11・やっぱチートが使えると嬉しいよな
唐箕が活躍するかもしれないと分かった俺は、早速サーモンにそのことを伝えた。
「ソバの選別?」
話を聞いても良く理解できていなかったらしいが、とりあえずソバ畑へと案内してもらう。
それは俺の良く知るソバでたぶん間違いないと思う。
「これの選別が簡単になるというのか?」
未だよく理解できていないサーモンであったが、すでに刈り取って乾燥させているソバをどのように脱穀するのか農民に聞いて、選別をどうやるか、そこでようやく理解できたらしい。
「なるほど、口から流し込んで風で葉やゴミを飛ばせばたしかに実だけが残るな」
そろそろ乾燥を終えるらしいので早速大工を読んで唐箕の製作を行う。
俺が作るのは軸受けだけなので大した作業もなく、ほとんど大工の仕事で終わってしまった。
「取っ手を回す速さは試してみないと分からないが、まあ、やってみようか」
そう言って実を叩き落して葉や茎が混ざった物を唐箕へと投入し、試行錯誤しながらちょうど良い風量を見つけ出した。
「こうやれば箕でやるより早くて楽だ」
そう言って農民たちに唐箕を渡して使ってもらったが、脱穀はどうしているのかと思えば、唐竿で叩いていた。
まあ、大昔はこれが脱穀の主流だったらしいことは知っているが、そうか、これは千歯扱きの出番・・・・・・ではない。
より新しい足踏み式脱穀機の方が適しているだろう。まあ、叩いて落とす方が千歯扱きより時間も早いし技術も要らんと思う。
意外と知られていないが、千歯扱きは力加減を間違えると歯や茎を折るだけで脱穀出来ない事もある。勢いを付けて力を込めればよいというモノではないし、かといって弱すぎてもいけない。
それに比べれば足踏み式脱穀機の方が明らかに画期的な道具といってよいだろう。
さて、風呂を作って余った鉄がある。コイツを使って足踏み式脱穀機を作ってみようか。
足踏み式脱穀機はさほど難しいものではない。ちゃんとした軸受けさえ作れば後は容易だ。足踏みミシン同様に往復運動を回転運動に変換するクランク機構、U字冠を刺したドラムがあればとりあえず完成だ。覆いを付けて脱穀物が飛び散らないようにした方が良いのは言うまでもない。
「脱穀もこれを使うと楽に出来ると思うぞ」
出来たものを農家に見せ、使い方を教え、実際に使ってもらった。脱穀速度も悪くない。
こうして脱穀、風選、そして最後はふるいによる選別を行えば出来上がりだ。
「こいつは凄い。この脱穀機と選別機のお代にソバをやろう」
サーモンも上機嫌だ。
といっても、すぐに食いきれない量を一気に貰っても困るだけなので、ほとんどはサーモン預かりとなる。
ふと思い立ってついでにここでも魔銅大鎌を何本か作って適性者にそれを渡すことにした。
当然と言えば当然の話だが、俺が魔銅を持ち出して大鎌を作っている姿にサーモンは腰を抜かしていた。
「オリハルコンで農具を作るとはあまりにも価値観を間違っている」
などと言っているが、すでにナーヤマで麻を刈る大鎌を作って渡してきたと伝えるとよろけて居た。ナーヤマへ行けばいくらでもある普遍的な鉱物なのにそこまで驚くほどの事なのか?銅だぞ?
不思議に思いながら一日が終わった。
今日はクサラベ内でのことだったので楓は家でオリーブの搾油をやっていた。
「なんだかすごい量になってないか?それ」
瓶は無いので壺が並んだその光景はちょっとどうかと思うモノだった。
「みんなに配る分が必要だから沢山絞ってるんだよ。これにアルカリを加えて鹸化すればオリーブ石鹸になるから。きっとみんな欲しがると思うんだ」
そう言ってかなり絞ったらしい。
「おい、ドワーフ。ちょっとイイか?」
そんな声がしたので振り向くとイケメン漁師だった。
どうやら漁の帰りにそのまま寄ったらしく、壊れた弓を下げていた。
「弓なんだがな。例のバリスタはモノはなかなか良かった。同じ素材で弓を作って貰えねぇか」
何だかようやく仕事が入ったって感じもするが、弓って鍛冶師が作るもんだっけ?いや、魔銅弓とバリスタ作ったけどさ。
ただ、漁師の持っている弓はナーヤマで作ったリカーブボウの様な長弓ではなく、かなり小さな弓だった。
「そいつはかなり小さいな」
そう言って詳しく聞いてみると、以前交易船が来た時に買い付けた南方の名のあるドワーフが作った弓だという。
受け取ってみると、それは木と金属を巧く重ね合わせて作られた合成弓の一種だった。
「かなりの値がしたぞ。毛皮を何枚も持っていかれたからな。そのかいあって随分使えた。この小ささで長弓とそん色ない威力なんだ。あのバリスタみたいに作ってくれねぇか」
さすがに漁師もポッキリ逝ってるこれを直せとは言わなかった。
「しかし、これは俺が作った魔銅弓の半分くらいの大きさしかないぞ。この大きさでは威力の保証がない」
まあ、あの魔銅長弓の本当の威力がどれ程かはちょっと分からないし、コレの威力も分からん。しかし、長弓をここまで小さく切り詰めてしまっては威力など無いだろうことだけは分かる。
どうしたものかと思ったが、一つだけ方法が思い浮かんだ。
「分かった。やってみよう」
漁師に時間を貰って試してみる事にする。
「よっくん、なんか悪だくみしてない?」
失礼な事を楓が言う。単に唐箕や脱穀機のように異世界チートが出来そうで喜んでいるだけなのに。