29・地球とは色々常識が違うらしい
製鉄所を見て唖然とするドワーフ。
「しかし、あれほどの製鉄量、ここではそんなに武具を作っているのか?」
鉄といえば武具。
まあ、間違っちゃいないかもしれない。
「いや、作っては無い。今後余るかもしれないが、今のところはアレを作るのに少々足らないくらいか」
と言って、鍛冶場の蒸気機関を指すが、さすがに何かわからないらしい。
「鍛冶場に竈?何をやっているんだ」
そう言うので、蒸気機関を教え、実際に見せてみる。
「なんじゃこりゃぁ!」
当然の様に驚いているが、それに加えて石炭についてもあれこれ言っている。
「魔力の増幅に拘って全く動力機関が実現しない俺たちは一体何だったんだ。オルゴール動かすのがやっとなのに、水を熱するだけでこんなデカい機械を動かすだと?あの使い道のない燃える石を蒸し焼きにして製鉄の燃料にするとか、ここは本当に異世界みたいじゃねぇか」
などと1人であれこれ騒いでいる。
どうやらこの世界では魔力で動く動力機関を開発しようとしているらしいが、当然、それは人力みたいなものなので限界が知れているらしい。
そこを乗り越えるために増幅装置をアレコレ作っているらしいが、どうにもこうにもすべて何らかの欠陥があるという。
そもそもがエネルギー源が人間というところが欠陥ではあるが、魔石だとか魔砂だとかをエネルギー源にする装置は作れていないというか、作れないらしい。
あれだな、膨大なエネルギー源であることは分かっている雷を発電に利用できないようなモノだろう。
ついでに聞いてみた。
「ところで、鉄で船は出来ると思うか?」
そう聞くと、ニヤリとしやがった。
「ちゃんと器としてつくりゃあ出来るさ。鍋が浮くんだものな。当然じゃねぇか。だが、船を作るほどの鉄を用意するなんざ・・・・・・、おい」
どうやら気が付いたらしい。
「そのまさかだな。ここじゃあ、武器を作っても売り先が無い。なのに、あんなものが出来てしまった」
そう、ドワーフおじさんたちがあまりに張り切りすぎた結果、供給過剰が明白な状態が完成前から分かり切っている状態だ。
「ここの製鉄所がフル稼働すれば農具や蒸気機関ごときじゃ鉄は使いきれない。獲れる魚にも限度があるから缶詰の量も知れている。製缶するには今使っている施設だけで十分過ぎる」
すでに船大工は鉄船に興味を持っているし、何ならすでに一人乗りサイズを作ろうとあれこれやっている頃だろう。
「俺たちゃ鍛冶師だからな。船大工なんて門外漢も甚だしい。が、面白そうではあるな」
このドワーフも興味があるらしい。
「ところで、缶詰ってなんだ?」
そう聞いて来たのでちょうどおかず一品サイズの缶を見なかったかと聞くと、どうやら見ているらしい。
「不思議な器だと思ったが、調理したものを保存する密封容器だと?何だそれは!」
ドワーフも驚いてばかりだ。
鍛冶師と云うのは武器や農具を作るのが一般的で、まあ、中には工芸品を作る奴もいるらしいが、缶詰という発想はないらしい。
そりゃあそうか、干物や漬物しか保存食が無いと云うのが一般的で、なぜ密封による保存が可能かという原理すら存在しないのだから。
他にも、偶然見つけたブルーメッキやピンクメッキの存在もあるだろう。
そもそも地球においても錫メッキが耐食性に優れ、瓶詰の代替になり得るという考えが出て来るのは、瓶詰が普及して以後の話になるのだから、瓶が一般的に普及していない世界で出てくる発想ではない。
説明には非常に苦労した。まずは圧力釜の話からしないといけなかった。
「ハァ?圧力を高めると水の沸騰がより高温で起るだあぁ?何を言ってるんだ。ん?まさか、アレもそんな発想から出て来るのか?」
そう言って蒸気機関を指す。
基本的にはその通りだと答えた。
ドワーフとしては唖然だろう。確かにヤカンの水を沸騰させると勢いよく蒸気が出る。それを使えば玩具のようなモノは作れるが、まさかそこから先までは考えなかったという。
なにせ、動力とは魔力によって物を動かすモノと考えていたかららしい。彼らにしてみれば蒸気で動く玩具より、誰よりも先に魔力機関を作る事こそ名誉であるとか。
「勇者召喚で異世界から来た奴の発想は突き抜けてやがるな。だが、作り方も分からない魔力機関と違って原理を聞くと酷く納得できるから不思議だ」
どうやら原理自体は理解可能らしい。
だが、だからと言って蒸気機関がここで広まるかと言うと、それは断言できないらしい。
「ここはサロモンからして魔力がたかが知れている。錬金や魔導の出来る者が居ないとなりゃぁ、使えるのはウデと知恵。機械を作って楽がしたい。楽が出来るならもっと能率を上げたいと考えたんだろう。だが、普通はどう魔力、魔術で効率を上げるか考えるのが常識だ。機械を作っても魔力で動かなきゃ出来損ないだからな」
と云うのが、一般的な考えらしかった。
という事は、この世界に魔導ロボみたいなもんは無いんだろうな。
「ん?魔導鎧か?オリハルコンで作れるじゃねぇか」
不思議そうに言うので、彼が思っているプレートアーマーではなく、更に倍力が出来るパワードスーツ的なモノとか、人の背丈を遥かに超えるシロモノという説明をすると呆れている。
「お前たちの世界じゃ作れもしない防具を童話や物語に書きまくってるのか?本当に想像の埒外の世界だな」
そう呆れていた。