14・塩を作ろうだって?
オリーブ石鹸をタチベナの工房に任せ、製鉄もドワーフおじさんに任せる事が出来るかもしれない状態となり、俺たちはクサラベへと戻ってみると、すでに工房の骨組みが出来上がっていやがった。
それもそうかと呆れ半分に納得し、弓の製作を再開した。
「よっくん、ご飯できたよ」
そうこうしていると楓に呼ばれて飯を食う事に。
この村にはソバ以外に穀類は存在しないようで、ソバ粥、そば粉のパスタ、パンケーキはなんつったっけ?後は芋だ。
さすがに少々食い飽きた感はあるが、それしかないのだから仕方がない。
おかずは更に悲惨で薬草や香草だという葉物以外に豆しか見当たらない。
食い物といえば鯨であろう大魚の肉、湾内で獲れた魚や皮を取っているオットセイだかトドの肉と言ったところだろう。
「ん?ソーセージなんかあるのか」
そんな中で初めて見たモノはソーセージ。
「ナーヤマで飼ってる羊を潰してるからこれから増えるらしいよ」
楓がそんな説明をしてくる。
ナーヤマでは冬を越せそうにない個体の処分が始まったらしい。
なにせ中世や古代程度の文化圏だから冬が来ればあまり多くの飼料を用意できなくなる。その為、越冬可能な個体数には限度があるそうで、秋口から処分と加工が始まるとの事。
そうした羊も越冬食料に加工するそうで、こうしてソーセージが出来上がるそうだ。
オリーブ石鹸が大盛況なのでナーヤマの加工食品もこのように我が家の食卓に並ぶ。
「肉類に関しては凄いよな。ここ」
感心してそう応えながらソーセージを食べる。
胡椒なんかは無いけどちゃんとした味があってなかなか良いじゃないか。ホント、肉類の加工は凄い技術があるなココ。
「そうなんだけど、最近は塩が少なくなってるらしいよ」
塩?んなモノ目の前にいくらでもあるじゃないか。
「塩は主に岩塩を使っていて、にがりの除去が出来ないから海塩は使ってないみたい」
何と勿体無い。と思いながら、ある事に気が付く。
「にがりの除去?普通に窯で煮れば良いんじゃないのか?」
と思ったが、そう簡単にはいかず、食塩収穫にはいくつかの方法があると楓が説明してくれた。
「まあ、いろんな方法があるんだけど、そもそもの話として、岩塩と海塩は含有ミネラルが違うから同じ扱いは出来ないよ。食品に使う場合、やっぱり味に違いが出てきたりしかねないし」
なるほど、そんなもんか。
「でも、日常使う塩を海塩に代えれば、採掘が減っているっていう岩塩を補う事にはなるかもしれない。それに、海塩使ったレシピを考えれば岩塩と違うハムやソーセージが出来てもおかしくないし。使い方かな」
と、その後の展開まで考えていらっしゃるご様子。
「そうなると、製塩しないとな。デカい釜が必要そうだな」
そう言うと、煮詰めるだけではなく濃縮した方が良いそうなので、流下式?を試してみたいそうだ。
竹や葦簀に塩水を掛け流して塩分濃度を高めていく方法だそうで、歴史はたかだか100年程度の事らしい。製塩の歴史の大半は整地した砂浜に塩水を撒いて、塩を集めて煮出していく揚げ浜式や入浜式という方法で行われていたらしい。
「下流式の利点はともかく、欠点は動力ポンプが無いと揚げ浜や入浜以上の労働力が必要なところかな。雨や雪っていう天候に左右されにくい代わりに、ずっと塩水を棚の上から掛け流し続けないといけないから」
それは動力ポンプが無い現状では無理じゃないのか?
「手押しポンプなら桶や柄杓を使わなくても良いと思うんだけど?」
なるほど、俺に製塩の話をしたのはポンプのためか。構造は意外と簡単だったはずだし、材料もあるし、問題なく作れそうだな。
早速サーモンに話に行ったが、理解されなかった。
物は試しと小さな施設を作ってやり方を見せて何とか理解を得たまでは良かったが、手押しポンプで流下式を成立させるのは少々問題が大きかった。
「なんだか思った以上に人手が要りそう・・・・・・」
楓がそんな事を言っている。
「そりゃあ、人力でやるとどうしてもそうなるだろう。いっそ、蒸気シリンダーで動かすようにでも作れば楽になるだろうがな」
と、軽く冗談で言ってみたら、それが出来るならやってくれと言われてしまった。
口は禍の元と言うが、本当にそうだよな。
異世界チートの中に蒸気機関があるのは知っているが、異世界で蒸気機関なんか要らんだろ、魔導があるじゃないかと適当な事を思っていたが、まさか、適当に言った一言から自分がそのチートを実現することになるとは思いもしなかった。
といっても大出力を要する装置でもない為、製作自体はそう難しいものではなかった。
ただ、単シリンダー複動式では何だか面白くなかったので、二気筒連動型単動式という、全くもって無駄に無駄を重ねて無意味な形に造り上げるという、全く無意味な装置を作り上げてしまった。
だって複動式にしたら軸のシールが面倒じゃないか。二気筒連動型単動式なら内燃機関類似の構造で問題ないから簡単だったんだ。ピストンリングさえ作れば良いんだからな。
「へ~、すごいねよっくん!本当に蒸気機関作っちゃった!!」
そんな無駄と不効率の塊に対する楓の素直な驚きに罪悪感が芽生えたのは言うまでもない。