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19・魔砂の結晶は爆発する。知ってたよな?

 タチベナへ到着するとドワーフおじさんを訪ねて薄板の製造について聞いてみた。


「鉄の薄板なら出来るぞ」


 というので現在存在する鉄板を見せてもらった。


 すでにいろんなものの試作が行われていて何が出来るか試している最中だという。


「鉄の薄板で容器を作って食い物を保存する?出来るのか?そんな事」


 ドワーフおじさんは楓の説明に半信半疑らしい。まあ、それも仕方がない。保存食といえば乾燥させるか塩漬けかと云うのが一般的で、それ以外だとあの味噌がある程度だ。瓶詰すら存在していない。そもそも、瓶容器そのものが無い。


 一応、容器を作る薄板の製造は可能だという。缶自体も作れるだろうとの話だった。


 ただ、話を聞くと搾りによって花瓶のような容器を作るので、当然ながらふたは出来ない。


「ふたの無い缶なら出来るが、皿やどんぶりに食い物並べただけで保存が出来るのか?」


 ドワーフおじさんの疑問も当然である。


 そこで、缶詰の作り方を教えると唸っていた。


「そんなふたの仕方があるのか。驚いたな」


 早速、鍛冶師たちを集めて缶の製造法や巻締機の開発を行うと話し合うらしい。


「機械は任せるが、なんせ扱うのは食いモンだ。缶の製造や機械の製作はやってもらいたいが、缶詰自体はクサラベでやる事にしたい」


 俺がそう言うと、特に反対意見は無かった。


「そりゃそうだな。ここまで魚を運ぶってのはもったいない」


 ドワーフおじさんのその言葉で方針が決まった。


 さて、必要な物はまだあるが、ここの鍛冶場ではまだ圧力釜を作れる程ではない。圧力釜自体は俺が作ってしまおう。


「タティヴェナも少し見ない間に変わっちゃったね。クッサラベの変わり方も凄いけど、この世界の人たちって地球人より凄いかも」


 楓がそう言うのも無理はない、現に数か月で技術を吸収して製鉄所が出現しようとしてるんだ。本物のドワーフが居たらもっと劇的に変わったりしてな。


 こうして、缶詰缶と言いながら、ジュースのアルミ缶のようにプレスや絞りで成形する缶が誕生することになりそうだ。もちろん、ナイフやカナヅチでぶっ叩いたり銃で撃ち抜かなくても中身が食べられるように缶切りを作る事も忘れてはいけない。


 プルトップ?


 いや、さすがに無理だろ。


「さて、缶自体は出来るみたいだが、ブルーメッキはどうやるんだ?」


 どぶ漬けらしいとは聞いているが、詳しい話は知らない。


「メッキはブルーオイルに一日漬けておけば出来るよ。内部だけメッキするなら塗布でも出来るかな?」


 という楓の見解に、その辺りは任せることにした。


 俺はどの程度の生産量が必要かを楓に確かめ、大きめの寸胴程度の容量を持った圧力釜を作る事になった。

 イワシ缶やサバ缶当たりがこれで製造されることになるのかと思うと、わずか数か月でとんでもない事になりそうだと驚かざるを得ない。


 雪が本格的に降り積もる様になるとトナカイそりが唯一の交通手段になる。連中は人間以上にしっかり雪中の危険を察知して道を選択するので非常に安全だ。


 雪が降り積もる中をタチベナから缶詰缶を運んできて、缶詰工房ではブルーメッキに始まる缶の最終仕上げが行われ、湾内漁業で水揚げされた魚を加工して缶詰作りが行われていく。

 

 缶詰作りで最難関だったのは巻締を確実に行い密閉する事だった。


 なんと、ブルーメッキをしてしまうと鉄が硬くなって簡単に折り曲げる事が出来なかったのだ。


 そこで、試行錯誤の末に、巻締を行う部分にはピンクメッキを採用して軟化させるという非常にめんどくさい工程が加わったが、ピンクメッキには密閉効果もあるらしく、コレがかなりの効果を上げることになった。

 後はどのくらい保存がきくのか、実際に時間が経ってみないと分からないが、圧力釜で蒸した魚は骨まで柔らかくなっているので缶という携帯性と合わせて今のところ好評だった。


 作っているのはオイル漬けと味噌煮。湾内に鯨が来ることもあるが、獲るのが難しいのでさっさと蒸気船を作ってくれと漁師たちが騒がしい。


 と言うもの、すでに数人乗りの小さなボート程度の模型にミニチュア蒸気機関を載せて走らせるところまでは到達している。


 後はここで船尾形状を確定させて実際の蒸気船を建造するだけなのだが、船大工が複数の試験艇を前にどれにするか悩んでは試行錯誤を繰り返している状態だ。


「なあ、この羽自体を自在に動かす事はできないか?」


 などと聞かれたので出来なくはないが、水密に自信がないと正直に伝えた。


 船外機のような自在な動きを求めているらしい。


 たしかに、櫂であれば左右差を利用して小回りしたり出来るだろうからそんな発想が出て来るのは分かるが、それを実現するには船外機を作らなきゃならん。内燃機関が作れないのに無理だろう。


 俺としては大工の無茶振りでミニチュア蒸気機関を作ったから、より蒸気機関を作れる自信が付いたのは良かったが、回り道ではなかったのかという気がしないでもない。


 そんな事をしていた雪の深い日、サーモンの実験室が吹き飛んだ。


 あまりにお約束な展開に驚くより笑ってしまったが、笑いごとで済んだのは保管していた魔砂投入オイルが爆発したからで、実験中なら確実に死人が出ていただろう。


「サロモン殿、一体何をやっていたんだ?」


 駆けつけた俺は吹っ飛んだ部屋を眺めるサーモンに声を掛けた。


「麻の実油にオリハルコンの魔砂を溶かして黒いオイルが出来たんだ。ミスリルの魔砂は色が変わらなかった」


 などと証言しているが、何が起きたか実はよく理解していないらしい。


「なあ、ミスリルの魔砂を多量にオイルに溶かし込んだら銀が出来て来たんだ。凄いと思わないか?アレが魔砂の結晶だったのかもしれんな」


 結晶化させて爆発させたのか、怖い事をしてくれたもんだ。 

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