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15・思い付きで大発見。かも知れない出来事

「これ使えば機関車作れたりする?」


 と、悪魔の言葉が楓から発せられた。


 今の俺にとってはそれは聞きたくない一言だ。


 なにせ、そんな出力なんぞ望めない代物だぞ。コレ。


「見ての通り、馬車を曳くほどの力は出せん。精々、粉ひきや殻剥きだろうな」


 そう言うと、少々ガッカリしていたが、まあ、そんなもんかと納得したらしい。


「確かに、いきなりは無理か。でも、こんなの作ると石炭が必要だよね?」


 まあ、そうだが、そもそも、製塩という突発的な燃料消費が増えた事にこの村が対応できるとは思えないので、製塩には余ったコークスを使おうとしていた。


「もともとこの村の燃料事情を考えたら既存の炭や薪木は製塩に使えないだろう。石炭やコークスを燃料にするのが賢明だと思うぞ?」


 なぜかその言葉に驚く楓。


「そう言えばそうだった。うっかりしてた」


 まあ、これで話題は逸らす事が出来ただろう。


「そうなるとより一層、機関車欲しいね」


 逸れちゃいなかった。


 だが、回避法はある。


「機関車作るにはレールが大量に必要だ。だが、タチベナの生産量じゃタチベナからクサラベに線路を敷設できるのがいつになるか分らん。かと言って、蒸気自動車が雪道を走れるとも思えんしな。トナカイとかの方が雪道は慣れてるんじゃないのか?」


 雪が降り積もるらしい話を聞いているのでその点を指摘する。


 いくら距離が近いと言っても敷設するレールを作るのは大変だ。俺が魔法で作っても限度がある。レール作りだけで冬が終るんじゃないか?

 かといって、自動車なんてもっとあり得ないだろう。トナカイのソリで運ぶ方が効率が良い筈だ。


 といっても、水車代わりの蒸気機関があったら便利といった手前、この不効率機関を更に創り出すことが必要になった。


 複動にすれば確かに簡単なんだが、そうなるとまた一から作る必要がある。楽に作ろうと思えば、一度作った物を作った方が当然にはやい。


 ただ、もっと効率が良いモノは出来ないかと考えた末、複式機関とすることにした。


 複式機関とは、蒸気シリンダーを駆動させて熱を奪われた蒸気を更に別のシリンダーを動かす動力として用いて再度エネルギーを生み出そうというモノ。

 小さな高圧シリンダーから容量の大きな二つ目のシリンダーへと蒸気を導いてさらにこき使う仕組みだ。

 昔の蒸気船などでは三段膨張機関といって、高圧、中圧、低圧の三つのシリンダーを持つレシプロエンジンが主力として使われていた。蒸気機関や蒸気自動車にも、二つのシリンダーを持つ二段膨張機関が存在している。


 という事で、四気筒の二段膨張機関を製作した。


「随分かかってたけど、新しいエンジンにしたんだ」


 まあ、V型になってるから見りゃわかるよな。


 新たに作った膨張機関は高圧2、低圧2の二段式。もちろん単動。


 ただ、最近製塩所の初号機が不調だ。


「よっくん、製塩所のエンジンなんだけど、また動かなくなってるよ?」


 そう、しょっちゅうどこかしらが焼き付きやがる。使用している潤滑油は漏れなくオリーブオイルである。


「たぶん、オリーブオイルじゃ潤滑が間に合わんのだろうな。ひまし油があればなぁ~」


 と、そろそろ雪が降りだす頃になってぼやいてみた。


「あ、アレ?」


 何やら思い出したように楓が瓶を指さしている。


 いつの頃だったか、ナーヤマからオリーブ石鹸のお代として贈られてきたモノだったが、楓が大量には使い道がないと放置していた奴だ。


 ひまし油は下剤に使う事はあるが、基本的に大量に摂取するものではない。なので、ドッサリあっても使い道が無いわけだ。


「あるなら言って欲しかった」


 まあ、使えると会話で話が出ただけで、楓は忘れていたらしいが、ナーヤマでは使い道があると分かって集めていたらしい。


 ただ、瓶であると言っても潤滑油として消費するには足りないくらいではあるが。


「いっそ、鯨油を採っていてくれれば潤滑油になったかもしれんが」


 と、小言を言うと、楓が聞きつけたらしい。


「灯火油に使う魚油がたぶんそれだよ。しかも、結構大量にあるらしくて、石鹸のお代に差し出されたんだけど、家でもそこまで必要ないからね。石鹸の原料にしても良いけど、オリーブ石鹸には劣るんだよね」


 まあ、そりゃそうだろう。動物の脂とオリーブ比べちゃダメだろう。


 というか、あるのか、鯨油。


「鯨油も昔は工業用原料や潤滑油に使われていたらしいから、使えるかもな。捕鯨反対叫ぶ連中が昔、鯨乱獲した理由が鯨油の為だったんだ。食うのはノルウェーやアイスランドくらいで、大国は油を採ったらあとは捨ててたんだから、捕鯨反対叫ぶ権利自体をはく奪した方が良いとしか思えん連中だ」


 どうやら、楓も知っていたらしい。


「昔見たことあるよ。アメリカで作られた捕鯨の番組。油だけ採って捨てるとんでもない事をしていたから、これからは捕鯨を止めようって内容だったよ」


 何ともバカらしい話だ。


 まあ、バカ連中の話はもうイイ。それより鯨油だ。


 さっそく、サーモンに鯨油を分けてもらおうと話に向かった。


「大魚の油?ああ、良いぞ。人手がかからない製塩方法考えてくれたし、どれ程必要だ?あ、そうだ、コレ、使ってみてくれ。もしかしたら石炭の代わりの燃料になるかもな」


 と言って差し出されたのは、なぜかピンクに近い怪しい色をした液体だった。


「これは?」


 俺が不思議そうに聞くと、自慢して胸を張る。


「これはワシが考案した灯火油だよ。ヨシキ殿ばかりが活躍しているからな。領主が知恵を出して優れているところを見せてオカンといかんだろ?」


 ただの思い付きでバカな実験をやって出来上がった怪しい液体かよ、このピンク。


 手で触るのも恐ろしかったので棒でかき混ぜてみた。


「随分と粘度が・・・・・・」


 おい、これ、結構使える潤滑油になるんじゃねぇ?


「これは油に何を混ぜたんだ?」


 よくぞ聞いてくれたという顔をしやがるサーモン。


「魔砂だよ。オリーブオイルや薬液を混ぜてみたが、変化が見えなかったり混ざらなかったりでな。コイツだけは劇的に変化した。大魚も魔力を持っているらしいと云うのも大発見だ!」


 ああ、だろうな。どうでも良いけど。


「この油はまさに大発見かも知れん。貰って行って試してみる」


 そう言って褒めると転ぶんじゃないかと思うくらいに胸を反らしていた。 

 

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