20・やっぱりそれは火薬だったよ
サーモンはアレが結晶なのか銀やミスリルなのかをもう一度検証したいらしい。
オイルの量は多いとは言えないが、検証するくらいならまだあるし、まだ余った麻の実がある。燃料にする話をナーヤマでした筈なので、灯火油になると村長が考えていたのだろう、それなりの量を確保してくれていた。
検証はサーモンだけに任せると危ないので俺も立ち会った。
「確かに、魔銅の魔砂を混ぜると黒い液体が出来るな」
それは確かに黒かった。
せっかく作ったモノを爆発で吹っ飛ばしたサーモンはまずこちらが何に使えるか知りたかったらしい。
まず、潤滑油になるかどうか試してみたが、違うようだった。
見ていて容器がどうもならないのでメッキは無理だろうと思ったが、当然ながらメッキとしても利用できなかった。
あとは、本当に灯火油としてか。
「いきなりランプに入れて煤だらけにしても困るだろう、これで行こう」
小皿から紐を伸ばしただけのソレへと黒い液体祖注ぎ、火をつけてみる。サーモンが指を鳴らすような仕草をすると火花が飛んだ。アレが火打ちなんだな。
などと見ていると火が付いたが、紐だけでなく小皿全体へと火が広がってしまった。
「勢いはないんだが、こんな燃え方をするのでは灯火油にはならんな」
サーモンが残念がっている。俺としては煙を上げながら燃えるソレは火薬にしか見えないが、紐を水の中に入れても燃え続けるだろうか?
そう思った俺は火のついた紐を水に沈めてみた。
「何だそれは!」
サーモンが驚いている。
「見ての通りだ。黒い油に浸した紐だ」
そのままをサーモンに伝えるが、なんだかガタガタ震えだしている。
「わ、わ、私が作ったのか?それを」
などと自分でやったことをいまさら認識しているらしいが、一体どうしたのだろうか。
「これは伝説の水中火ではないのか」
何言ってんだ?よくわからんことを言い出した
「これがそうなのか。まさか、私が作り出してしまったというのか・・・・・・」
完全に逝ってしまっている。まるで周りが見えていない様だ。
「サロモン殿、どうしたんだ?」
俺は火薬について知っている事を説明した。
まあ、これは地球の火薬とは別物だから、魔砂の燃焼力か何かが麻の実油と反応して火薬モドキになったのだろう。
「なるほど、ヨシキの世界にもあるのか、水中火が」
などと勝手に納得している。
「まるで作り方は違うし、コレが俺の世界の火薬と同じものという保証はない。ただ、現象が似通っているだけで燃えている物質も、燃える原理もかなり違っているはずだ」
想念を押すが、聞いちゃいない。
「まさか、オリハルコンを精錬した時に出る魔砂と麻の実オイルから水中火が精製できるとは、これまで誰も思いもしなかった。ひたすらに魔砂を結晶化させる事や魔力を流す方策にばかり力を入れていた」
きっとコロンブスの卵的な発想だったんだろうな。
そして、今の結果を実感したのだろう。笑みを浮かべる。
「凄いぞ!我々が成し遂げたんだ!」
と、勝手に舞い上がっているが、火薬の発見でなぜそうもうれしいのか俺にはよく分からん。
「サロモン殿、喜ぶのはまだ早くは無いか?もう一つあるだろう?」
そう言うとようやく思い出したらしい。
結晶化したという銀の魔砂の事を。
「そうだった。結晶化の事を忘れていた」
そう思い立って銀の魔砂を別に用意した麻の実油に投入する。
「量としてはこの程度ならば何も起こらなかった。この倍ほど溶かすと砂とはまるで色が違う光沢のある結晶がオイルの中に出来てくる」
そう言って更に投入すると、たしかに銀色の結晶が現れて来た。
「これを取り出して置いておいたのか?」
そう尋ねると、頷いた。
黒いものが火薬になった。結晶が爆発したというならば、この油自体はどうなんだ?
そう思って少しだけ紐に浸み込ませて火をつけてみる。
パン
魔砂結晶同様、爆発しやがった。
もしもと思い、油を浸み込ませた紐を近くにあった木槌で叩いてみた。
「何をしているんだ?」
サーモンが不思議そうに見て来たので叩くのを止めた。
さらに結晶を避けて少し油を垂らしてみる。
特に何も起きなかった。
さらに、結晶自体だが、油に浸かった状態では突いても何も起きないとサーモンが言っていた。俺は怖くてそんな事は出来ないが。
そう思っていると、サーモンがおもむろに結晶の欠片を油から取り出す。
「危ないんじゃないのか?」
俺がそう言うと、このまま置いておいたのだと言いやがる。
いや、それが爆発したんじゃないのか?
本当に、ごくごく少量の結晶を木槌で叩くと爆発しやがった。
「こいつは結晶化したのかもしれんな。ただ、完全な結晶ではないのだろう」
そう伝えるとサーモンは気落ちしていた。
「容易に結晶を取り出す技を見つけたのかと思ったのだがな。流石に偉業が二つも同時に達成できるということは無いか」
そう言って黒い方へと興味を向けてしまった。
だが、俺にとってはこの銀の油こそ注目すべき偉業に見えてならないが。
「そっちは確かにすごいのかもしれんが、よりすごいのはこっちではないのか?」
そう言ってみたが、よく分かっていないらしい。
なにせ、この結晶は雷管用に使えるだろうし、油の方も布にしみこませれば火薬として使える。
結晶を油と共に小さな容器に封入する。油自体も布にしみこませておく。
そして、サーモン宅に保管されていた魔銅を用いて作った筒に布を突っ込み、ふたの加工した小さな穴へと封入容器を取り付ける。
「まあ、見てみると良い」
何をやるかって?パーカッション銃だよ。
筒を手直な岩に固定して封入容器を小さな鉄鎚で叩いてやる。
バ~ン
見事に筒から火が吹き出してくれた。
「こういう事だ。あの火薬も同じように使えるかもしれないが、こちらがより強力だろう」
サーモンを見ると口をあけて固まっている。