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46・やはり予想通りの展開がやって来た

 変わった風習を持つ商人の船を追いかける様にゆっくり航行する。


 本来ならこの船はこの倍近い速度で航行可能なんだが。


「これ、燃料は持つんだろうか?」


 そう心配になるほど遅いが、船大工は何食わぬ顔だ。


「問題ないだろう。1号船はこのくらいの速度で往復できているからな」


 そりゃあ確かにそうだが、コイツは色々と仕様が異なる事を忘れてるんじゃないだろうな。


 そんな不安な気持ちもありながらも、船はゆっくり進む。


 そして、夜になると月に照らされた海原を帆船のシルエットを見ながら進んでいく。


 もう、俺にはここがどこだか分らんが、星読みは把握できているらしい。


「交代だぞ」


 砲の側で海を眺めているとそう声が掛かった。


 どうやら休憩時間らしい。


 捕鯨砲3門にはひとりづつの砲手と弾薬運搬員が居る。


 そして、それらを統制する指揮官が船首砲の後方に居る。それが俺。


 砲は現在、銛を装備可能なように砲身が船内を向いており、弾薬は装填されていない状態だ。


 不思議に思うのだが、一応、目的とする鯨が現れれば獲るつもりでいるからだが、それではラムアタッカーへの攻撃が後手見回るのではないかと思う。


 だが、最近、ラムアタッカーがクサラベへ向かう商船を襲っていないので、楽観視している風であった。


 まあ、俺もあまり気にしていない。襲われたらまじないの肉を落とせば良いのだろうから。


 

 交代したので船内で遅めの食事だ。


 配置についている間に食うには食ったが、パンに缶詰肉を挟んだサンドイッチだけだった。


 その為、交代時間に合わせて食事が用意される。


 これもボイラーの熱を利用する蒸気調理設備があるおかげだ。


 基本は缶詰と言っても、やはりちゃんと温めたモノが皿に並んだものを食べるのがおいしい。


 近海航路なので缶詰が主と言っても生の野菜や果物だってある。


 調理済みの缶詰メニューに加えて、圧力鍋や蒸気釜と言った設備を利用した船内料理は当然にある訳で、主食となるソバ粥や芋類は食事時間に合わせて準備される。


 唯一、冷凍設備がないので、肉や魚は缶詰に頼る事から、どうしてもメインが缶詰になっているという訳だ。


 かといって、あまりにレシピが秀逸な缶詰なもんだから、イワシのトマト煮のような出来事が起きてしまう。


 ツナ缶みたいに料理に使う素材缶の開発が今後のメインになるのかもしれないが、それはそれで船内調理のウデを上げてもらわないと悲劇が待っているかもしれない。


 ま、俺はもう船に乗って捕鯨や討伐なんて真っ平ごっめんだが。


 豆スープがやっぱり缶詰の方が出来が良い現実を噛みしめながら食い終えて、仮眠をとるために船室へと向かった。


「ヨシキ、起きてくれ」


 すっかり寝入っていたらそんな声がした。


「ああ、悪い。交替の時間か」


 そう思って起き出すが、どうやらそうではないらしい。


「交代の時間にはまだ早いが、商人の船が襲われている様だ」


 様だという不確定な話である。


「日の出間近と言ったところでまだはっきりあちらの状況が分からん」


 まだ海か暗いらしく、しかも月は没した後という最悪のタイミングだ。


 のそりと起き上がり、頭がハッキリしてくるのを確認しながら船首へと向かう。


 さすがに今の時間、監視に上がるのは船乗りだ。素人が上がっても役に立たない。


「相手は銛が通じない可能性のあるラムアタッカーかもしれん。弾頭付きを用意しろ」


 船首へ向かうとまだ準備はされていない。


 のんびりしたもんだが、まあ、海賊や軍隊が相手じゃないんだ。しかも、襲われているのは自分達じゃない。


 何とも弛緩した空気の中で準備を進める。


 と言っても、砲手を務めるのは漁師たちだ。捕鯨をやっているので準備は的確で迅速だ。


 護衛だとか戦闘だとかいう経験がないという点を除いては。


 それは俺も同じなので、イマイチ緊張感のない現状に何処か胸をなでおろしている。


「前方、海面に魚影!」


 監視がそう叫んだ。


 俺たちは前方を注視する。


「居やがった。頭の形が鉄鎚みたいだからラムアタッカーだ!」


 全く俺には見えないが、砲手の一人が黒い海面に獲物を見つけたらしい。


「確認した。頭が鉄鎚型だ!」


 ブリッジと監視に向かってそう叫ぶ。


「狙えるようなら狙え!」


 ブリッジからの指示が飛ぶ。


「狙える砲は準備!撃てるようなら撃て」


 3門に対してそう指示を飛ばすと砲弾が装填され、準備良しと返って来る。


 全く俺には見えないが。


「一匹じゃなさそうだ。2,3匹いそうだぞ」


 砲手がそう叫ぶ。


 しばらくすると日の出直前となり、海も少し明るさを取り戻した。


 そして、何となく見ている海面が盛り上がった。


 ドン、ドン。


 立て続けに船首と右舷の砲が発砲した。


 すぐさま再装填が行われ、目標を探す。撃ち洩らしたんだろうか?


「前方、弾は命中。一匹浮いている」


 監視が叫ぶ。


 さすがだな。


 そうこうするうちに速度を速めた船は帆船を抜き去り、周囲を回る様に走り出した。


 ドン、ドン、ドン。


 今度は船首と左舷。もう一発は後方からだ。


 左を見ると水柱が崩れていくところだった。


 どん。


 左に注目していると右舷砲も発砲した。


 結局、終ってみると6匹に取り囲まれていたらしく、周りには頭を失って浮いている魚影や尾ひれを飛ばされて暴れる鉄鎚頭の姿が見える。


「あれって食えないのか?」


 俺がそう聞いてみたが、食えたものではないだろうとの事だった。


「襲われる原因はだいたい分かったな。あのお守りが誘引してたんだろ」


 何とか破壊を免れた帆船の船首には肉が付いていなかった。


 襲われてすぐさま切り落とし、更に呼び寄せてしまったのだろうと、船大工は推測しているようだ。    

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