40・まさか、こんな所で遭難者を拾うとは
見張り台からの声で皆があたりを見回す。
「右だ。まだ遠い」
見張り台からの声で皆が右方向を見るが、特に何も見えなかった。
「右へ船を回せ!見張り!指示出せ!」
船大工がそう叫んで、見張りが舵を握る漁師へと方角の指示を出して回頭していく。
「船足も落とせ!」
見張りからの指示にしたがって徐々に減速し、少し行くと木片や荷物、どうやら人も浮いているらしいのが見えてきだした。
「こんなところで難破ってどういうこった?」
船大工も漁師たちも首を傾げている。
特に岩礁や暗礁があるような場所ではなく、一様にこの辺りは水深があるらしい。
そんなところで難破となると、嵐にあったか海賊にでも襲われたか。
ただ、嵐についてはあり得ない。
クサラベから近いこんな場所で嵐が起きていたなら当然知っているだろう。
そうなると、海賊の線もあるが、最近はクサラベのキャッチャーボートが周辺海域をうろついている上に、何ならトドや陸上動物が居ないかと周辺の入り江や湾も探索されている。
にも関わらず、海賊のねぐらなどこれまでに発見されていない。
そこで考えられるのは、流れの海賊か漂流。
船を慎重に漂流者に寄せ、救助していく。
つい最近難破したらしく、みなそこまで疲弊はしていない。
当たりに浮いた漂流物を見て、拾う価値がありそうなものを更に拾い上げていく。
「ゲチョを出てクッサラベへ向かってただと?」
救助した者に話を聞くと、どうやらクサラベの魔銅や魔銀を目当てにした交易船であったらしい。
特に嵐に遭うでもなく、海賊だって出ていないという。
しかし、陸が見えだすかどうかの頃から船に付きまとう魚らしきものがいたらしい。
はじめはイルカでも寄ってきたくらいの感じで気にも留めていなかったらしいが、その魚が船を叩き出したのだという。
「魚が船を叩くのか?体当たりでもしてるんだろうか」
と、俺たちが疑問を口にすると、そんな大きなモノが当たっているのではなく、鉄鎚で叩いているような感じだったという。
それこそよく分からん。
これならいっそ、イカやタコのバケモノ、なっだっけ、シーラカンスじゃなく、クラッカーでもなく、ほらアレ。
「船を叩く魔物?んな奴が・・・・・・、クラーケンか?」
そうそう、それそれ。
ドワーフのその言葉で何とか思い出せた。
しかし、イカやタコは見ていないらしい。
はじめはノックする程度だったソレは、しばらくすると静かになり、また船の周りをイルカが泳ぐ姿を見るようになったので、イルカが体当たりしたんだろうくらいに考えていたそうだ。
それからまた少しするとイルカが増えていたらしい。
そして船に合わせて泳ぎ出したという。
船の進路方向へと泳いだかと思うと大きく回って船と並走して見たり、船の下へもぐってみたり。
しばらくそんな事が続いたらしい。
そして、気を良くした船員の一人が食べ物を海に投げ入れたとの事。
餌付けでもしようとしたんだろうか。まさか、イルカ釣りでもあるまいに。
実際、単に投げ入れただけで釣針や糸は付けていなかったように見えたらしい。
のだが、その後、静になったかと思うとイルカたちは船の周りを離れず遊びだし、更に気を良くした船員がまた何か放り込む。
イルカと戯れる様なそんな楽しい時間だったというが、その少し後にドンという大きな音と共に船が引き裂かれて沈んでしまったらしい。
「なんだそれ。イルカの体当たりで船が沈んだのか?脆すぎだろ」
ドワーフや俺はそう言って船員の話を笑っていたが、船大工や猟師がやけに静かだ。
どうしたのかと見ると、主変を警戒しだしていた。
「なんだ?イルカでも探してんのか」
俺が声を掛けると真剣な顔でこちらを見た。
「ソイツはイルカなんて可愛げのある魚じゃねぇ」
まあ、イルカは魚じゃないが。
「イルカなら少々体当たりしてきて戻って事はないが、そいつはラムだ。ラムアタッカーだよ」
何言ってるのかよく分からん。
ラムアタック?衝角攻撃?
海棲動物や魚というより、それじゃ魚雷か何かだろ。そう思わずにはいられない。
「なんだそりゃ」
ドワーフも知らないらしい。
「ここらあたりからより寒い海に棲む海の魔物だ。ほぼ魚みたいなもんだが、海が凍ればその氷を割って、近づく獲物を海に落して捕食したりもするらしい。時折船も狙うって話を聞いたことがあるな」
と、船大工が言い出した。
そんな奴がこの周辺に居たとは。
ただ、そこまで数が居る訳ではなく、大抵は寄って来てもすぐに居なくなるものらしい。
「エサあたえたのが悪かったか、それとも騒いだのが悪かったか・・・・・・」
原因ははっきりしないがなにか攻撃を引き起こす因子が船にあったのではないかという。
周辺には既にそれらしき魚影?も確認できないので周辺を廻って助けられるだけの遭難者を船へと引き上げてクサラベへと戻った。