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38・航海って大変なんだな

 ドワーフと船大工が喜々として新型鉄船に取り組んでいる。


 まず穴掘りをしてドックを作るところからと言っていたので、クレーンをベースにした蒸気ショベルを教えてやったら早速作って投入した様だ。


 あいつら、本当に限度ってもんを知らない。


 蒸気ショベルの活躍もあって本来ならば半年はかかるであろう大型ドックが僅か一月で完成していた。


 しかも、わざわざタチベナのドワーフまで呼んでの作業だったと云うのだから呆れてしまう。


 その間、俺は弓使いに作ったコンパウンドボウに興味を持った漁師に捕まり、三角ボウより効率的な弓をという難題に取り組んでいた。


 しかも、捕鯨以外の銛撃ち。


 つまり、ボウフィッシングがやりたいと言い出したんだ。


 どうやら、捕鯨を見て、ある程度までの魚であれば同じように銛を撃ち込めば獲れるという確信を得たらしい。


 もちろんだが、捕鯨砲のような巨大な銛では魚が潰れてしまう。


 そこで、弓を用いて腕力よりも遠く、それでいて威力を増した銛撃ちが出来ないかと云うのだ。


 使っている素材が海水にも強いものが大半なので、三角ボウの状況を考えれば可能であった。


 そこで、弓使いに渡したのより多少小型で船上で扱える様に工夫した弓を製作し、実際に試してもらったのだが、俺も連れだしての漁と云うのが何度もあり、まあ、うん、楽しんでいた。


 そして、かなり長い矢を用いて飛距離と威力を持ったフィッシングボウを完成させたのが最近の事。


 楓だけでなく、銀幕女優も呆れるほどの熱心さでフィッシングボウに熱を上げる漁師たちには俺もちょっと引いた。


 結局、三角ボウとは別にいくつか製作したので最近ではマグロっぽい魚が代金として届けられるようになった。


 もちろん、生の魚などあっても日持ちしないので缶詰行きとなり、楓がそのレシピに悪戦苦闘した。


 で、出来上がったのはシーチキン缶に近いソレだった。


「ごめん。もっとどうにかしたかったけど、このシンプルなオイル漬けが後調理に最適だったんだ」


 と、楓が言って来たが、コレが最善だったのはまさにその通りだろう。


 鯨の様に調理済み缶として作っても、鯨と比べて淡白で芋や豆を使った煮物缶と合わせるには向かなかった。


 最近は20世紀初頭の英国ではないが、家庭料理が廃れて缶詰調理が主流となりかけている。


 もちろん、魚や葉物野菜もあるので春から秋にかけては缶詰料理は頻度が減るとは言えど、クサラベでは缶詰加工をはじめとした食品加工業が伸びており、家庭で料理出来る時間が減っている。


 そもそもがあまり豪華ではなかったこの辺境の食だが、楓によって農業生産や調味料に大変革が起きた事で非常にレパートリーが増えた。


 しかし、それと比例するように調味料である味噌や醤油の量産も忙しくなり、ナーヤマでも家庭での調理時間が減る傾向にあった。


 当然だが、ドワーフおじさんが予想外の大規模製鉄所群を作り上げたタチベナなどはオリーブ栽培もあって完全に人手が足りていない。


 そんな、どこもかしこも産業革命状態なので、英国同様に家庭で調理しなくても食べられるモノが求められ、缶詰需要はうなぎのぼりな訳だ。


 湾内漁獲による水煮や味噌煮、鯨の大和煮楓、鯨の脂身缶などなど、さらに、山や里のモノという事で芋や豆を用いた煮物缶まで開発されて、最近ではとうとうシチュー缶も製造が始まっている。


 正直、開発者が楓なので我が家で食ってると缶詰なのか楓が今日作ったのか分らんレベルだ。


 ここの缶詰工場のレベルはちょっと高すぎやしないだろうか?


 ただ、納豆嫌いの俺に豆のシュール缶は止めて欲しい。アレは間違いなく人が殺せる。


 そんな危険物にも手を出している楓に恐れおののいていると、ドックが完成したので建造を始めるから捕鯨砲も作れと船大工から話が来た。


 なあ、お前ら何作ってんの?


 と思ったが、最近では捕鯨船が沿岸沿いとは言えかなり遠出する事もあるという。


 なので、それを見越して高速で、長距離運航できる船は必要だという話を一部漁師を抱き込んでドワーフや船大工が工作している様だ。


 仕方がないので捕鯨砲を作りながら、拙い知識から揺動を抑えるフィンだとかバランサーだとかを捻りだして試験艇でテストが行われている。


「なあ、これなら数日の航海は可能だから神殿だとか街まで行けるんじゃないのか?」


 そう聞いてみた。


「そりゃあ、行けるだろうさ。ここまで充実させれば、他に必要なのは星読みだけだ」


 星読み?何それ。王子様か何かか?


「お前は星読みも知らんのか。山が見えない海のど真ん中を航海するには星を詠んで道を指し示す星読みが居なきゃ遭難するだけだぞ」


 ん?船の航海って磁石と航海地図があればできると思ってた。


「星読みが知ってる詩には海に道を示す呪文があってな。それを詠んで指示された道を進むんだ。ここから交易船の街ゲチョまでは片道3日だ。コイツなら往復は余裕だが、目印になる山や島が無い大海原を通るから、星読みが居なきゃ無理だな」


 との事だった。


 星読みとかいうヤツは商人が抱えているのでこんなところに来てくれたりはしないらしい。


 


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