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37・ドワーフの暴走は留まるところを知らない

 それから程なくして彼らは帰って行った。


 これから本格的に戦いに身を投じるだろうに、全くそんな素振りを見せずに。


「なんか、あっさり帰って行ったな」


 俺がそう言うと、楓は少し悲しそうな顔をした。


「みんな、私に心配してほしくなかったんだと思う。明るく振舞ってるけど、前のみんなと違う気がしたんだ。殺し合いを見たからってのは分かるけど、それだけじゃなかった気がする」


 そう言ってしばらく海を見つめていた。


 勇者一行がここへやって来た事は俺も驚いたが、一番驚いたのはクサラベの住人達かもしれない。


 いや、勇者云々に驚いたわけではない。


 俺たちもそうであったように、いや、それ以上に連中は味噌の存在に感動していた。


 楓が魚醤ではない、あの味噌から採った醤油モドキを使った料理をふるまったときなど大騒ぎだった。


 だが、アレはここの独特な食文化であり、本来好んで食べるようなものではないらしい。


 保存食の一つであり、海産物しかなくなる冬季から初春にかけての栄養源の一つ。


 そんなシロモノが召喚者たちに受けると云うのはどうやら衝撃であったらしい。


 なにせ、俺たちも言われたように、交易船でくる商人や船乗りには非常に不人気で、ここになじめるかどうかのバロメータ代わりにもなっているらしいからだ。


 冬の間に楓による味噌の改良が行われ、より癖が無くおいしい味噌やより醤油らしいモノが出来上がっているが、それでも商人や船乗りにはウケが良くない。醤油はともかく、味噌はまるでダメらしい。


 ただ、それはそれとして、彼らと接している楓が神殿で見せた彼らへの態度と違う事に、俺は気付いていた。


「お互い様じゃないのかな」


 どう言って良いか分からないが、そうとしか言えなかった。


「うん、それはそうかもしれない。あ、神殿で引き留めてくれなかったとかじゃないよ?・・・・・・住む世界が違うっていうか、そんな感じ」


 住む世界が違う。


 なるほど。そうかもしれんな。


 学生時代の同級生や友人も、社会に出ると色々変わっていく事がある。


 その人が就く職によって、色々価値観が違ってきたりとか。


 中学の同級生だと10年も会わなきゃそう思う奴が居たりするもんな。


 まだ数か月なのに、アッチは戦場へ、こっちは辺境で様々な事業を行っている。


 ここまでやってることが違ってくると、お互いに思うところがあるんだろう。



 さて、彼らが練習で使って盛大に破壊してくれた谷だが、目新しいモノは無かった。魔銅やニッケルがべらぼうな量あるのは分かったが、魔銅の価値を維持するには知らせない方が良い事だと思う。


 鉱床があるのだからもっとたくさんの精錬師を送り込めばいくらでも魔銅が精錬出来るのに、ドワーフ達がやらないところを見ると、そう言う事なんだと最近は思っている。


 さて、勇者来訪騒ぎで俺が振り回されていたころ、造船所では新たな鉄船が進水していた。


 これまでよりも大きな船体で2軸推進にしたという。


 2軸にしたことでスクリューのサイズはこれまでより小型となり、それに合わせて膨張機関も小型のモノを2基積むことになった。


 そんな事をしたら蒸気容量がボイラー1基では不足となるので増設となる。


 そうした追加案件が積み重なって船はどんど大型化してしまい、それまでの倍近いものが出来上がっていた。


「おい、ヨシキ。二枚も羽付けたのに全く速くないぞこの船」


 などとドワーフが言っているが、船がデカいのだから出力を少々向上させても船足が早くなるわけ無いだろうと、素直に呆れた。


 ドワーフもすべてを完璧に行う連中という訳ではなく、このように失敗しながら経験を積み上げていくんだなと納得した。


 失敗の原因だが、とくに専門知識なんぞ必要ない。


 膨張機関やボイラーをこれまで通りの配置で設置しようと思えば、機関を小型化しても船の幅が大幅に増えるのは当然の事。


 なんやかんやで長さを抑えた結果、幅が広がり過ぎて抵抗が大きくなった。


 と言うだけの話だ。


 問題ばかりが増えたわけではなく、この船ならばキャッチャーボートのような細身で揺れが酷い船とは違うので、人を乗せたり荷物を載せるのには都合が良い。


 贅沢過ぎる気はするが、航続力の関係で遠洋航海が出来るわけではないので造船所とタチベナを繋ぐ輸送船としてだけでなく、クサラベからタチベナへの物資輸送も行う事になぅた。


 楓に人も乗せればよいのにと言われているが、そもそも人の移動は徒歩やトナカイ便で足りるので、そこまではやっていない。


 そのうち利便性に気づいた誰かが言いだすだろうからそれまでは放っておこうと思う。


 船大工とドワーフだが、幅が広いから速度が出ないという俺の指摘から、リベンジ作を製作しようとしている。


 といっても、すでにキャッチャーボートも需要は満たしたはずだし、大型船建造ノウハウを得たんなら、外洋帆船だとか機帆船と言った外部の商人にも売れる船を作れば良いのに、そう言う気は回っていないらしい。


「ヨシキ、どうだ、この配置で船を作れば細くできる。新たに船渠を掘るところから始めなきゃならんが、まあ、そんなものはどうということは無い」


 ドワーフが胸を張っているが、お前は何を作りたいんだ?


 その設計図はシフト配置の高速船のように見えるが、レースがしたい訳ではないだろうし、魚雷もないのに駆逐艦造っても仕方ないぞ? 

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