32・農業拡大を始めるってよ
缶詰技術は後日ドワーフがやって来るとの事で、モヒカンも満足して帰って行った。
そして入れ替わるようにやって来た交易船にはドワーフが乗っており、精錬師やここでの製鉄や鍛冶に興味がある連中だとの事なので精錬師はナーヤマへ、製鉄や鍛冶に興味がある連中はタチベナへと送り込んだ。
それから程なくドワーフの知識によってタチベナ鋼や例の縞々鋼が安定して大量生産できるようになっていく。
だが、生産しても使い先などない。
「育つとは思うからライ麦を播こうよ。今の畑を使うと問題があるから新しい畑を早めに開墾しなきゃいけないから、犂を増やして」
楓がその様におっしゃったので犂を作る事にした。
ここにはトナカイしか居ないが、結構な数が居るので畜耕に利用しても構わないらしい。
しかも、馬車やソリを曳くあの図体だから馬や牛と全く変わらんだろう。
という事で、ターンレストプラウを製作した。
「おいおい、何だ?ソレ」
当然の様にドワーフが食いついて来たので農具だと説明したら驚いている。
「二つも反転板を付けるとは考えたな。無駄がない」
しかし、問題が無いわけではない。当然の様に重くなるしな。
「効率を重視したらこうなるよね」
と、楓も苦笑いである。
楓が求めていたのは深耕出来るプラウであったらしい。
「深耕で肥料が少なくてもそれなりに育つようにしたかったけど、まあいっか。魚肥が予想よりも多いから」
と言っておられる。
魚油、鯨油を搾り、可食部分は加工して缶詰や干し肉となるが、加工品に出来ない内臓類や骨、油の搾りかすがどうしても出てしまう。
そうしたモノをただ棄てるのではなく、乾燥させて砕いて粉にしたモノを肥料として畑に撒くそうだ。
そう言えば、化学肥料以前の農業では魚油の搾りかすは肥料だったらしいなと、うろ覚えの知識を思い出した。
それと共に大事になるのが、犂による反転だ。
除草の意味もあって表層土を地中に埋めてしまい、反対に地中の土を表面に裏返す。
土は植物が育っては枯れてのサイクルを繰り返すので栄養分が少なからず存在し、特に草が吸収できないより深層土ならば、手付かずの養分があるはず。
もちろん、例外はあるが、植生がある土の場合、多少なりとも養分は含んでいる。
その反転作業を行う犂なのだが、一般的なモノは片方に反転させる板を持ったモノと云うのが正しい。
しかし、そんな犂では一方向にしか反転できない為、往復耕が出来ない。大回りしてあらかじめ決めた境界から外回りをしながら反転させていくという非常に非効率な事になる。
その問題を解決するのがターンレストプラウという、ヨーロッパの犂だ。
日本にも双用すきといって軸を中心に左右に板を倒せる犂が存在するが、ちょっと複雑な形なので、より簡単に左右の板を引っ付けて左右に倒すだけで使えるヨーロッパ式にしてある。
より時代が新しくなるとリバーシブルプラウと言って上下に犂を付けて回転させるというシロモノになるが、そんな高度なモノは畜耕では使えないだろ?たぶん
そして、深耕という点では双用すきやターンレストよりも片反転のワンウェイプラウの方が強度や構造に優れる分、深く掘れる。
ただ、多くの牛馬による牽引が必要という欠点もあるのだが。
そこまで深耕しないターンレストであれば2頭も居ればよい。深耕するプラウの場合土質によって6~8頭で曳くなんてものが存在している。
面積を優先するならば一台の犂に多頭を繋げるのは不効率だ。
「ライ麦って根が深くまで入るから砕土効果あったよな?」
そう、小麦との違いの一つにやせた土地で育つライ麦は根を深く強く張る傾向があるので土を柔らかくしてくれる。
狙っている訳ではないが、ターンレストという今後持続的に使える犂とライ麦の組み合わせって使えると思うんだが。
「知ってたんだ。ならいっか」
楓はやっぱり輪作農法を考えているらしい。
ソバはともかく、豆や芋って連作障害が心配だもんな。
ライ麦、ソバ、豆、芋で輪作すれば連作はまず起きないだろう。どれくらい期間を空ければよい作物かは分からんが、3年も明ければ十分じゃね?
そして、俺以上の速度と精度を持って喜々としてプラウを作り出すドワーフ。本物はやっぱり違うな。
ナーヤマやクサラベの農家にライ麦栽培を依頼し、畑拡大のための犂や馬鍬を渡す。トナカイはクサラベ、タチベナ間の輸送を船舶で代替した関係であぶれたトナカイを引き取ってもらった。
というか、ここの最大産業はトナカイ牧場じゃないかと今頃になって気が付いたのだが、食う訳ではないから、少し違うんだろうか?
クサラベとタチベナ間に就航した輸送船は木製と鉄製がある。鉄船は試験的に運航して様子を見ている船だ。
船大工の元へ向かったドワーフが悩める大工に何やら閃きを与えたらしい。
そこからは素早く鉄船が完成してしまった。
ただ、そこはやはりドワーフである。魔砂を蒸気機関の燃料に使おうとして釜を爆発させたり、蒸気に魔砂を添加しようとして膨張機関を破壊したり、想像の斜め上の行動力を持っている。
残念ながら、そんな事をやっても蒸気機関が魔力機関になることは無く、ただドワーフを落胆させただけに終わっているが。




