として、賢者や勇者の様に直接手から放つ事が出来ません。矢に魔法を込めて放つという過程が必要でした。
身体強化があるので、非常に強い弓も引けます。
しかし、中世期の木弓や合成弓です。弓道で使用した和弓の方がはるかに使いやすいと、こんなに思った事はありませんでした。
もちろん、身体強化をすれば、トルコ弓や和弓の様に長大な飛距離を出せます。魔法を込めた矢は地面に、的に当たると周囲を破壊します。込め方を変えると貫通力を増したり、勇者に教えてもらったエアバースト弾という物を参考に、その手法を試すと空中で矢を目標上空で爆発させるといった事も出来る様になりました。
そうやってある程度の事が出来るようになった時、騎士に連れられて砦へと向かったのです。
そこは戦場でした。
私たちは直接参加することは無かったのですが、目をそむけたくなる光景が広がっていました。
「あれが敵だ。人の倍の背丈を持ち、3倍の力を振るう。さらに、胴が馬のために走る速さは馬と同等かそれ以上」
そう指さすソレはケンタウロスと言えばよいのでしょうか、馬の首が人間のような造形をし、手や頭があります。
鎧を着こんでいるので顔は良く分かりません。
そして何より、戦士曰く、「マジモンのオーク」の群を従え、兵士たちの陣へと走り込ませていました。
2足歩行をする赤黒い感じの色合いをしたイノシシです。
兵士たちの隊列が槍を構えて突き、叩いて倒そうとしますが、オークは勢いのまま仲間を踏みつけて突進を続け、兵士を踏みつぶすんです。見ていられるはずがありません。
しかし、嘔吐を続け、食事も受け付けない日が数日続くと、その光景にも慣れてしまいました。自分でもおかしいと思いながらも、平気になったんです。
そして、いつしかどこにどう矢を撃ち込めば「敵」を効率的に倒せるのか、そう考えるようになっていました。
最後まで苦しんでいた賢者も、最後にはケロッとして「オークって豚より硬いけど、イノシシみたいにおいしい肉だね。食料にしか見えなくなった」なんて、言い出したんです。
そんな、戦場に慣れてしまった私たちがとうとう戦場に立つという時になって問題が起りました。
勇者と戦士に合う武器が無いのです。
一般の騎士より強いのは確かですが、あのケンタウロスと一騎打ちが出来るとは思えず。オークの群を少人数で薙ぎ払うなど到底不可能でした。
そんな時、如月さんたちが送られたというクッサラベという北方の港町へ行けば私たちの希望に沿う武器や防具が手に入るとドワーフの鍛冶師が言うのです。
騙されたつもりで向かいました。
そこに居たのは如月さんとあの時見た男性でした。
今では幸せな生活をしているという事に嫉妬しましたが、本人にそんな事は言いません。住む世界が違うんですから。
ただ、話しを聞いて驚いたのは、私達以上に貧しい食生活だったモノを僅かな期間でここまで改善した事です。
今では農地の開拓にまで手を出しているそうで、ソバの栽培を増やしたと聞きました。
そして、開発したという缶詰が本当においしかった事です。
ドワーフの方達に製法などを教えたという事なので、もう少ししたら戦場にも行き渡り、干し肉や塩漬け、湯で煮ただけの豆や麦と言った粗末な食事から解放されるだろうとの事でした。
ここにはちょっと日本のモノとは風味が違う味噌があるのも驚きでした。
もちろん、忘れてはいません。私たちが訪れた目的は私たちに合う武器や防具を得る事です。
武器はかの男性、頼光さんが作るそうです。
そして、私も特異な形をした弓を手渡されました。
欲しい弓とは違いましたが、彼がコンパウンドボウを作れることがその弓で分かったので、大きさを指定し、三角ボウを基に長めの矢を射る事が可能なように依頼しました。
長い矢を使うほど込める魔法の強さが増すので、出来るだけ長い矢を射る事が出来る様にしたんです。