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44・街を観光して帰ったら役職が付いていた

 ゲチョの街は海から見た時と、実際に街を歩いてみると大きな違いがある。


 海から眺めるソレは明らかにリゾート地といった風情で、その白さがひときわ際立って見えていた。


 しかし、実際に街へ足を踏み入れると、狭い路地が入り組んでいて、観光で散策したいとは絶対に思わない。


 中世だから上から糞尿墜とされただどうしようと思ったが、そこは商業都市、さすがにそんな事はないと言われた。


 そして、そんな街を歩いていくと、大通りというか、いきなり広い空間が現れる。


 どうやらそこから先は城の領域らしく、それまでの雑然とした雰囲気が無くなり、きちんと整理されていた。


「街はあんなのに、ここだけだだっ広いな」


 所々で市を開いている姿こそ見えるが、街道と言って良い広さの道がまっすぐ続いている姿は壮観だ。


「砦の周りだけこうして広く取って、軍勢が固まれるようにしてあるんだ。と言っても、俺たちも詳しい事は知らんがな」


 この街へよく来ていた船員がそう言った。


 道を歩いていくと、街を出ることは無く、また雑然とした細道へと変化してしまう。


 これを見ると、城の周りだけ軍勢が固まれるようにして、そこを一気に上から攻撃するための構造なのかもなと考えてしまった。


 城は山というか断崖を背に建っていて、その周りを街が取り囲んでいる。


 基本的に石造りの街並みなので、街自体が城壁の役割をするんだろう。


 しばらく歩いてみたが、これと言って観光に適した物がある訳でもない。


 ちなみに、貴族などはゲチョの街ではなく、沖合に浮かぶ小島の神殿を宿とするらしい。


 神殿は一般開放された施設という訳ではなく、主に神官や貴族が集う場所だという。


 この国の宗教がよく分からんが、クサラベでもそんな厳格な宗教的な縛りが無かった事を思うと、厳格な規律と云うのは無いのだろう。


「いやいや、神殿の規律は厳しいぞ。厳しい規律を持って生活してるのが神官や貴族たちだ。と言っても、地方領主になると神殿から離れて自由気ままに生活している例は多いがな。クッサラベみたいに神殿自体が領主館を兼ねてる場合なんかは、規律はないも同然だな」


 さすが海を渡り歩く船員、各港町の状況も詳しく、そんな話をしてくれた。


 どうやら厳格な宗教というには程遠い主教らしい。


 それだけでなく、奉られた神も複数居るようで、地方ごとに奉る神すら違い、その影響で特色もあるらしい。


「ゲチョに奉られてるのは創世の神だ。創世の日以外、特に気にする必要もない」


 と、まるで初詣くらいしか行かない神社みたいなことを言ってくれる。


 そんな緩い宗教の影響か、商業は発展し、周辺では漁業も盛んらしい。


「あの缶詰は旨いが、ここに来たら獲れたての魚だろ」


 という事になるらしく、中継港の役割を重視していて独自の産業があるという訳ではないらしい。


「おっと、そう言えば、聖地を出てすぐクッサラベへ行ったんだっけ?」


 そう言って、例の召喚が行われた神殿の場所を教えてくれた。


「この半島の裏に当たるのか。そりゃあ近いな」


 直線距離では近いが、海からしかたどり着けない大地の上にあるそうで、ここを経由して海路を行くのだそうだ。


 そこから北にはクサラベ程度しかなく、東と南へと交易ルートが延びているが、西は広大な海、いくつかの諸島以外は何もないという。


 南に行けば豊かな土地があるらしく、ここから陸路でも行けるには行けるそうだが、険しい山越えになるので通常は海路だそうだ。


 その豊かな南方から運ばれた物資が一度このゲチョを経由して東方の港街へと運ばれていくという。


「その東方には連中が襲い掛かっていやがる。山脈で守られた南が俺たちのテリトリーだが、東方にも肥沃な土地があるからな。雨の少ない南方より、本当は東方が豊かなんだが、化け物が定期的に襲うから開拓がうまく進んでねぇ」


 という話らしい。


 その東方開拓とケンタウロス討伐をあの勇者たちがやるのだろう。


 この街で一番稼ぎが出るのは当然、港とその周辺の商店街。


 あの白い建物群はここで働く人たちの住居が多いという。


 当然だが、城に近づくほど金持ちや位持ちが住むそうで、城に詰める兵士たちも、住居はコの字に広がるこの街の中だという。


 ま、俺たちは情報収取したらさっさと船へ帰って、クサラベ行の船が居たらそれと一緒に帰るだけなんだが。


「お、クッサラベへ行く商人がいたらしいぞ」


 船の星読みが商人と歩いているのを見て船員がそう言う。


「そうなのか?ただ知り合いってだけじゃ」


 そう言ってみたが、間違いないらしい。


「あの商人は何度かクッサラベに行ったことがあるだろう?間違いないさ」


 まあ、船員がそう言うならそうなんだろう。ここのところ色んな船が来ていたから一々商人など気にもしていなかったが。


 気楽に観光していた俺たちが港へ帰ると、星読みと商人、そして、船大工も居た。


「おい、ヨシキ。お前も船の責任者の一人だろ、話しに参加しろ」


 適当に理由を付けて乗り組んだだけのつもりが、ちゃんと役職があったらしい。


 俺が討伐班のリーダー?


 いつ決まったんだよそれ、俺は知らんぞ。 

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