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2・どうやら到着したらしいが、町ですらないんだが

 ここまで親切なのはやはり神殿だか教会って所が召喚したからなんだろうと安心していた。


「街って、この建物の外にある街の事なのか?」


 この外にある街とやらならば、そう大した苦労も無い事だろう。そう考えていた。


「いや、この神殿があるのは断崖の上で、この建物以外に何もないのだよ。其の方らには、ちょうど鍛冶師が居らず困っている町へ行ってもらう事になる」


 鍛冶師が居ない街?それはまた不思議なところもあるモンだ。異世界といえばドワーフの鍛冶師が武器屋を営んでるってのが相場のはずだが。


 などと疑問がないでもなかったが、金だけ握らされて城から放り出されるラノベの追放系主人公に比べたらマシなんだと思う。


 そんなこんなで神官に案内されて神殿の外へ出たのだが、そこも物の見事に断崖の上だった。


「まるでテーブルマウンテンみたい」


 その光景を見た楓の一言に納得だ。そこは切り立つ断崖の上にあった。見渡す限り、山か海しか見えない。


「修業の場だから、余計な雑音が入らないところを求めてここに神殿はある。そこな少女のパーティーはこれからここで勇者としての修業を積み、魔王討伐へと向かってもらう事になるだろう」


 と説明しながら、急な道を降りて船着き場へと至った。


 そこから帆船で1日ほどかかるという。


「明日の昼には着くだろう。航路から外れるので数年に一度しかこちらから向かうことは無いが、達者でな」


 神官が最後まで親切にそう言って送り出してくれた。


 船の周りにいた船乗りたちは俺や楓をジロジロと見る。


「神殿からドワーフが出て来るとは珍しい。ちょうど鍛冶が居ない浜だからだろうな」


 などという事を言い合っていた。


 俺たち髭もないのにドワーフってなんだろうとは思ったが、特に船乗りたちは楓にちょっかいを掛けるでもなく平穏に船旅を過ごす事が出来た。

 飯は大したことないが、近海航路だから普通に肉や野菜があった。飲み物が薄いワインだったのは船だから仕方が無いんだろう。


 翌日、起床してしばらく経ってから船乗りが声を掛けて来た。


「そろそろ着くぞ。降りる用意をしてくれ」


 そう言われて甲板へと上がる。


「街は何処だよ」


 俺が風景を眺めながらそう言う。


「船員は『浜』って言ってたからあそこの事だと思うけど」


 たしかに、信じたくない光景が目の前には広がっていやがる。


 見るからに険しい山が取り囲んだ湾の奥に、ポツンとそこだけなだらかな浜が見て取れる。


「大きく岬が回り込んだ湾だから波は穏やかで良さそうだが、あの山の険しさじゃ他へ通じる道はなさそうだな」


 そこは周囲を何かで削り取ったような地形をしており、フィヨルドかリアス式ではないかと思うが、周辺の地形が分からないのでは何とも言いようがない。


「距離感がおかしいだけで、そこそこの町かもしれないよ」


 楓がそう言って指さした方角から船がやって来ているのが見えた。手漕ぎの様だが、それなりの大きさみたいだ。


「はぅ~、そう言うところがセクハラオヤジだって言ってんのに」


 楓がドヤ顔していたのでわき腹をつついてやった。いつもの事だ。この程度でセクハラとは。


 とりあえず楓を無視して船を見る。


 細長いカッターのような船だが、多少は扱ぎ手以外も乗れるようだ。


「ほら、縄梯子を降ろしたからアッチに乗り移ってくれ」


 そう言われて恐る恐る縄梯子を伝って接舷したカッターへと降りていく。


「楓、気を付けろよ。ほら、こっちだ」


 先に降りて楓を誘導する。


「ほら、もう飛び降りても受け止めてやるよ」


 まだ舷より高いが、飛び降りさせて受け止めてやる。


「よっくん、天然でそれやるからダメなんだよ」


 などと何やら不満らしいがよくわからん。


 降り立ったカッターで扱ぎ手ではない人物を探してみると、向こうから寄って来た。


「ようこそ、ようやくクッサラベにもドワーフが来てくれた」


 その人物はそう言って俺を歓迎しているらしい。


「そんなにドワーフか?俺」


 ボソッとそう口にした。


「よっくんは自分で思っている以上にガッチリ体型だからね。ちっちゃいからドワーフに見えるんでしょ」


 一言多いぞ、そこ。


 楓の小言をスルーして領主だという眼前の人物に自己紹介する。


「良樹という」


 ドワーフらしくぶっきらぼうにそうあいさつをする。


「ヨシキか、よろしく。私はサロモンだ」


 サーモンがそうあいさつして座席を進めてくる。


「サロモン殿、鍛冶師がこれまで居なかったと聞いたが、これまでどうやっていたのか?」


 船を作るにも道具や釘が居るだろうに、これまでどうやっていたのだろうか。


「何、鉄はそれなりにあるので手先の器用な者が炉を用いて作っていた。しかし、これでようやく無駄に燃料を使わずに高品質の道具が手に入る。主要な道具は年に一、二度の交易船しか頼れなかったからな」


 などとのたまってやがる。炉を使って鍛冶が出来るなら俺必要なくないか?燃料無しで道具が作れるって、それ、錬金魔法で斧や鉄鎚作れって事なんだろうか?やったことないが。


 正直、錬金や鍛冶が出来るなどと適性を聞いてはいるが、その方法は誰も教えてくれていない。本当に大丈夫なのか、心配ばかりが募って来る。


 それから当たり障りのない会話をサーモンと行いながら、クサラベの岸壁へと到着した。


 これ、街などではないし、町かどうかも怪しいレベルじゃね?


 どう過大に表現しても村レベルだろ。住居の大半が合掌造り?いや、竪穴式か?そんなのが立ち並ぶばかりの姿だった。


「ヨシキにはあちらの家を与える。好きに使うと良い」


 ドワーフの鍛冶師としてやってきたのに炉を持つ工房ではなく、竪穴っぽい住居を与えられてしまった。

 どうすんだ?コレ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] さっき読み始めて今4話くらいなんですが 下記のように最初は「サロモン」呼びですがあとは「サーモン」になっていますがサーモンということでよろしいのでしょうか? 「ヨシキか、よろしく。私…
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