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23・結果が出るには時間がかかる

 そういえば陶磁器が無い。


 もちろん、こんな辺鄙な土地でそうしたモノが必要なのかは問題ではあるが、粘土があるなら出来ない訳が無いだろう。土器があるんだもの。


 という事で、土器職人を訪ねた。


「ほう、そんなものがあるのか」


 ここで楓がトンだ爆弾を投下しやがった。


「多分出来るとは思いますよ。粘土の方にも魔力を有したものを混ぜるとより効果的でしょう」


 たぶん出来るっておい・・・・・・


 楓にとってはここは魔法のある世界なので当然できるという前提らしい。


 俺みたいな中二病にとってはそんなものは何処のアニメやゲームにもなく、そういう品は魔道具っていう別の存在として認識してるもんだが、その意識の違いが出ているらしい。


 そんな俺としては噴飯ものの話を真剣に聞いた職人は実際に楓の言ったような方法で土器を焼いてみるという。


 完成までは時間を要するので俺たちに出来ることは多くない。


 そもそも、土器と言っても窯での素焼きをやっているので野焼きの土器から言えば既に進歩している。


 当然と言えば当然だが。


 なので、まずはごく高温で焼き上げる磁器ではなく、素焼きから釉薬を使った焼き物である陶器の製作へと変化させようという事らしい。


「登り窯はいらないのか?」


 俺がそう聞いてみたが、いきなりそんな冒険をやるよりは今ある技術で何処まで出来るかやって貰おうという事らしい。

 え?焼き物って登り窯でやるんじゃないの?と思ったが、地域によって必ずしもそうではないらしい。


「タティヴェナで高炉作ってるでしょ。あの技術を応用してセ―ヴル窯みたいなものが出来るかもしれない」


 などとさらに意味不明な事を言い出した。


「う~ん、登り窯より近代的な窯かな?」


 と、自信なさげに言うが、楓が言うんだからそうなんだろうな。


 どうやら登り窯よりも焼成温度まで短時間で上がるとか、高炉技術があるなら応用が利きそうとか、そんな理由らしい。


 そんなちょっと疑問に満ちた話を聞きながら、造船所の脇を通って帰っていると、俺を見付けた船大工が声を掛けて来た。


「お~い!ドワーフ!!」


 何だかよく分からんが、呼ばれたので造船所へ寄ってみると、どうやら船尾の形が決定したので、せっかく決まりかけた船の形が捕鯨砲をどう積めばよいかでまた停滞していると文句を言われた。


 知らんがな。


「この銛投げを船首に積むんだろう?台座は広い方が良いんだろうか?波を被ることがあるから波よけを考えた方が良いんだが、おお、そうだ、帆船じゃないから船首に帆は要らんのか。アレで羽を回すから。そうなるとだ・・・・・・」


 こんこんと話に付き合わされることになり、キャッチャーボートは出来るだけ見晴らしの良い高台に砲を据えてたよなと思いだして船首自体を高く、マストに物見やぐらを据える必要もある事などを順次説明して何とかイメージが湧いて来たらしい。


「船に釜据えて変な機械で船尾の羽を回すってだけでも良く分からんのに、大魚を一撃で仕留める銛投げ道具まで据えるとか、さすがに想像の埒外だぞ。まあ、ここまで分かったらあとは作るだけだ」


 夕暮れを迎える頃、ようやく船大工から開放されて家路につく事が出来た。


「あの人もようやく船のイメージが出来たみたいだね。これでとうとう蒸気船かぁ」


 楓はそう暢気に言っているが、これから大工がどの程度の大きさの船を作る気かで俺が作るべき蒸気機関の大きさが決まる。また大変な作業が待っていそうだな。


 さて、翌日はとうとう、意図的に高い温度で長期間放置した缶詰を開けることになった。


 今は冬なので一晩程度ならば味噌煮が腐る事もなく食べられるので、缶詰は携帯食料として重宝され、漁師が漁に持って行ったり、タチベナの製鉄所の食事に提供されている。


 しかし、寸胴二つ程度の生産量なので、そもそも長期在庫になるほどの量は生産されておらず、これがはじめての長期保管の結果という事だ。


「湯煎したが、中に余分な水分が入った形跡は無いな。生産時に吹きこぼれが無いんだから密封は出来ているはずだしな」


 俺が中身を皿に出してそう確認する。


「腐敗や菌の異常増殖も無いみたい。食料として正常だよ」


 楓も鑑定で状態を確かめているらしい。


 さて、実際に食べてみる。


「おお、普通に食えるな。圧力釜で蒸してあるからちゃんと味噌煮缶みたいに骨まで食える」


 それは楓がレシピを考えた缶詰で間違いなく、完成してすぐの状態から大きく味が変わったという点は見受けられなかった。


「缶の内側にも腐食は無いし、ブルーメッキもしっかり機能してる」


 時間経過によって腐食が懸念される缶内部にも全く異常はなかった。


 現在想定している缶詰の保存期限は1年ほど、それ以上になると流石に缶自体に何が起きるかもわからず、それ以前に今後生産量を拡大しても、この領地での消費を考えるとそんなに長く置いておかずとも消費してしまうだろうという考えもあった。


 もちろん、忘れて放置したものがどうなるかまでは分からんが、今のところそこまで心配はしていない。


「あとは、春以降、常温でどこまで保管できるのか。だね」


 まだまだ開けずに保管中の缶詰もある。


「あ、そうだ。蒸気船が出来るなら、船の中で一泊できるくらいの食料も積むだろうから、もっと大きな缶詰があってもいいよね」


 楓がそんな事を言いだした。


 確かに、業務用に一斗缶の缶詰なんてものが存在したっけか。そうなると、寸胴サイズじゃなく、ボイラーサイズの圧力釜を作る必要も出て来るのかな?


 ってか、その釜に蒸気を送り込むのはきっとボイラーだが。


 

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