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45・トマトが毒の実とか、異世界には謎がいっぱいだ

 討伐班のリーダーだと紹介されて話に参加してみたが、すでに明日出港という事を確認するだけになっていた。


 参加した意味あったのか?


 そんな疑問を持ちながら、ただその場に立ち会った。


「では、明日、潮が沖へ向かう頃に」


 そう言って商人は帰って行った。


「潮が沖に向かう頃って、いつなんだ?」


 そう、やはり機関長という事になったらしいドワーフに聞いてみた。


「だいたい昼頃らしいぞ。今日のうちに魚を仕入れておけばゆっくり朝食も食える」


 魚を仕入れて、船に積んである圧力鍋で何か作りたいと。


 それしか考えて無かったろ、コイツ。


 まあ、そんなこんなで日が沈む前に市で魚と野菜を仕入れた。


 夕食と朝食用だ。


「缶詰も良いんだが、たまには違うモノも食いたいだろ」


 そう言うので、市へと付いて行く。


 食材市には色々なモノが売っており、本当に何でもありそうだ。


「ここは南方からいろんなものが来るからな、アッチの芋や豆、麦は東方産だ」


 そう言ってドワーフが説明してくれる。


 が、ドワーフはフラフラと酒市へと引き寄せられていくので、俺が引き戻し、食品探しをさせる。


「お前、そんなことやるならこれ食わすぞ!」


 そう言って赤い実を俺に見せる。


「なんだ、トマトじゃないか。お、南方・・・、なら、イタリア風にトマト煮込みにでもするか?」


 そう言ったら驚いていた。


「バカかお前。これは毒の実だぞ」


 と言っているが、どう見てもトマトである。毒っぽくない。


 不思議に思っていると、その少々酸っぱい実を煮込んで食べた貴族や商人が死んだそうだ。


 しかし、この辺りでも適切に管理すれば育つので、貧困層の食料として使われているという。


 それ、毒があるんじゃなくて、調理法か食器に間違いがあるんだろ。


「知ってるか?金属でも酢や果汁によって溶けることがある。金属の中には毒になるものがあって、食器や鍋に使っている金属や顔料が溶け出して毒になる場合があるんだ」


 そう教えてやると知らなかったらしい。驚いている。


 特に鉛がヤバい事を教えてやると、より驚いていた。


「お前、それじゃあ神器として使われている皿や鍋がヤバいじゃねぇか。鉄と違って弱い火で溶かして作る神器には鉛が含まれるもんがある・・・・・・、まさか、神器の鉛が酢や果汁で溶け出してたってのか?」


 可能性がある事を伝えておく。


 さて、そうと分かれば、貧民食という事で、トマトはひと籠幾らという単位で売られていたので大量購入した。

 そして、イワシらしき青物が大量に売られていたのでそれも購入してイワシのトマト煮を作る事になった。


 当然だが、船に神器のような高級調度品はありやしない。


 だが、ゲチョの商人や貴族が見たら卒倒するであろうタチベナ産の縞々鋼やタチベナ鋼製の圧力鍋と食器が普通に使われている。


 なので、トマトや果物の果汁や酢で中毒はあり得ない。鉛や錫が溶出する心配はないからだ。


 ちなみに、缶詰に利用しているブルーメッキだが、溶出しない事は確認されている。


 楓が敢えて酢だけを詰め込んだ缶詰を10日間放置して確かめた結果、溶出は確認出来なかった。


 カニはやっていないので分からないが、たぶん大丈夫だろうと言っていた。


 そんな訳で、数日振りに缶詰以外の食事となったのだが、作り手が悪かったのか、缶詰を凌駕する出来とはならなかった。


「作り手の問題もあるだろうが、あの缶詰のレシピってのは相当だな。まさか、ここまでスゲェとは思わなかった」


 ドワーフがそう唸るほどだ。


 そりゃあそうだ。缶詰のレシピを考えてんのは楓なんだ。


 あいつが家で作る料理と変わらない味をそのまま缶詰にしようと考え出したレシピなんだから、そうそう敵いやしないだろう。


 そう自慢したら、白けた顔で俺を見る。


「嫁自慢は済んだか?ンなモン聞かされちゃあ、酒が不味くなるって、これもお前のの嫁が考えた酒だったか、チキショーメ!」


 なんか自棄になってやがる。


 そんな騒ぎの夜を過ごし、翌朝も温め直したトマト煮を食べたが、缶詰の方が美味いかもしれん。


 トマトのホール缶とか楓に言ってみようか。



 翌日は食事のあとは出港準備で慌ただしかった。


 俺ももしもに備えて捕鯨砲の点検整備を再度行う。


 耐塩仕様と言っても、鉄製なのだからしっかり点検整備が必要だ。


 そんな事をやっていると商人の船がやって来た。


「それでは行こうか」


 どちらからともなくそんな声を掛け合って出港する。


 今回は帆船に合わせるのであまり速度は出せない。


 高速船として建造された船だけに、低速で航行するのにはあまり向いていないらしく、揺れが周期的に襲う。


「こればっかりは仕方ねぇ。本当なら波乗りしてるところをゆっくり超えていくんだ。遅いとこんなもんさ」


 船大工はこんなもんだとケロッとしているが、俺には不快で仕方がない。


 そして、更に気になったのが商人の帆船だった。


「なあ、あの船首にぶら下げてんのは何だ?」


 何か船首にぶら下げてるんだ。よく分からんが。


「ああ、あれはクラーケンのエサだな」


 クラーケンのエサってなんだよ。


「魔よけの意味がある塩漬け肉さ。クラーケンが出たらアレを切り離せば船ではなく、あの肉を追いかけるって言われている。ま、近海でしか意味が無いまじないだがな」


 塩漬け肉だから、近海航路でならばともかく、遠洋航路じゃ食い物の無駄なのでやることは無いらしい。


 やっても一週間もすれば腐る前に取り込んで食料にしてしまうという。 


 そんな南方特有の風習をこの辺りでやるのは、南方から来たか、さもなければ見栄っ張りだという。


 東方やこの辺りでは豚や羊を飼うにも苦労するが、南方は放牧地が多いらしいから、あんな贅沢が出来るんだそうだ。

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