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18・もうすぐ産業革命がはじまりそうだな

 本格的な冬までに何とかミシンを作り終えた。

 

 楓がミシンの使い方を教えて被服工房が回りだすまではもうしばらくかかりそうだ、なんだか来た当初は予想もしていなかったほど忙しい。


 俺は俺で最近は自分で馬車を操れるようになったのでタチベナやナーヤマへ一人で行きかう事が多くなった。


 タチベナでたたら製鉄を教えたのだが、たたらでは生産効率が今一つだった。


 そこで、高炉を教えて建設となったのだが、大きな高炉を作るには、当然巨大なフイゴも必要になる。


 これを解決するには水車や蒸気機関による送風が必要なのだが、ドワーフおじさんは全く別の方法で問題を解決したようだった。


「おお、人を介さない炉を完成させたぞ」


 ドワーフおじさんはタチベナにある谷を利用して小規模だが高炉やるつぼを備えた製鋼設備を完成させてしまった。


「なんだかすごい事になったな」


 おじさんに俺がそう言うと、まんざらでもないらしい。


「まさか、こんなモノが出来るとはな。風の強い谷間を使えばフイゴが要らんと言われて、ちょうど良い谷があったから出来た事だ」


 そういうドワーフおじさんだが、風の谷自体は以前から知られていたらしい。ただ、風が強いというだけで何かに使えるという訳でもなく、ただ知られているだけの場所だったが、製鉄の歴史の中である一つの伝説を思い出して彼に話したのが発端だった。


 風炉というモノが古代には存在したらしく、羽口から風を送り込むものと思われていたらしいが、実は炉上部を吹き抜ける風による減圧、密閉効果で高品質の鉄を作り出していたという。


 ベンチュリ―効果がヨーロッパで発見される以前の中東や南アジアではすでにその利用が行われていた訳だ。コークスと同じだ。


 その話をして、風が常に吹き抜ける谷があれば、面白い製鉄が可能だと話していたのだが、このドワーフおじさん、実現してしまったっぽい。


 風の谷製鉄所にはさらに本格的な高炉、鋼を作り出するつぼ炉が築造されようとしている。すでに一部小規模な高炉や風炉が稼働して鉄の生産が行われ、崖の鉄鉱床から運ばれてきた鉄鉱石と岬の石炭を蒸し焼きにしたコークスを原料に、更には風の谷周辺にある石灰岩も利用した製鉄が始まっている。


 俺、もう必要なくね?


「ところで、手押しポンプを駆動する機械を鉄鎚を動かす道具に使えないか?」


 ドワーフおじさんから当然の申し出があった。


「使えるだろうな。鍛冶場に据えるか?」


 こうして風の谷製鉄所はさらに大規模化する事が決定的となった。


 細々と隕鉄利用だけだった辺鄙な田舎で産業革命が起きようとしている。後は需要が出来れば本格稼働もするんだろうが、問題はその需要だろうか。


 ここでの俺の役割はミスリル精錬くらいしか残されていない。コイツだけは錬金魔法以外の方法で作り出す事が出来ない。



 ナーヤマでは麻の収穫が終わり、製糸作業に大わらわだった。


「ヨシキ殿、麻の実を収穫しておりますがご入用で?」


 久しぶりに顔を見せた村長がそう聞いて来たので持ち帰る事にした。


 どうやら魔銅鎌は大活躍したらしく、皆が喜んでいた。


「ここの麻は魔力麻でしてな、収穫で魔力を吸われることがよくあるのです。あの大鎌でしたら刈るのも早い上に、どういう訳か魔力を吸われることも少ないようでして、大変助かりました」


 麻って幻覚作用があったはずだから、それを魔力と言っている可能性が無いではないが、ここが異世界であることを考えると無きにしも非ずか。


 麻の実といくらか魔銅を精錬して持ち帰る。サーモンが魔砂を使ってピンクオイル作っているのでその消費先が必要になる。


 食用やほかの用途がある訳でもないピンクオイルを大量に作られてもあまり使い道が無いのだが。

 最近は楓の作ったブルーオイルにも興味を示して何かやっているが、メッキ以外の利用法はとくに見つかっていない。


 貰った麻の実を搾油機で絞って採れた油はサーモンに渡しておいた。


「サロモン殿、どうやら麻には魔力があるとか。コレも何かの役に立つかもしれない」


 そう、もったいぶって渡したので喜々としてまた変なモノを作ってくれるんではなかろうか?


 そんな事をしているととうとう雪が降りだした。


 雪が積もりだすと馬車は使えないのでトナカイのソリが活躍を始める。


 さすが、雪の国の動物だけあって元気そのもの。馬車を曳くよりソリの方がこいつらには合ってるんじゃないかと思うくらいだ。


「ねえ、缶詰って作れない?」


 不意に楓がそんな事を言ってくる。


「缶詰?また何だ?ブルーメッキが析出や腐食を起こさないなら使えるとは思うが」


 どうやら湾内の漁でかなり大量の漁獲があったそうなのだが、干物にするにも曇天が多いこの状況では不向きで、かといって、塩漬けばかりというのも芸がないので、缶詰が出来るならやってみたいとの事だった。


「鉄はタチベナでそれなりの生産量がある。薄板が量産できるなら缶の生産も出来はするだろうから、聞いてみるか」


 雪の上を楓が操るトナカイのソリでタチベナへと向かった。


 防寒着も楓が縫製した毛皮と麻布を使った一品だ。本当にこの毛皮は凄い保温性がある。


「麻布も魔力があるみたいで、結構強靭だよ、これ。異世界って本当にすべてが地球と違って凄いね」


 楓はそう言うが、ファンタジーに触れていないから変な固定観念なく受け入れているんだと思うぞ。俺の方がファンタジーを知ってるつもりだったが、今では怪しい。地球製ファンタジーの常識だけではやっていけないモノが存在している。


 ピンクオイルとかピンクメッキとか最たるもんだ。そして、タチベナの鍛冶師たちも地球の常識では考えられない建設スピードでもって製鉄所が出来上がっていく。 

 

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