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12・弓といえばこれしかない

 漁師の依頼をどう解決するかと言うと、昨今ボウガンが騒がれたことで規制前にと衝動買いしてしまったコンパウンドボウだ。


 弓といえば相当デカいモノと想像していたがミニコンパウンドボウなるモノが存在していた。


 非常に小さくてグリップが付いているという不思議な弓。コンパウンドボウといえば外国映画で使われてヘリを撃墜したアレだが、ソイツは大きさがオモチャ並みしかない代物だった。しかも、左右両用という、弓に非ざる構造をしている。


 弓と云うのは矢を番える部分を中心に弓を偏芯させている。洋弓はあからさまに切り欠いているし、和弓も実は反りがある。その為、矢がまっすぐ飛んでいけるという訳。もちろん、ちゃんと練習する必要があるが。


 ただ、同じく弓類の中でしっかりした台座を持つ者が存在している。


 そう、それが日本ではボウガンと呼ばれている、「クロスボウ」なる代物だ。


 殺人事件が起きた事で規制の話が出ているアレだ。


 コイツは乱暴に言えば銃弾の代わりに矢を放つ道具だ。東洋では弩と言われる。


 弓との大きな違いは仕掛けが複雑になり、弦の強さも増すために矢を番えることが弓より難しくなっている事が挙げられる。


 その為、弓が連射性に優れているのに対し、クロスボウ(弩)は威力において優れるという特徴がある。


 まあ、後は拳銃と銃床付き銃器の違い同様、弓よりも命中精度が良い。


 弓や拳銃が命中精度に劣るのはその姿勢が安定しない事にある。


 たいして、銃床付きであれば両手と肩で固定して狙いを定めるので必然的に狙いが精確になるという訳だ。


 といっても、戦闘や狩猟を考えた場合、やはり連射性が重視されるので、弓の方が優れた武器となるのは仕方がない。個人や少数で行う狩猟であれば、クロスボウ(弩)など獲物を取り逃がす可能性が高いから尚更使えない。


 そんなわけで、いくら正確な命中性能を求めようとしても、狩猟においては弓に軍配が上がるだろう。


 さて、そこから先は用途、あるいは個々人の利用法となる。


 今回求められているのは、短弓でありながら威力の大きな弓。しかも、例の大型バリスタで見た威力に驚いたから、魔銅製でという話だ。


 ただ、例のバリスタやリカーブボウを小さく、それでいて威力も持たせようとなれば、きっとマトモに狙いを定められないのではないかと思われる。


 そこで登場するのがコンパウンドボウ。化合弓とか機械弓と呼ばれる代物だ。


 コンパウンドボウは1960年代に開発された新しい弓で、弓の張りを腕の力で引き絞るのではなく、そこに滑車やてこの原理を用いて人間の負担を軽減した弓の事だ。


 そのおかげで、引き始めは普通の弓と同じなのだが、引き絞った状態で最も軽くなる。本来なら長時間保持できない弓を引き搾った姿勢を長く維持できるという優れモノで、それだけ正確な狙いが可能になる。


 短弓で威力が欲しいというという要望に応えるには俺の技術ではこれを使うのが一番だ。


 しかも、より命中性を増そうと、興味本位に買ったブツを参考にする事にした。


 ただ、いきなり巧くは作れずに苦戦した。


 魔力を流せばしなる魔銅。


 全魔銅で作ったら滑車も変形して意味が無くなるという笑えない事態が発生した。


 そらそうだ、滑車に一番力がかかってるんだから。


 ただ、鉄で作ると海で使うから錆びやすいという宿命がある。


「楓、すまんがナーヤマへ連れて行ってくれ」


 ナーヤマへ行けばクロムやニッケルがある。という事はステンレスが作れるかもしれん。ステンレスなら錆に強いだろ。


 そう思って魔銅とともにクロムやニッケルも精錬して持ち帰った。


「ちょうどオリーブオイルが要るからタティヴェナ行きたいんだけど?」


 と、楓が言うので翌日はタチベナへ向かい、隕鉄の切り出しや鉄鉱石の精錬を行う。


「なあ、楓、銀て高級食器とかに使うよな?」


 ふと思い立って聞いてみると、「そりゃあ当然」という答えが返ってきたので、含有率が高いという洞窟の銀も多少精錬洞窟で銀も精錬して持ち帰る。


「よっくん、これ、銀じゃないでしょ?軽すぎるって。アルミじゃない?」


 と、楓から疑問符が付いた。


 しかし、スキル上、それは銀であり、まあ、精錬したら魔銀とかいうモノになったから、きっと魔銅の仲間なんだろうと適当に納得して持ち帰った。


 銀も腐食には強い金属だあったはずなので、魔銀と言うからには魔銅と同じように魔力に影響を受けるだろうと遊んでみた。

 結果、銀に銅を混ぜていくとあるところでものすごく硬くなった。魔力を流せばより固くなる性質があった。


 そこで、この合金を滑車やグリップ部分に利用し、更に魔銅にクロムやニッケルを混ぜてみるとニッケルを混ぜたものがより扱いやすく、伸びなくなったので弦に使用することにした。


 そうして完成させた試作第二弾はなかなかうまくできたと思う。



「待たせたな。これを試してみてくれ」


 一週間ほど経った夕方に漁から帰って来たイケメン漁師に声を掛けた。


「おう、早いじゃないか」


 そう言って寄って来た漁師を海岸の一角へと連れて行き、比較のために作った短弓をまず渡して試してもらう。


「まずはこれだ。魔力を流して引き絞って抜く。バリスタとやり方は同じだ」


 そう言って射てもらった。俺みたいなヘマはしなかったが、扱い辛そうにしている。


「確かに威力は出てるが、コイツはきついな。魔力を抜くと引いてられないぞ」


 まあ、そうだろう。予定通りだ。


「次はこっち。コレが本命だ」


 そう言って渡すと見た事も無い形に驚いていた。


「何だこりゃ。弓に滑車が付いてるじゃねぇか」


 さて、コンパウンドボウには引きやすい様にリリーサーというモノがある。和弓のカケみたいなものだ。これで指で引くより引きやすく、操作性も良くなる。


「コレをその環に掛けて引っ張ってくれ」


 握り方や掛け方を教えてやって貰った。


「さっきより威力が出てるのに引いていても前の弓並みにしか力が要らねぇ。そのくせ、威力が上がってるじゃねぇか。すげぇな!」


 コンパウンドボウは大絶賛だった。


 コンパウンドボウは滑車の作用で同じ引っ張り強さでも滑車無しより初速が上がるそうなので、きっと威力増強はその影響だろう。


 おかげで他にも発注が来たので漁期が終わるまでに完納は無理になってしまう大盛況になった。

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