25・想像の遥か斜めを行く展開
焼き物が焼き上がったというので見に行くことになった。
ついでに造船所によると、この領で最大クラスの船になるという話を聞かされて頭を悩ませることになったが、櫂で扱ぐ速さを前提とした場合の蒸気機関の大きさなどたかが知れていた。
なにせ、ブルーメッキとピンクオイル、ピンクメッキの活用法がほぼ分かったのでそいつらを使えば地球ではありえない程の低抵抗、平滑化された理想的な機械が出来上がる。
しかも、魔法鍛冶で行う分には公差という概念も必要ない。同じ寸法で作る事は何ら難しくないので簡単にコピーが可能だ。
ただ、この「簡単にコピーが可能」と云うのが、サーモンに言わせるととんでもない高等技術らしいが、俺は出来ているので特に問題はないし、本場のドワーフは出来なければ独り立ちが出来ないらしいが。
船大工との話し合いの結果、蒸気機関に割ける容積と許容重量はミニチュアから算出されていたるが、過大と言って良いほどだった。
「なんだ、あの機械もまた随分と変わったんだな。それならもっとデカくても良いんじゃないか?相手は大魚だろ?」
主に湾内で追い込み漁をやる小型鯨ならばともかく、船は大型の鯨を前提にしているので大型鯨の泳ぐ速さや体の大きさから、あまり小さな船という訳にも行かないらしく、デカければその方が良いという。
「ならば、船足を上げて行けるようにもう少し大きな機関を載せるか」
という事になってスクリューも少し大型にするという話になった。
「あれだけ時間を掛けたんだ、そのくらいの修正には十分耐えるぞ」
またこれから時間がかかるのかと疑った目で見ていたらそう言われた。
だったらもっとスパッと決められたんじゃないのか?
ここで、そういえば思ったが、言うのはやめることにしたことがある。
ブルーメッキがあるのでタービン機関も簡単に作れそうな気がする。
そう、タービン機関にすればより効率的に軽量につくれるんじゃね?と。
しかし、そこには盲点がある。
レシプロ蒸気機関と云うのはスクリュー軸と直結だ。
と云うのも、回転速度が速くない。。スクリューの効率を機関の回転速度に合わせて作る事が出来るんだ。
しかし、タービンはそうではない。
タービン機関は高速回転になる。タービン機関だから高速に出来たんだ。
そんな認識をしそうだが、タービン機関が採用された当初はレシプロ同様にスクリュー軸直結であった。
どうなったか?
酷く効率が悪かった。
だってそうだろう。
高速回転するタービンでもってレシプロ機関程度の低速回転で効率を発揮するスクリューを回したんだから。
そもそも、水中で高速回転させても無駄に泡ばかり生んで推進力を打ち消すような状態が生じてしまう。
その為、水中での回転数は自ずから限界があるのだが、タービンはそれ以上の回転数で回っている。
ではどうするか?
車やバイクが変速機によってエンジン回転数と車軸の回転数を変化させているように、タービンとスクリューの間に変速機を設けて、回転数をスクリュー効率の値まで下げてやれば良い。
こうして生まれたのがギヤードタービンという奴で、タービン軸とスクリュー軸の間にギヤを挟んで回転数を変化させている。
ギヤードタービンこそ進んでいるのだからそれにスベシなどと恰好を付けるのもアリなのかもしれんが、そこまでの高速力が必要でもなし、何なら、タービンよりも蒸気機関の方がSLなどと技術を共有しやすい。発電所でも作らない限りタービンにするメリットなんか今のところ見出せないんだよな。
ま、制御が難しいタービン機関よりもレシプロの方がここでは扱いやすいだろうと云うのが一番の理由だが。
船の青写真がほぼ固まったので、当初の予定通りに土器職人の所へと向かった。
「青くなるのかと思ったら黒いな」
それが俺の第一印象だった。
青くなるのだとばかり思っていたが、どうやら土と反応すると黒くなるらしい。
「これは思っていたよりすごいかも」
楓もその出来栄えに驚いているらしい。
俺にとっては想像の埒外でしかないが。
それはメッキとはまた性質の違う作用が起きているらしく、鉄がそうであったように粘土の性質によって相性があるらしい。
「その黒いのは成功した器だ。だが、魔砂と相性の悪い奴はこの通り」
それはただの土器でしかなく、釉薬としての役目を全く果たさなかったらしい。
そして、そうかと思うと、まるで違う色のモノがある。
「これは凄いね。灰色で、あれ?」
灰色のそれは土器、あるいは陶器ではありえない柔軟性を有していた。
もちろん、粘土そのものではないので形状が変わる訳ではなく、何だろうかプラスチックの類のように元の形に戻る柔軟性がある。
当然、限度を超えて変形させると壊れるが、少々倒したり転がした程度では割れない。
「これ良いと思う。日用品として使えるから両方とも作れるようにしてもらえませんか?」
楓が黒と灰色の両方を評価したらしく、職人もまんざらでもないらしい。
「灰色のはいくつか割合を試した中で成功した数少ないヤツだ。コレが使えるというなら作ってやるよ」
職人もその不思議な器は自信作であったのだろうか、嬉しそうに量産を約束してくれた。