10・風呂が出来た。そして、穀物がある事も分かった
翌日、自宅へ帰って来るとすぐさま焚き釜の製作を行った。
この周辺の家屋は半ば組み立て式の様で、すでに建屋は出来上がっている事に驚いた。
浴槽自体は作った事が無いという事で難航していたが、それはそれで都合が良かった。
浴槽に通すパイプ径を相談しながら決め、建屋も煙突を出すように少し加工を加えて完成と相成った。
「楓、水を頼む」
完成したので楓に水を貯めてもらい、その間に俺は薪を用意する。
「よし、漏れはないみたいだな」
浴槽と釜を繋ぐパイプからの漏れはない。シール材無しにコレが出来るのも凄いと思うが、ここから温めて本当に漏れないかも確認しないと安心はできんしな。
「着火も頼めるか」
楓に火をつけてもらって薪をある程度放り込んで様子を見る。
そう言えば、楓が静かだなと様子を見ると、なぜかおれを睨んでいる。
「どうしたんだ?」
「何で焚き口が屋内にあるの?」
そう、浴槽とセットで屋内に焚き口がある。
「五右衛門じゃないからな。どうせ入ると俺と楓だけなんだから問題ないだろう」
「で?」
「湯加減見るにもちょうど良いだろ」
「で?」
「あ、悪い。脱衣所作ってない」
「そうだね。脱衣所ないし、焚き口がそこにあるからもう一緒に入っちゃおうか」
なぜか睨んだままでそう言ってくる。
「そうだな。その方が時間も省けるな」
楓も上手く考えるなと感心しながらそう答えた。
「うわ、本当に何も考えずにやってたんだ」
そう言って頭を抱える楓が居た。
その後の騒ぎは割愛しておこう。まあ、アレだ。
騒動が落ち着いた翌日、朝食はお粥だった。
「この世界に米あったんだな」
それを見て俺がそう言うと、なぜか楓は呆れていた。
「それが米に見えるなんてどんな目してんの?」
なんか色々コワいです。
「それはカーシャ」
カーシャって何?この世界の穀物だろうか。
「カーシャって言うのか。米じゃないんだな」
楓はさらに呆れた顔で俺を蔑んでいた。
「なんでこんなケダモノに気を許したんだろ。私バカだ」
もう、散々な言われようだ。そもそもカーシャが何か答えてすらくれていない。
「よっくんさ、たまに送ってくれたよね。いつもは軽トラで通勤してるのに私を送る時だけ自分の車。あれってワザと?」
などと話が完全に逸れてしまった。
確かに楓が高校生の時にバスに間に合わないからと送って行ったことがある。その時は窮屈な軽トラではなく、自分の車で。
「軽トラだと狭くて荷物が乗らないだろ?」
何を言ってるんだとそう返すとさらに呆れだす。
「そうだね。素でやってたんだ。うん、よっくんはそう言う人だった。じゃあ丘ティーと話してたのも偶然なんだ」
いきなり何を言い出すのかと思ったら、楓の高校でたまに話していた丘という教師。
「ああ、丘センか。俺の母校じゃ文芸部の顧問だった。って、それは話したよな?」
「聞いたよ。よっくんが文芸部とか想像できなかったけど。で、コレの話もしてたとかね」
そう言ってポニテを指す。
そう言えば楓にポニテ云々言ったのは俺だし、当時ハマってたアニメの影響だ。原作は古い小説で、皆殺し先生の作品は丘センもファンだったから話が合った。
「よっくんが車で送る上に生徒指導の丘ティーと話してるもんだから、私は教師公認で社会人と付き合ってることになってんだよ」
なんだそれ。
「それで、丘ティーと何話してたの?楽しそうにしてたけど」
「ああ、アレな。皆殺し先生の銀河戦国伝が旧版アニメと新版アニメでガラッとキャラデザが変わってた話だ。一番変わったのが嫁スキルカンストしてたイアンだ。旧版はイケメンで主人公と腐った話ばっか作られてたから、新版でポニテの男の娘に改変されてたんだ」
そう、新版イアンが可愛かったから、ついつい楓にポニテを勧めていた。
そんな話をするとさらに呆れかえる楓。
「アニメキャラの髪型私に勧めてた訳?ホント非常識だね。天然スケコマシ」
新たな名前が付けられた。何だよ天然スケコマシって。
「そんなのに乗せられた私がバカだったのかな」
などと気落ちしている。ところで、カーシャって何?
「ああ、カーシャ?ソバの実粥の事。ロシアや東欧でよく食べられてる料理」
ん?蕎麦って日本のもんじゃないの?
「ホント、抜けてるよ、よっくん」
どうやらソバ自身は中国だか中央アジア付近が原産でヨーロッパにも伝わっているらしい。特にロシアが生産量では突出しており、カーシャという粥にはソバの実がよく使われるという。
「他にもブリヌイっていうパンケーキにもよく使われるし、他の国でもソバを用いたモノはあるよ。イタリアのピッツォッケリっていうそば粉で作るパスタもあるし」
などと教えてもらった。
「なるほどな。東北や信州だけじゃなかったのか」
そして、俺はピンときた。
「ソバ作ってるなら、テンプレ農具の出番だな」
楓がハァ?という顔をする。
「ソバだろ。選別するのに唐箕が必要だろ」
そう言ってもよく分かっていないらしい。
「テンプレ農具だ。千歯扱き、備中ぐわ、唐箕だよ」
そう力説してもそれが何?という感じなので説明した。
「なるほど。クワは普通に鉄製を作ったからそれで良いし、稲や麦が無いから千歯扱きも必要性は無さそうだね」
楓も納得したところで大工に声を掛けて唐箕制作が今日の仕事になりそうだ。