1・どうやら異世界に召喚されたらしい
今日も仕事を終えて家路についたのだが、気が付くとなぜか石壁に取り囲まれていた。
何を言っているのか分からないと思うが、自分でも何が起きたのか分からない。
唯一、安心できることといえばそこには複数人存在するという事だろうか。
「え?どこ、ここ」
「ちょ、何?どうなってるの?」
「何だよ、これ!」
そんな騒ぎを引き起こしてる集団を見るとなぜか安堵感が先に立ってしまい、パニックにならずに済んでいる。
「$%&”#$!」
そこへ、何を言っているのか分からない連中が入って来た。その恰好がまた、何ともマンガやアニメでよく出てくるファンタジー世界の神官に貴族だ。
「おい!なんだよコレ!」
集団の一人がそう声を上げた。
「##$%&!」
きっと、静まれとでも言っているんだろう。そんなジェスチャーをしている。
「何言ってるか分かんねぇ」
また別の人物がそう言う。
「&$%み#%ぷ」
何だろうか。何か問いかけているらしいが、まるで分らん。
「わかんない!」
集団の一人がそう叫んだ。
「#&#!##$まま、み~%」
今度は神官らしき人物が手を広げてそんな事を言っている。何をやっているんだろうか?
「召喚者たちよ、これで言葉が分かるのではないか?」
神官がそう言った。
「すげぇ!わかる!」
「それ、魔法?マジ魔法?」
集団から驚きの声が上がっている。
「いかにも!私は神官長、モヒカである」
なんか、神官が威張っている。
「よくぞ召喚に応じてくれた」
なんか、そんなありきたりなセリフを吐いている。
「召喚?なにそれ」
集団からもそんな声が上がる。
「其方らは私の高い魔力と勇者としての素養を持つ者への召喚要請に応えたのだ。其方らは高い魔力と勇者としての適性を持っておるのだ。よろしく頼むぞ」
何だか話が見えて来ないようで分かってしまった辺りが怖い。
どうやらファンタジーものの勇者召喚とやらが現実のモノとなったという事だろう。理解したくない現実だが。
「え?なに。じゃあ、俺たちが魔王を倒すの?」
どうやら理解できたのが他にもいたらしい。
「そのとおり!」
神官も歓喜しているらしい。
「では、其方等の適性を見させてもらおう」
まあ、だいたいこっちの意見なんか聞く気は無いだろう連中が水晶玉みたいなものをもってやって来た。
「何?なにすんの」
有無を言わさず水晶玉をかざす神官に慄く集団の女の子。
「其の方は聖女の才がある。赤と出ているという事は、かなりの魔力もある」
「おお!其の方は戦士!この輝く青い魔力は闘気」
そんな感じで各人の前へ水晶玉がかざされる。
「ん?何も出ない。村人だろうか?ほの白い色はあるから生活に支障はしないだろうが・・・・・・」
と言われる女の子が居た。
「其の方は・・・・・・、僅かな銀。錬金、あるいは鍛冶の才はありそうだな」
俺に水晶玉をかざしながらそう言った。
なあ、さっき、あの爺さん、勇者がどうとか高い魔力がどうした言ってなかったか?何だよ、僅かな銀って。
そして、すかさず、さきほど村人と呼ばれた女の子が俺の隣へと連れて来られた。
「あれ、よっくん?」
女の子がそう言う。
「楓か」
どうやら、近所に住む知り合いだった。田舎だから一回り近く違うが、近所付き合いが濃いから妹みたいなものだ。
「さて、では勇者一行はこちらへ」
素案内されるので付いて行こうとすると止められた。
「あ、2人は少々お待ちを」
集団の男女が楓を不安そうに見ているが、声を掛ける勇気はないらしい。
「薄情な奴らだな」
俺がそう言うと、楓は苦笑しながら
「大学入って最近遊ぶようになったばかりだから」
と、言う。
まあ、そんなもんかと俺も思う。俺たちの会話で知り合いだってのは向こうも分かっただろうしな。
俺たちがそんな会話をしていると、先ほどのモヒカンとかいう神官長が現れた。
「集団召喚だから仕方がない。こういう事もあるだろう。知り合いという事も幸いだ。町で夫婦として暮らすと良い」
いきなりそんな事を言う。
「え?ちょっと待って!たしかに、よっくんは顔はイイけど、セクハラオヤジなのに、そんなのと夫婦って・・・・・・」
酷い言い様だな、おい。
何だかんだと楓が文句を言ったが、この世界は予想通りに中世程度の世界らしく、魔法はあるが、基本的に庶民が気軽に治癒魔法だとか錬金薬にありつける訳ではないので簡単に死ぬ世界らしい。
神官も俺たちの身なりを見て高位の子弟と考えていたらしいが、楓が庶民であると伝えると驚いていたくらいだからな。
「とにかく、せくはらがよく分からんが、ここではそのくらいの年の差はありふれたモノだ。其の方には戦いの適性が無い。そして、そちらの男は錬金師の適性がある。聖剣の様な大それた業物は無理だが、生活に困ることは無いぞ?それとも、奴隷や娼婦が良かったのかな?」
異世界に何の適性も無しに1人で放り出されても何もできない。たしかに、神官の言う通りだ。
「マジでぇ」
嫌そうに楓がそう言ってくる。
「知らん奴より良いだろ?」
軽くそう言う俺。
「知ってるから嫌なんだけど!」
そう返された。