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42・とうとう大海原へ飛び出してみた

 ひと月工期が延びたと言っても大勢に影響はない。


 ただ、その間に事件は起きている。


 星読みや商人、有志の船員らによって大型鉄船が運航され、すでにゲチョまでの往復を行っているが、未だにラムアタッカーとは遭遇していない。


 しかし、高速船のいないところに出没して交易船二隻が沈没、ないし大破するという事件が発生している。


 大破についてはクサラベ近傍での出来事だったので湾内まで逃げ込んできたので、漁師たちが船を造船所まで曳航してきたことで沈まずに済んだ。


 が、修理できる状況ではなく、従来の船渠を使って新造の帆船が建造されることになった。


 しかも、木と鉄のハイブリットになるという。


 機帆船にしないのは何故かと思ったが、蒸気機関の取り扱いの問題らしい。


 現在動いているキャッチャーボートについては俺や船大工、ドワーフ達が面倒を見ているが、構造を知る人間の少なさと修理や整備が可能な施設の少なさ、そもそも扱える人間も少ない上に、石炭供給地もクサラベ以外には今のところ存在していない。


 そのような事情からラムアタッカー探しと言ってもクサラベから3日程度までしか進出できず、商人たちも基本的にゲチョとクサラベ間の航路帯を中心に活動せざるを得ない。


 今のところ、沈没させられたもう一隻もクサラベへの航路なのでそれで問題はないという事になってはいるが。


 もちろん、商人たちがラムアタッカーを狩っていない事は船大工には朗報である。


 船大工によると、ラムアタッカーはかなり泳ぐのが速く、しかも、鱗が硬いらしい。


「銛撃ちもこれまでよりも強力に出来ねぇか?」


 と言ってくるので、大型鯨にでも使えるワンサイズ大きな捕鯨砲を作っている。従来砲との大きな違いは、コイツは銛だけでなく砲弾も撃てることだ。


 大型の鯨を狙う場合は先に銛を挿し込めば捕鯨砲になるが、ラムアタッカーの様に討伐がメインの場合には、縄を付けずに飛ばしても問題なく、銛を使うのがもったいないので、弾芯に硬質な魔銀を用い、外装を魔銅、更にピンクメッキ加工という大変贅沢な砲弾が用意されることになった。


 結局、銛よりも勿体無くないか?と言いたくなったが、ラムアタッカーを相手にするには必要だという。


 当然ながら商人の船にも新型のラムアタッカー討伐用の武器だと言って非常に高額で売り付けていた。


 まあ、彼らも最近は用心棒代を受け取って交易船に張り付いているんだから十分支払いも可能だろう。


 新型船だが、ボイラーも膨張機関もスクリューも船体もすべて新規に設計、製造された全く別の船と相成ったが、外見だけは、船首を見なければ大して違いはない。


 外見上の全長は商人に売った1号船と新造船は全く同じだ。同じ船渠で作ったので、極端に違うはずがない。


 しかし、海面上の長さ。いわゆる水線長はまるで別物。


 当然、その違いを出しているのはステップバウで、コレがなければかなり全長も伸びていたことだろう。


 その船により大出力と大径スクリューを装備した事で最高速も一段と速くなった。時速50kmとか出てるかもしれん。


 そして、二隻の大きな違いは砲座の位置。


 通常船型の商人の船の場合、波を被ることを避けるために船首を非常に高く作り、そこに広く平らな場所を作って砲を据え付けている。


 対して、ステップバウの新型船は、波を切る部分が突出している形で、尚且つ、波の高さや位置が変化した事に合わせて、幾分高さを下げている。


 しかも、船首への装備は1門に減少し、すこし後方に左右に撃ち分けられるように2門の合計3門、更に船尾にも1門、これは1号船にも後付けの形で新型砲を船尾に追加しているので今では見た目上の変わりは無い。


 そして新型船にも星読みが乗っている。


 大破した交易船の星読みで、新しい船が出来るまでこちらに乗せて欲しいと言われたからだ。


 幸運にも星読みを確保した事で俺たちも湾内試験と沿岸試験を終えた後、一度ゲチョまで行ってみることにした。


「商人の船より効率は良くなっているはずだ。石炭の搭載量は変わらないからこちらが1日ほどは長く行動可能になるはずだ」


 俺とドワーフの一致した意見としてそう言った。


 もちろん、まずはゲチョ往復でどのくらい消費するのかという実態を知るのが先だ。


 船に石炭と食糧を積み込んでいざ、ゲチョへと出港した。


 星詠み曰く、本来ならば風や潮をみて出港を決める必要があるというが、コイツは蒸気船なので思い立った時が出港時間だ。


 その事実に星読みは驚いていた。


 が、時間さえ分かれば星読みにとっては何の問題も無いそうで、後は太陽や星の動きを見て進路を決めると言われた。


 彼の誘導に従って船を進めていくと、しばらくしてとうとう山が見えない一面の大海原へと出てしまった。


 こうなると俺たちではどこへ向かえば良いのかもわからなくなる。


 そんな不安から俺やドワーフは機関室での作業や砲の手入れと言った気を紛らわすような事ばかりやるようになったが、漁師やなぜか船大工は平気らしい。


 漁師は何となく太陽の位置や星空を見れば帰るべき場所が分かるらしい。


 船大工は星読みの航海術というものを疑っていないという事だった。


 そんな海しか言えない航海を行うこと2日、ようやく前方に霞む島影が見えてきだした。

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