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31・これからの食料計画があるってよ

 楓が缶詰の技術を神殿に提供すると言い出した。


「おい、大丈夫なのか?それ。せっかくここで作れるようになったんだ。わざわざくれてやる必要ないだろ」


 おれが小声でそう言うが、なぜか微笑まれた。


「缶詰で大事なモノって何?」


 缶詰で大事な物?


 何だろうか。あのドワーフならば技術を教えれば簡単に作りそうではある。というか、大半の工程を見せたからすでにやっていてもおかしくはない。


 そうなると、提供してもしなくてもどのみち同じか?


 そうなると余計に分からん。


「よっくんさ、ペットボトルってだいたい同じ形だよね?形が同じだと中身も同じなのかな?」


 などと意味不明な事を聞いてくる。


 ペットボトルの形状が同じなのは製造元が同じであったり、よほど独自の技術を開発しない限り、密閉性や耐圧力を得るために最適な形状と云うのがあるからだろう。だからと言って中身が同じわけがない。

 同一メーカーであってもフレーバーごとに味が違うのは当たり前じゃないか。同一ブランドなら当然容器も同じだ。


「そうか、中身か」


 どうやら正解らしい。


「そう。きっと獲れる魚や土地が広いなら牛や豚、ここには豆、ソバ、芋しかないけど、野菜や穀類のバリエーションもあるはずだから、缶を教えたとしても、出来る缶詰がここと同じになる訳じゃないよ」


 確かにその通りだ。缶詰を教えたってここの缶詰はここの特色を持った缶詰だ。


 しかも、皆に受ける味付を楓が考え出している。このレシピを丸々再現するなどかなり難しだろう。


 そして、ここにある味噌が本来の街で受けるとも限らん。


「缶詰もお国柄や地域の食文化があるからどこか一つが席巻してしまうなんてことも無いはずだよ。缶詰の代金代わりに麦を頼んでるからそれが来たらもっとよく分かるかも」


 と、楓が言っている。


 なら大丈夫かもしれんな。


「話はまとまったかね?」


 モヒカンが聞いてくるので、缶詰技術を正式に提供する事を伝えた。


「それは良かった。鍛冶師たちが作りたがっていたよ。連中も鍛冶ばかりではなく、中には酒や食品にのめり込む者もいる。きっと良いものが出来る事だろう」


 そう言って喜んでいるので良しとしよう。


 当然だが、向こうでは兵士に持たせる携行食になる様だ。


 保存食と言えば干し肉みたいなモノしかない行軍なんて、きっと勇者一行には耐えられないことだろうしな。


 蒸気機関を欲しがらなかったので聞いてみたが、使う場所がないという。


 鉄道を敷くと言う手はあるが、ドワーフにも教えていないので知らないだろうし、ケンタウロスは遊牧民であって海に出ることは無いらしく、海上で戦わないので重要性も低い。


 そもそも、ケンタウロスが来ない島や山間地であっても気候がここより良いので一応、生活に困る事もないらしく、十分に発展した航海術と帆船技術があるので力量未知数の蒸気船に魅力も感じていないとか。なんせ、魔力で動かせる動力じゃないしな。


 そら、そうだよな。


「ただ不自由なく暮らせる場所として選んだだけであったが、望外な結果に恵まれた」


 そう言ってサーモンにも何か話があるらしく、彼の屋敷へとモヒカンは向かっていった。


「ところで、今更麦なんかどうするんだ?」


 楓がさっき言っていた麦について聞いてみた。


「サンプル貰ったんだけど、コレ。小麦だよね。この辺りだとちょっと栽培は無理かもしれない。そこまでの耐寒品種もなさそうだし。あと、コレ。ライ麦っぽいからこの辺りでも栽培できるかもしれない」


 楓の見解によると、真冬でも結氷しないので暖流の影響が強いかバルト海やオホーツク海のような内海ではなく外洋に面した地域なんだろうという。

 そして、気候はスコットランドやノルウェーが近いかもしれないという。地形もリアス式というよりフィヨルドっぽい。


「つまり、ここはブリテン島やスカンジナビア半島ってか」


「みたいなところ。かな」


 という事で、小麦ではなくライ麦栽培が出来るかどうかの地域だろうとのこと。


「あの豆は大豆にしか見えないが。違うんだろうか。っても、ここは異世界だから似た物があるってだけかもしれんな」  


 俺がそう言うと同意見らしい。


「味噌みたいな発酵食品が出来るから間違いではないと思うけど。大豆がヨーロッパに伝わったのは中世じゃなくて近代だったはずだけど、その辺りは考えない方が良いかな」


 と、細かい話を始めた。


 大豆は21世紀でこそ世界中で栽培されるが、そもそもはアジアでのみ利用されており、18世紀以降に伝播したものの、本格的な利用は20世紀以後だし、大半は油脂抽出に使われる。食用としての利用はごく僅かでしかない。

 そんな豆がここでは食用の重要な作物なのだから、異世界と云うのは分からないモノだ。


 大豆が寒冷地で育つのは、日本だと山地か北海道だし、中国東北部が産地なのを見ても分かるだろう。


「小麦はそうすると栽培用じゃなく食用か?」


 そう聞くと、味噌用らしい。


「小麦はここじゃ育たないだろうから主食用にはしたくないかな。無くても構わないくらいで居たい。ライ麦は育つなら、クリスプとかの保存用の乾パンに出来れば主食がソバ以外にも手に入るでしょ?」


 との事らしい。


 たしかに、ソバばかりは食い飽きたしな。

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